旅は道連れ
旅に出たいと言ったなら。
城中がひっくり返すような騒ぎになったとです、聖名明です。
旅ぐらいいいじゃんケチ。
「ケチとかそういうレベルの問題だと思ってるのかお前はぁああ!!!」
現在、俺は正座です。
目の前には怒り狂う団長。
うーん…どうしてこうなった?
☆
転移魔法を覚えた俺は、王都をあちこち歩きつつ、自分の転移ポイントを作った。
光ゴケを収集した洞窟とかもね。まあ勝手に取ると怒られそうだから取って来なかったけど、あの洞窟の周りも結構いいきのことか生えてるんだよ。
後は自分の部屋とか、寝坊した時のために更衣室前の廊下の人がこなさそうな処とか。
ところで転移するとき転移ポイントに人がいたらどうなるんだろうね。
でも毎回、部屋に戻る時に転移ポイントがずれてたりもするので大体の位置に飛ぶように出来てるだけなのかもね。
あ、そうそう、無詠唱でも飛べるようになった。
ウィンドウを開かないとポイント飛べないのかと思ったら違ってて、ウィンドウが出るのは登録箇所が何箇所かを示すだけのものだったっぽい。
最初ぽちっと押しても説明しか出ないんで焦った。
飛びたい、って思ったら飛んだからいいんだけどさ。
それはそうとして、転移を覚えたらやる事はアレだよ。
アレ。
転移ポイントを増やそうとするならばやらねばなるまい、アレを!
「別に他の街に遊びに行くぐらいいいじゃん」
「お前は…自分が国家機密レベルの貴賓だってわかってんのか…!」
「ええー。でも国から出るわけじゃないし」
や ろ う ぜ 国 内 観 光 !!
王都の観光も終わってないけど、他の都市とか転移ポイントとして覚えたらいつでも行けるわけですよ。
王都の食事事情はすごいものだけど、名物とかってやっぱ場所が変われば変わるじゃん?
せっかく転移覚えたんだから、やってみたくなるのは自明の理ってやつで。
でもほら、いくら敵に会わないとは言え野営とか無理だしー。
騎士がついて回ってくるから、部屋から出てないのにいつの間にか不在とか不自然だから転移はなるべく使いたくないしー。
はじまりの森に行くのも最近では止められるから面倒なんだよねー、よっぽどこの前の遅刻がまずかったのか。
閑話休題
近くの都市だけでいいからこっそり転移ポイントに登録出来たら楽しくね?
行くまでの道案内が欲しいだけなんだけどなー、俺。
迷子になりそうだし。
「神鳥が王都から出た時点で、神鳥に見放されたとか噂を流されたらどうするんだ!!」
「あー、じゃあスノーおいてくし」
「お…っておいて行けるのか…」
スノーはくるーぅ? と首を傾げてるが、まあ、大丈夫だろ2,3日くらい。
呼んだら超特急で来そうだけど。
「多分?」
「はあ…。お前は旅に出て何がしたいんだ、大体」
「あ、食べ歩き」
「………………………」
ち、沈黙が痛い、痛いよーー!!
でもさでもさ!
俺だって言い分はあるんだよ!?
「大体俺、なんで行動制限されなきゃいけないの?」
「セーナ」
「俺はただの料理人で、変な鳥は飼ってるけど、俺自身はただの人なんだぜ? 俺を利用するだけ利用して、俺に利用させないって酷くね?」
団長は難しい顔をしている。
俺が、ただ流れてやってきただけの俺が、行動制限をされている事だけはわかっているのだろう。
「俺はこの国の人間じゃない」
「…セーナ!」
「俺がこの国を守る必要だってないんだって、団長は気付いてんだろ? だから俺に見合いしろって言ったんだろ?」
「……」
守る者がなさすぎると叫び、娘と引き合わせた彼ならわかるはずだ。
俺が、今の俺の立場がどれだけ曖昧なものであるかを。
「それは…誠意を見せろ、ってことか」
「そんな大層なモンじゃないけど」
俺はこの国が嫌いじゃないし、今は出ていきたいと思ってるわけじゃない。
強制で何かをさせるわけでもないし(見合いはやったけど)、料理を作りながら日常をただ過ごしている。
それが、許されているだけでも本当はすごい譲歩なんだろうと、どこかで気付いてる。
それでも、譲れないモノはあるんだ。
「……国内観光なら、あれでいけばいいんじゃないか」
かなり長い沈黙の後、呟き出された台詞。
「あれ?」
首をこてんと傾げると。
団長様はいい笑顔で仰った。
「新婚旅行だ!」
ぽぽーん。
『クエスト:国内漫遊
報酬:お嫁さん? きゃっ(照)』
………………………………。
ないわ!!!!!
「だーーーーんーーーーーちょーーーーうーーーー?」
「う…っ、だ、だってな、それくらいの保障がないと、さすがに国内とは言え王都から出すわけには…警備の都合が…」
「そんなんしるかああああああああああ!!!」
もういい、俺は、勝手に、行くぞー!!
迷子? 上等!
城出しちゃるわああああ!!!
出ていくまで逝かなかった…。




