逃亡しようそうしよう(後編)
断言してしまうと俺は小難しい事を考えるのには向いていないのだと思う。
だってほら、料理やって好きな相手とまったりしてるだけで幸せになれる人種なんだから。
異世界に来た事で、俺は色々と考えすぎていたらしい。
「……行かれるのですか?」
「うん」
だからそんな悲しそうにされても、あんまり心が痛まないんだ。
ああ、俺って案外冷たい人間だよな、とかちょっと思うけどそれだけだ。
だからドバーンとかがターンとか、それこそ何の音だと思えるドアの向こうの音は全無視出来る。
「セーナ、お前ぇぇぇ!!!」
ドアを必死で抑えつつ横で叫んでる騎士団長はとりあえず見なかった事にして転移して森に帰ろうと思います、聖名明です。
☆
結局勇者と逃走して3日後。
あまりの暇さにキレたのは俺だった。
「つーか大体なんで俺逃げてんの?」
「知りませんよー。この世界に味噌とかあるんですね煮こみ美味しいです」
「ああ、それ? 王都だけあって特産物の集まり具合はピカイチなんだよな。俺も味噌醤油が存在するとは思ってなかったけど、それさえあれば結構なんでもモドキで作れるよな、って違う!」
ナチュラルに話をずらす勇者に突っ込みつつ、俺は味噌煮込みうどんを口に入れる。
うどんはまあ、小麦粉あれば出来るよねー。うどんもどきっぽくなるけど。
「逃げたのは聖女に捕まらないためですよね」
「うん。捕まったが最後、既成事実を作られるようなそんな恐怖感しかなかった」
「ですよねー。あの聖女、神鳥を見る目やばかったですもん」
どこから出してきたのかMY箸でうどんを食べつつ、勇者は小首を傾げる。
ちなみにスノーは1日ぐらい経ってから森に飛んできて今は勇者の横で器用にうどんを1本1本つるつると吸い込んでいる。
おい鳥、喉詰まらせるなよ?
「あれ? じゃあとっとと逃げた方がよくないです? そのうち軍隊とかで森攻略しようとかし始めるかもしれないですよ」
「ここって軍隊でどうにかなんの?」
「そりゃー丸ハゲにすればなんとかなるんじゃないです? 死者とか出まくるので普通森に入ってこようとかしない筈ですけど、あの聖女ですし……」
やりかねないですね。
あっさり言いながら御馳走様ーとのんびり言う勇者との温度差が相変わらず酷い。
俺は悪寒しか感じないんだけど、ふう熱いとかうちわ使ってあおいでるんじゃない!
あの聖女は神鳥のためなら兵士も使い捨てるって言ってるよなこれ?
末おそろしいわ!
そろーっと緊急クエストのウィンドウを見るが、クエストは一時停止で止まっている。
さすがに森にまで入って捕まえようとかそんな無謀な事はないようだった、一安心。
「セーナさんがここに止まってるのって、婚約者がいるからなんですよね?」
「あ、ああまぁな。一応世話になったし、聖女の面目潰したら彼女の立場がなくなるような気がしてさ」
「でも聖女の狙いってセーナさんとの結婚なんですよねー? どっちにしろその婚約者との結婚って無理ぽじゃないです?」
「え? なんで?」
聖女をないがしろにすると騎士団の面子が丸潰れ→婚約者に迷惑がかかる。
聖女を懇意にすると婚約・結婚まで発展する→婚約者と結婚無理ぽ
婚約者と結婚する→騎士団・国の要求に俺も答えなくてはならなくなる→聖女と結婚(一夫多妻)→どう考えても聖女に婚約者が負けて別の国に連行される。
……………………………。
「OH。婚約まで詰んでた!?」
「今気付いたんですか」
「あ、あれ? じゃあもしかして、俺、……差し出されてた?」
サルディナさんと一緒にいったのに、いつの間にか一人にされたのは。
もしかして国総出で俺を差し出したとかそんなオチ?
婚約者を連れて行って牽制するつもりが、婚約者の報告聞いた国がこれ幸いと仕組んだとかそっちの方がありえそうじゃねーか……。
もしかしたら婚約者が差し出したのかも、しれないけど。それはさすがに考えたくない。
「……なんか、すげぇ腹立って来たんだけど……」
「理不尽ですよねー」
「わかるか?」
「わかりますよ。僕もなんかいきなり召喚された上奴隷にされましたから。ふざけてますよねー、大国の権力って」
にこー、と口は笑っているが目が笑っていない。
つか、怖い怖い怖い!! その黒い笑みを俺に向けないで!
ああ、でも、そだよな。
好きにいきられない人生に何の意味があるだろうか。
「ねー、セーナさん」
「ん?」
「その婚約者さんと一度話に行ってきたらどうです?」
「話に、って」
「だって聖女に目をつけられてる時点で結婚無理じゃないですか。どうしたいか相手に聞けばいいのでは?」
そ の 手 が あ っ た か!
つかそもそも、目を付けられた時点で詰んでるじゃん。
俺、この国で料理人としてももう生きられないって言われてるんだよな。
国が俺を差し出した時点で、俺はいらない子になったんだろ?
「……いってくるわ」
「なんかあったら呼んでくださいねー」
「呼んだら来んの?」
「いえ。無理です」
呼ぶのに何の意味が!?!
聞いたら気分ですよ気分って言われた。意味わからん。
「ま、自力で戻って下さい。手伝い必要だったら一緒に行くんで」
「それ捕まったら無理じゃね?」
「どうやったら捕まるんです? ある程度力を相殺する僕ならともかく、セーナさんなら国ごと吹っ飛ばせますよ?」
「君はどうやっても俺を危険人物にしたいのな!?」
「まさかー。僕と一緒に指名手配人物になろうとか思ってませんよー」
なってんのかよ!!!!
☆
そして冒頭に、戻る。
転移ポイントとして騎士団長の部屋をメモっていた俺は、侵入なんて簡単だった。
突然現れた俺に、慌ててドアを押さえて他人が入れないようにした察しのいい騎士団長を横目に、俺はただ彼女に問いかけた。
俺にどうして欲しいか聞いた時に、彼女はただ目を伏せただけだった。
それだけでわかってしまった。
彼女にとって大切なのは、俺ではなくて生まれた国の方だと。
「……さよなら、サルディナさん」
「セーナ……!」
「アキラ、さま」
好きだったかと言われるとよくわからない。
でも嫌いじゃなかった。それは確かだから。
「……鳥、いなくなっても大丈夫だよね?」
「元々いなかったのです。鳥を移す代わりに加護と繁栄を約束されたら、王としても助力を断る必要がなかったのでしょう」
「俺が受けるわけないのにね」
「聖女の美しさは、折り紙付ですから……」
淡々と答えをくれる彼女は、少しだけ悲しそうだった。
俺はただ笑って逃走する事に決める。婚約に関してはもう丸投げでいいんだと思う。
だってもう俺の手から色々離れちゃったし。
「セーナ、俺は!」
「騎士団長ももういい歳なんだから、身体に気を付けてー」
婚約者よりもよっぽどヒロインしてる騎士団長とかさすがに見なかったふりをしよう。
悲壮感漂う彼にも笑いかけ、俺は森へ転移した。
「さーて、国外逃亡しようか」
「僕も違う国行こうと思ってたところですし、お付き合いしますよ」
あれ?
勇者と逃亡ってむしろ勇者のが危険人物なんじゃね?
むしろ俺勇者の逃亡手伝いとかで指名手配とかされね?
実は普通に逃げるよりひどいんじゃないかとか思ったけど、まあもう旅は道連れって感じか。
「あれ?」
「どうしました?」
「そういえば俺、どうして聖女見ようと思ったのに聖女から逃げたんだろ」
よくよく考えたら、聖女に惹かれたら別に聖女と結婚すれば良かったんじゃ。ね……?
あれ俺なんで自分から出会い潰したんだっけ??
どうせ逃げるなら見てからのが良かったんじゃ。
「ああそれはたぶん、神鳥の加護じゃないですかね。ほら、身の危険的な。大体聖女って魅了持ちで割とブサイ……」
「そうか俺は何も聞かなかった! 本能って本当に素晴らしいな!」
視界の隅に緊急クエストが強制終了されました、の文字。
逃げるでもなく、根本の婚約自体が潰れたからクエストも潰れたのか。
ぴこん、と違うクエストの音が鳴る。
ああ、これでいつも通り……。
『クエスト:国外逃亡
内容:聖女の無差別魅了攻撃から逃げよう! っていうか聖女様が本気すぎるキャー☆』
「ってなんじゃそらあああ!!!」
「あ、すごい。森に何か霧がかかりそう」
「逃げるぞ!」
全速力で転移ポイントを選びながら俺はいつも通り、叫ぶ。
「なんだってこう、問題しか起きないんだよ!?」
「くるー」
「人徳じゃないですかねー」
何の人徳だよいらねぇ!
こんな問題だらけの異世界よりも、平穏無事な現世に俺を。
俺を帰してくれええええええ!!!
と言う事でいつだって問題だらけだよ★
という〆で一旦完結、とさせていただきます!
ネタが思い付いたらまたこっそり更新すると思います。
ご愛読ありがとうございました!




