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お読みいただきありがとうございます〜!





 公務を放棄し、自身の趣味に興じているうちに亡くなるだろう第二王子殿下の婚約者への慈悲深い救済措置として、自分の側妃に召し上げよう。


 ご本人主催の夜会でショーン第一王子殿下がわたくしに提案してきた話は、3日も経てばゴシップの種として貴族社会にすっかり広まってしまった。

 自ら一度縁を切っておいて、元々13年間自分の婚約者だった令嬢を再度召し上げるという考えは、当人の中では周囲からのイメージアップにつながる都合の良いものだったらしく、ショーン殿下側はその噂を一度も否定しなかった。おかげで、ショーン殿下の現ご婚約者であるパトリシア様のお家、ランズマン家からキッカー家への風当たりが余計強くなるばかりか、わたくしが次期王妃として返り咲く可能性を見た、風見鶏な性質のご貴族方からのお声かけが一気に増えて、正直非常に面倒くさいことになった。

 早めに家族へ相談していなかったら、今頃あちこちに引っぱりだされて引きずり回されて、本当に倒れていたかもしれない。


「ヴァン、少しお腹周りがふっくらしたのではなくて?」

「……気づいてしまわれましたか」

 従者と共にタストロの木に囲まれた道を歩いて、美味しそうな匂いのする白い屋根の丸太小屋へと向かいながら、わたくしは自分の頬回りを確かめるようにこっそり撫でる。それから、夜会から一週間もしないうちにここまで自由に動ける環境を作ってくれた家族に感謝をした。






 夜会とロビン殿下へのお見舞いのあと、家に帰ったわたくしは着替えもしないで父と母と兄が揃うのを応接間で待った。そしてショーン殿下にされた話を脚色せずに伝え、家族の顔に困惑と怒りが浮かんだことに励まされながら自分の気持ちを述べた。

「わたくしはショーン殿下の元に嫁ぐくらいなら修道院に入りたいと思います」

「母親として全面的に支持します。王族なら何をしても許されると思っていらっしゃるのねお小さい時からそういうところはございましたけれど、ここまでわがまま通り越して暴虐暴君でいらっしゃるとは今からこの国の未来が心配で心配で仕方ありませんわ。暴挙を許している陛下も陛下です。お若いころの浮気の証拠をすべて王妃殿下にあらいざらい」

「私も父としては全面的に支持するが、まだケイティの話は終わってない。聞いてやろう、クロエ」

 感情の制御が巧みで、いつも微笑みを絶やさずにいる淑女の手本のような母が、今にも王宮へ抗議に向かいそうな様子で息まいているのを落ち着かせつつ、父は兄に頷く。兄は頷き返してわたくしを見た。

「なにか考えがあるんだろう?」

「……これまで大切に育てて頂いた恩をあだで返すことになるかもしれません。万一キッカー家が取り潰しになってしまうような事になったら、わたくしを遠慮なく斬り捨てていただきたいのです」

「! ケイ、」

「お前の気持ちはわかった。それで何をするつもりだ?」

 口をはさみかけるのを父に手を握られてぐっと堪えた母は、父と兄と視線を交わしてから心配そうな顔のままこちらを見やる。わたくしは家族に頷き、口を開いた。

「ロビン殿下に、玉座にお就き頂くために手を尽くします。」


 同じことを口にしたとき、ロビン殿下ご本人に同じ表情をされたばかりのわたくしは、やはり討伐隊の本来の役割を知っていた父と兄に前途の多難さを切々と語られても、母にいよいよ泣かれても撤回をしなかった。

 最終的に「娘/妹を守るために家族が手を尽くしてもいい」という条件をこちらも飲むことで家族の了解を得て、その後の交渉という名の打ち合わせの末、わたくしは現在体調不良を理由に、望まぬ貴族との交流を徹底的に絶つことに成功した。その対象に王家も含まれていたのは、非常に頼もしい家族から後になって聞かされた。






 ロビン殿下がご療養中で、魔物討伐どころか王宮から外へ出ることもままならない今のうちに、わたくしはマルクさんのレストランへ通っていた。目的はおいしい食事だけではなくて、魔物討伐隊の情報を集めることだ。この国が魔物に脅かされる機会が多いということを徹底的に秘匿したい国そのものによって、被害者すらも口止めされている今の状況下で、“討伐隊が決して道楽に興じるための組織ではない”という証拠を少しでも多く集めなければならない。


「ロビンさんを次の王様にするっていう野望はわかったけどさ。結局ロビンさんに聞けたの? “本当は国民を守る仕事をしてるんですか”って」

 エドさんの言葉に思わず顔をしかめたわたくしは、顔と同じようにくしゃくしゃにしてしまったばかりの地図をテーブルの上で伸ばしながら弁解した。

「自分の気持ちをぶつけるのにいっぱいいっぱいで……」

「え? それじゃ、ただ自分がお妃様になりたいだけって思われちゃわない? ……ですか」

 マルクさんがテーブルに近づいてきた気配に姿勢を正したエドさんに、わたくしはため息をついた。

「王宮でショーン殿下に変なことを吹き込まれていないかが心配です……下さるお手紙で何も触れられていないのが逆に怪しくて」

「会いに行ってやりゃあいいのに……痛っ」

「第一王子殿下から一番逃げたいお嬢さんが本陣に行けるわけねえだろ。……で、今日は何を知りたいんだ?」

 間近でげんこつが落ちた音に一瞬身をすくませたわたくしは、マルクさんの言葉にうなずいてテーブルの上の国内地図に視線を落とす。そして、家で一番大きかった鞄の口を開き、中から十日分ずつ束にした封筒を取り出す。

「討伐隊の皆さんにうかがって、この一年で派遣された地域に印をつけたこの地図に、ロビン殿下のお手紙で触れられていた地名や魔物の情報を書き加えて、移動方法からかかる時間を推測して具体的な派遣日を絞ろうかと。人前で討伐隊のことを暴露することになったとして、情報が曖昧では信ぴょう性がありませんから。量も多いので今日はお二人の手を少しお借りできたら嬉しいです」

「手伝うのは勿論かまわないけど、その……人が隠れられそうなその鞄の中身、もしかして全部ロビンさんからの手紙? ……ですか?」

「はい」

「こうしてみるとあいつも中々……」

 口元を抑えたマルクさんとエドさんの様子に首を傾げつつ、わたくしは鞄から順々に封筒の束を取り出しながら先をつづける。

「届いた日付順には並べてきたんですが、考えたら、必ずしも届いた日と手紙が書かれた日が一緒にはなりませんよね……曖昧なところが残るのが残念ですけど、何も無いよりは……」

 全部の封筒を取り出すとテーブルの上の地図がほとんど隠れてしまうのに気づき、鞄に入れようとした手を一旦止めたところで、大きな音を立てて店の扉が開いた。

「マルク! チキンソテー食べたい! でっけーやつ二人前!! んでエド! バゲット厚めに切って……あれっ? ロビンの婚約者のえーと、カ……、カーリーさんじゃ~ん! 去年の3月15日ぶりだね~! 元気だった?」

 小柄で元気な討伐隊の一人であるヒューさんは、飛び跳ねるようにお店の中へ足を踏み入れると、わたくしに気づいて手を差し出してくれた。

「ケイティですヒューさん、お久しぶりです! いつお戻りに?」

「そうだ、ケイティさんだった! ついさっき戻ったんだ! 仲間と交代してすぐ馬車飛ばしてもらっちゃった! ずーっと腹減っててさあ!!」

「ふふふ、今日はお腹いっぱい召し上がれますわね」

 ヒューさんの笑顔につられてニコニコしながら握られた手を上下に振られているうち、わたくしはふと思い当たった。

「うるさい奴が来た」と文句を言いながら料理をし、楽しそうに持ってきたマルクさんからお皿を受け取ったヒューさんに、わたくしはそっと深呼吸をし、さりげなくを装って尋ねることにした。


「ヒューさん……、今回の討伐は何日から行かれたんですか?」

「んー? 2月4日からだよ~! 2月23日でロビンが抜けちゃったから期間が伸びたんだあ。でもロビン死なないでよかったな! シャリネズミっていうスゲーデカくて凶暴な奴に噛みつかれて毒爪に引っかかれまくったのにちゃ~んと退治して、村のお子さんを二人も抱えてきて偉かった! 腹いっぱいになったら見舞いに行くよ!」

「そうだったんですね……」

 できたてのチキンソテーにかぶりつき、はふはふと口から湯気を逃がしながら、ニコニコと討伐の様子を詳細に答えてくれる彼に、わたくしは手紙の一つをこっそり開いてもう一つ尋ねた。

「あのう、ヒューさん。殿下からのお手紙に、ダコラ渓谷で大きな虹を見たとあったんですが、いつ頃の時期だったか覚えていらっしゃいますか?」

 早々に一枚目のチキンソテーを平らげて、マルクさんに空になったお皿を指してお代わりをねだったヒューさんは、すぐに答えた。

「ダコラの虹なら去年の10月12日だね! 9月27日からオットーグリズリーの足跡をずーっと追ってて、10月1日に根城を見つけて、そっからまた結構かかったよな。やっと討伐できて本当にホッとしたよ~!」

「ジーズー湖でヒューさんがご活躍されたのは……」

「去年の8日23日! ちゃんと書いといてくれたんだ! 偉いな~ロビン!」

 たまたま手紙に記されていた日付を確かめて、わたくしは息をのむ。それからつい、欲を出した。

「……ロビン殿下が、リクラドラゴンを退治した日を覚えていらっしゃいますか」

「あ~俺そん時一緒じゃなかったんだよねえ! 鱗石を心臓の上に貼ってたのを見せてもらったのは三年前の8月2日だよ!」

「……そうなのですね、ありがとうございます。」

 さすがに、自分がロビン殿下の婚約者になってから得たものの訳がないか。胸元のネックレスに触れながら内心がっかりしていると、エドさんがこちらを楽しそうに眺めていた。

「なにか……?」

「いや、あんた、思ってたより顔に出るなと思って」

「!」

「エド、そういうのは言ってやるな。ほらヒュー、おまけ」

「ええ~! いいのお!?」

 外から見てもわかるくらい欲を出しすぎたのを一旦反省しつつも、美味しそうにチキンソテーを頬張るヒューさんのおかげで、わたくしは目の前の地図に書き込めることが増えたことを確信した。それでも喜んでばかりいられなかったのは、印をつけた地名にことごとく聞きおぼえがあったからだ。




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