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025 再会

 かつてない大敗の理由はレベル差補正にあった。

 一体どういうことなのか。


 振り返ってみよう――――……。


「汝も懲りないな」


「目標は達成してこそ意味があるのでね」


 こうして戦闘が始まった。

 いつもの如くミカエルとウリエルが詰めてくる。

 俺はそれを迎撃しつつ、キューピット隊の攻撃を待つ。


「放て!」


 ガブリエルの合図で、キューピット隊が矢の雨を降らせる。

 いつもはミカエルとウリエルを盾にするが、今回は腕で弾いた。


 その時に袖の状態をチェック。

 繊維にダメージが入っていないことを確認した。


(レベル差補正は機能している)


 そう判断した俺は戦い方を攻撃に偏重させた。

 当然ながらこれまでより隙が増えるけれど関係ない。

 警戒するのはミカエルだけでいいからだ。


「させぬ!」


 ミカエルとの戦いにラファエルが加わる。

 だが、ウリエルとキューピットの攻撃を無視できるなら問題ない。


 俺はラファエルを適当に抑えつつミカエルに迫る。

 そこへ迫ってくるキューピットの矢。


「きかねぇよ!」


 その言葉通り、矢は俺の背中に当たると弾かれた。

 何本かは首にも当たったが問題ない。

 レベル差補正によってノーダメージだ。

 痛くないどころか、当たったことすら分からなかった。


「こしゃくな奴め!」


 今度はウリエルが迫ってくる。

 流石に剣先を向けられるとヒヤヒヤする。

 それでも、俺は戦闘を継続した。


「勝手にやってろ!」


 そう言ってミカエルだけを狙い続ける。

 ――これが失着だった。


「グハッ……! なん……で……!」


 なんとウリエルの剣が俺の腹部を貫いたのだ。


「下界のルールが大天使に通用すると思うたか? 甘いな」


 ミカエルが勝ち誇ったように笑う。

 下界のルールとはレベル差補正のことだろう。


 そう、ミカエル以外の天使にもレベル差補正が通用しなかったのだ。

 矢が効かなかったのは射手がキューピット隊だったからだろう。


「クソッ、撤退だ!」


 俺は煙玉をばらまき、ポーションを飲みながらポータルへ逃げ込んだ。


 ◇


「クソッ、クソッ、クソッ!」


 絶望的だった。


「見えねぇよ、勝ちの目が……!」


 ゲームならバグっていない限り勝ち方が存在する。

 だが、この世界は現実であってゲームではない。

 必ず勝てるという保証はどこにもなかった。


(もしかしたら天使に勝つことはできないんじゃないのか?)


 そんな風に思い始めていた。


 ◇


 その後も俺は無意味な負けを積み重ねていった。

 そして気がつくと、この世界に来てから2ヶ月が経っていた。


 レベルは65だ。

 ここしばらくは上がっていなかった。

 このレベルになると日に1レベルを上げるのも難しい。


 いや、違う。

 上げようと思えば日に2~3レベルはいけるはずだ。

 だが、最近はそこまで狩りの時間が続いていなかった。


 塔の攻略で行き詰まっているせいだ。

 明らかにモチベーションが低下していた。


「今日は……もういいか」


 本当なら今日は塔に挑む日だ。

 だが、俺は休むことにした。

 行くだけ無駄だと思ったから。


 思いつく手は既に試し尽くした。

 それでも更に挑戦し続けた。

 もはや周囲の人間は俺を狂人としか思っていない。

 アイツは頭がイカれちまったのだ、と。


 そこまで頑張っても無理だった。

 だからもうモチベーションが湧かない。


「ん? なんだ?」


 街を歩いているとスマホが鳴った。

 確認すると通話がかかってきていた。

 相手はシャーロットだ。


『お久しぶりです、文人様。今、よろしいですか?』


 応答するなりシャーロットは言った。

 久しぶりに聞く声だ。

 声優のような澄んだ声をしている。


「大丈夫だぞ、どうせ暇だしな」


『ではメインストリートのレイクリングという酒場に来ていただけますか? ご覧に入れたい物があります』


「俺に見せたい物?」


『はい。では、お待ちしております』


 シャーロットとの通話が終わる。


「なんだろう……。とりあえず行ってみるか」


 俺は馬車を手配した。


 ◇


「お元気そうでなによりです、文人様」


 酒場で会ったシャーロットは、前までと雰囲気が違っていた。

 丈の短い黒いドレスや白銀の髪は変わらないのに、オーラが違う。

 なんだか(たくま)しくなっていた。


 俺達は並んで隅のカウンター席に座る。

 営業時間になったばかりだからか、客は俺達しかいない。


「シャーロット、背筋が伸びたか?」


「背筋ですか? それは分かりませんが――」


 シャーロットは微笑んだ。


「――文人様に相応しい女になったという自負はあります」


「俺に相応しい……? 俺なんかよりイイ男は他にもいると思うが」


「またまたご冗談を」


 シャーロットが口に手を当ててお淑やかに笑う。


「いや、本気なんだが……って、それはいい。何を見せてくれるのだ?」


「そうでしたわ」


 シャーロットが指をパチンと鳴らす。

 すると、どこからともなくアイテムが現れた。

 どうやら彼女も〈マジックボックス〉が使えるようだ。

 そして、取り出したアイテムは――。


「ゴブリンロードのマントじゃないか」


「お待たせしましたが、たしかに条件はクリアしましたわ」


 俺が長らく装備しているマントだった。

 ゴブリンのシルエットが入った物で、対ゴブリンで活躍する装備だ。


「これで(わたくし)を仲間にしてくださいますね?」


「そういえばそんな話をしていたな」


 かつてシャーロットと交わしたやりとりを思い出す。

 俺と行動を共にしたいと言う彼女に、俺はこう言ったのだ。


『一緒に行動するのは、お前がソロでコレを手に入れたらだ』


 その時のコレというのが、ゴブリンロードのマントである。


「どうやら私は運がないようで、このマントを手に入れるのに苦労しましたわ」


「ボスのドロップはランダムだからな。SiriNスキルと装備は明らかにレアだ。シャーロットとゴブリンタウンに行った時はそのことを知らなかったとはいえ、今にして思うとクソみたいな条件を出したものだ」


「本当ですよ」と笑うシャーロット。


「おかげさまで昨日まで毎日、レベル上げの後にボスゴブリンを倒す羽目になりましたわ」


「昨日まで毎日って……お前、どれだけのボスゴブリンを倒したんだ?」


「そうですわね……」


 シャーロットはブツブツ言いながら指折り数える。


「50体ほどでしょうか」


「50体!? それも普段の狩りをした後にわざわざ行っていたのか?」


「はい。仲間になってもレベルが低すぎて足を引っ張ると思いましたので、レベル上げも怠りませんでした」


「凄いな。今は何レベルなんだ?」


「42です」


「42!? ソロでそこまで上げたのか!?」


 シャーロットは自信に満ちた目で「はい」と頷く。


「すげぇな……」


 この世界に転移した冒険者の数は10万人。

 その中で、ソロで42まで上げられる冒険者はどのくらいいるか。

 おそらく100人もいないだろう。


「文人様のレベルはおいくつですか? もしかして、私のほうが上回っちゃいましたか?」


 いたずらぽく笑うシャーロット。

 冗談半分で言っているのだろう。


 だから俺も笑いながら答えた。


「65だよ」


「ろ、ろくじゅうごですって!?」


 シャーロットの口から素っ頓狂な声を飛び出る。


「PTを組めば本当だと分かるぜ」


 俺は自分からシャーロットをPTに誘った。


「本当に65ですわ……流石は文人様……」


「シャーロットこそ大したものだ。もはや俺の力など不要だろう」


「そんなことはありません。文人様がいなければ塔の攻略は不可能でしょう。なぜなら文人様ですらソロでは苦戦しているのですから」


「知っているのか、俺が塔に挑んでいること」


「冒険者の間では有名ですわ。それに、フレンドの大まかな居場所はスマホで調べられますので。文人様はしばしば塔に挑んでいますよね」


「そうなんだよ」


 シャーロットの顔が真剣味を帯びる。


「……強いのですか? 塔の敵は」


「49階まではヌルイよ。ソロで42まで上げられたのなら、シャーロットでも大して苦労しないと思う。だが50階は別格だ。取り巻きを3体連れたボスなのだが、取り巻きですら49階までの敵が可愛く思える程の強さをしている。しかし、なによりも厄介なのが――」


 俺は天使のことを詳しく話した。

 シャーロットは適当な相づちを打ちながら聞き続ける。


「――で、為す術がなくて心が折れかけているところだ」


「なるほど」


「こんなことシャーロットに尋ねるのは間違ってると思うんだけどさ」


 そう前置きしてから俺は言う。


「何か名案ないかな? 天使を倒す為のさ」


「文人様……よほど苦しんでおられるのですね。他人に尋ねるなんて」


「まぁな。悪い、忘れてくれ、馬鹿げた質問だった。話を聞いただけのシャーロットに対策を求めるなんてありえないよな」


「いえ、そんなことはありません」


 シャーロットは首を振り、それから微笑む。


「ご安心ください、文人様。名案ならあります」


「……えっ、あるの!?」


 耳を疑う俺。

 そんな俺に、シャーロットは力強く頷いた。


「はい、ございます!」


 雲行きが変わるのを感じた。

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