09 魔王の筆頭騎士
【魔王の筆頭騎士】
目映い光が収束して目を開ける間もなく。
「魔王陛下〜〜〜」
ドスの効いた声とドスドスという足音が迫ってきて、美夜はビビって身体をビクっと震わせた。
「リーク。陛下がびっくりされている」
美夜を抱えたアーディが、さっと美夜を遠ざけるようにくるりと後ろを向く。
振り回されて、わわわ、っと美夜は声を上げるが、しっかりと抱えられていて安定感は抜群だ。
そのままふわりと下ろされて、美夜はアーディ越しに先ほどの声の主を見る。
ドスの効いた声に合うがっしりした図体を小さくして申し訳なさそうにしている一人の男性。
灰色の髪に灰色の瞳。髪のサイドとバックを刈り込んだ美夜の世界でよく見る若者の髪型をしている。でも年齢的には壮年といったところだ。二十歳そこそこに見えるアーディより年上に見えるのに、アーディに怒られている姿はなんだか大型犬がしかられてしゅんとしているようで可愛く見える。
「リーク、ここは? 明らかに王宮ではないでしょう」
アーディの問いに、美夜があたりを見渡せば、確かにシングルサイズのベッドが一つと小さいテーブルがあるだけの8畳ほどの広さの部屋。なんの装飾もなく、とても質素な雰囲気は王宮という言葉に似合わない。
「そ、それが、大変なんだ!」
リークはそう言うとアーディの肩をがっしりと掴んだ。
前魔王が崩御して一ヶ月。
通常魔王の力が減退した頃に次代の魔王が誕生するものだ。だからこそ玉座がそれほど空いているのは異常事態といってもいい。
アーディとてそれは承知しているから、この数ヶ月、前魔王の力が弱まってきてからずっと新魔王を探し続けてきたのだ。
アーディは筆頭騎士といっても前魔王の世代では、ただの騎士団の一員だった。それを新魔王の筆頭騎士に任命したのは前魔王だ。
筆頭騎士というのは、その世代の自分の王の為にのみ尽くす騎士だ。それは力が薄れ始めた魔王が次代の魔王の為に選出する。神からの啓示か魔王の感なのかは分からないが、そうして魔王付きの筆頭騎士が代々続いている。
アーディが次代の魔王の筆頭騎士に選ばれたとき、魔界を護る魔王の力になれることを誇りに思い、自分の王に会えることを心待ちにしていた。
だというのに新魔王は現れなかった。
アーディも力を尽くして探したが、魔王の玉座は1ヶ月もの間空席となってしまった。
これにはアーディも頭垂れた。己のせいで新魔王が現れないのではないかとも思いもた。
そうして我慢できず市井に降りて足で探していたところ、美夜の呼ぶ声が聞こえたのだ。新魔王が呼んでいるということはすぐにわかった。
細い糸のような召還の光を、リークの召還術で無理にこじ開けてもらい美夜の元に行くことができたのは僥倖だった。
そうしてやっと新魔王を魔界にお連れできたというのに。歓迎されるならわかるが、こんな隠れるように召還されるとは。
いぶかしがるアーディに、リークは爆弾発言を落とした。
「新魔王が王宮に現れたんだ!」