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第21話 光り物

「格好つけてんじゃねえよ! 鼻垂れが!」


 怒号と共に突っ込んでくる男に対し、私は手にした刃を思い切り振り抜いた。だが、素人の私の反撃など、実戦を潜り抜けてきた彼には容易くかわされてしまう。葉先が、男の頬を薄く切り裂いただけだった。


「甘えんだよ、馬鹿が……!?」


 勝ち誇ったように笑った男の動きが、その瞬間、ピタリと止まった。


「がっ……! 身体の力が……抜け、痺れ……!?」

「だから言ったでしょ。『麻剣』だって」

「まさか、麻酔か……!?」


 ドサリと、その場に力なく崩れ落ちる男。彼の握っていた不気味な剣も、手から滑り落ちた。


「俺と同じタイプ……掠れば勝ちとはな……」


 驚愕と諦めが入り混じった顔で、男は私を見上げる。底の見えない、ひどく暗く濁った瞳だった。


「俺は……こんなところで死ぬのか」

「死なないわ。仮死状態にして、眠らせるだけよ」

「は? どうしてトドメを差さねえんだよ?」

「殺したくないからよ。誰も」


 私が淡々と告げると、男は毒気を抜かれたように呆れて、長く息を吐いた。


「……悪徳令嬢様は、髪だけじゃなく心の中までおめでたい光り物ってわけか」

「10年前の私なら恐らく、あなた以上に汚い人間だったと思うわ」

「それが、どうしてこんな風に育ったんだ?」

「私を、根気よく磨いてくれた人がいたの。乱暴な言葉遣いも、身勝手な振る舞いも、私が周りの皆に好かれるようにって……何度も何度も叱って、直してくれた人がね」

「俺でも、いつかは輝けるとでも?」

「それはわからないわ。でも、あなたが無理に光る必要なんて、実はないんじゃない?」


 極限状態の中で、割と脳死で口から出た言葉だった。綺麗事かもしれない。でも、彼にとっては効果覿面だったらしい。


「周りが眩しければ、みんなを輝かせれば。照らされる人生だって、きっと素晴らしいものよ」

「……まあ、確かに俺は……自分から暗くて不潔な場所にばかり潜り込んでたからな」


 男は憑き物が落ちたように、目を閉じた。


「あなた、名前は?」

「……ヴィアダル」


 静かに、死んだように深く眠りにつくヴィアダル。いびきをかいて眠るその寝顔は、今まで殺気が嘘のよう。結構可愛いわね。ブルドッグみたいで、愛嬌があるじゃない。

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