029 シャーロット②
俺達が塔を出た瞬間、空に鐘の音が響いた。
凄まじい音量だ。街のどこにいても聞こえるだろう。
にもかかわらず、耳が痛くなるような五月蠅さは感じない。
心地よい音色だ。
「なんだ、この音」
と俺が言った瞬間、塔が光り始めた。
全体が金色に輝いていて神々しい。
その光は頂上部分に集まっていき、天に向かって金色の光線を放つ。
光線は雲を貫き、どこまでも伸びている。
「来たぞ! 文人だ!」
「他のメンバーもいるぞ!」
街に戻った俺達を待っていたのは――大量の人だった。
360度どこを見渡しても人、人、人。
冒険者だけでなく現地人も集まっていた。
「お前らすげぇぞー!」
「塔をクリアするとか最強かよ!」
「レベルも高過ぎなんだよどうなってんだ!」
そこら中から歓声が上がっている。
響き渡る鐘の音をかき消すほどに大きい。
「ここにいる皆、俺らを祝福する為に集まったのか?」
「どうやらそのようですわ」
「凄い数なのデース!」
「本当にね。何人いるの? 10万!? 100万!?」
俺は「さぁ」と苦笑い。
「よく分からないが、とりあえず……」
俺は思いっきり右手を突き上げて叫んだ。
「勝ったぞぉおおおおおおおおお!」
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」
地面を揺らすほどの大歓声が起きた。
◇
祝福の言葉を浴びまくった俺達だが、その日は早々に解散した。
他の冒険者とも喜びを分かち合いたかったし、勝利の余韻にも浸っていたかったが、それ以上に疲労が限界を超えていた。
宿屋に入って部屋に着くなり俺は眠った。
それから時間は経過して、午前10時。
塔の報酬の選択猶予は残り86時間。
「お待たせして申し訳ございません、文人様」
「いや、俺も到着したばかりだよ。危うく寝過ごしかけた」
アーク内にある噴水広場の一つでシャーロットと合流した。
今日は彼女とデートする日らしい。
女性陣の間で話し合いが行われ、そういうことに決まっていた。
俺に拒否権はない。
「なんだか今日はいつもと違う服装だな」
「思い切って買ってみたのですが……いかがでしょうか?」
シャーロットがくるりとその場で回転する。
エレガントな紅蓮のドレスはまるで炎のようだった。
「カッコイイと思う。俺も新しい服にするべきだったかな」
シャーロットと違って制服のままだ。
ただし、見た目は新品同然の綺麗さである。
宿屋のオプションサービスでリペアしてもらった。
「今のままでいいと思います。文人様の着られている服、かっこよくて私は好きですわ」
「日本の高校生の一般的な服装だけどな」
「日本という国はお洒落ですわね。行ってみたいものです」
俺達は手を繋ぎながら街の中を歩く。
指と指を絡めて、端から見れば恋人そのものだ。
「なぁ、本当に歩くだけでいいのか?」
当てもなく彷徨う、というのがシャーロットの希望プランだった。
「問題ございません。元の世界の私は今みたいに好き勝手歩き回ることができませんから。籠の中の鳥なのです」
「王女は大変なんだな」
会話の内容は互いの国に関する話が多かった。
テンベロッサ公国は小国で、両隣に大国がいるらしい。
そしてその二国は対立しており、緊迫した状態が続いている。
両国と親交のあるテンベロッサ公国は板挟みの状況とのこと。
「次はあちらのお店に売っている物を食べませんか?」
「いいぜ。でも、食い過ぎると太るぞ?」
「きょ、今日はかまわないのです! 太っても痩せます!」
適当な店に入っては食べ物を買う。
それの感想を言い合ったら、また新しい話題で盛り上がる。
で、道中に良さそうなテイクアウトの店を発見し、入っていく。
この流れがずっと続き、気がつくと夜になっていた。
「晩ご飯は省略でいいか? 俺、全く腹が空いてない」
「私もですわ……」
隙あらば買い食いしたせいで、俺達のお腹は微かに膨らんでいた。
そんな状態なのでディナーの必要はなく、早々に宿屋へ向かう。
シャーロットの希望で、俺達は同じ部屋で夜を明かすことにした。
「再びこうして文人様と一緒に過ごせる日を待ちわびていました」
部屋に入ると、シャーロットが抱きついてきた。
「ボスゴブリンと戦った時以来か」
「はい。あの時から私、ずっとしたかったことがあるのです」
「したかったこと?」
シャーロットがニヤけ顔を向け、俺の頬を思いっきりつねってきた。
「痛ッ、何するんだよ!」
「私を放置して出て行った仕返しです!」
「放置っていうと……」
「起きたら文人様がいなくて悲しかったのですよ、私!」
「ああ……」
そういえばそうだったな、と思い出す。
「人生で初めて殿方と同じベッドで過ごしたというのに、その殿方が起きたらいなくなっていたのです。しかもスマホを確認したら悪びれる様子もなく『またな』とだけ書いてありました。日本ではどうか分かりませんが、テンベロッサ公国ではとてつもないマナー違反ですわ」
「そう言われると……酷い奴だな、俺は」
「本当ですわ!」
と言いつつ、シャーロットは笑う。
「でも、こうしてまた一緒に過ごせるので許してあげます」
「ハハ、すまないな」
シャーロットは俺の手首を掴むと、ベッドまで連れていった。
「私がこうして文人様と二人で過ごせるのはこれが最後になるでしょう。ですから、思い残すことがないよう、今宵はどこまでも私のお相手をしていただきますわ」
ベッドに押し倒される俺。
シャーロットは俺に跨がり、妖艶な笑みを浮かべて見下ろす。
「寝かせませんよ、文人様」
そして俺は、シャーロットに骨の髄まで堪能されるのだった――。
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