020 フリック
「なんだか今日は騒々しいな」
そう言って入ってきたのは、20代半ばと思しき金髪の男。
千年騎士団のギルドマスターを務めるフリックに違いない。
「フリック、すげぇ新人が入ったぞ! 俺より遙かにつえー!」
ジャスパーが大興奮でまくし立てる。
「ほう」
フリックは落ち着いた返し。
見た目通りの反応だ。
「おい、俺は加入するなんて言ってないぞ。見学に来ただけだ」
そこはきっちりしておく。
加入する前提で話が進んだら困るから。
「ジャスパーより強いというのは驚きだな」
フリックが素早く俺の全身を見る。
「見たところ体つきは平凡な若者といった感じだ。すると、君はイマジンムーブで戦うのかな?」
「まぁね」
「凄いよ。リザードマンの大空洞でもずっとイマジンムーブだったし!」
今度はリゼルが興奮気味に言う。
「それは凄いな。たしかに只者ではなさそうだ」
フリックの話し方は常に平坦だ。
「一応、自己紹介から始めようか。俺はフリック。このギルド〈千年騎士団〉のギルドマスターを務めている。よろしく」
「よろしく、文人だ」
フリックと握手を交わす。
「既に知っていると思うが、リーダーなのでギルドの説明をさせてもらう」
そう言ってフリックが話した内容は、確かに既知のものが大半だった。
ギルド名の由来は千年続く組織にしたいからで、活動は週に4回。
メンバー数は30人で、向上心は例外なく高い。
強くなることを目指しており、参加条件はレベル20以上。
地球へ帰りたい者でも参加することが可能だ。
「そこのジャスパーも塔を攻略したら地球に戻るつもりだ」
「ああ、俺は今すぐにでも帰りたいね」
ジャスパーが白い歯をキラリンと見せながら言う。
「意外だな。あんたはこの世界にいたいタイプかと思ったよ」
「個人的にはこの世界のほうが好きなんだが、地球には家族がいるからな。子供が生まれたばかりなんだ」
「なるほど、そういうことなら絶対に帰らないとな」
ジャスパーが強く頷いた。
「これで説明は終わりだが、何か質問はあるかな?」
「ジャスパーに聞いたんだけど、フリックはこのギルドで一番強いんだって?」
「そうなのか?」とジャスパーを見るフリック。
「文句なしにそうだろうよ」
ジャスパーが「なぁ?」と皆に振る。
全員が頷いた。
「だったらさ、俺と模擬戦をしないか?」
リゼルが「それは……」と何かを言いかけて止まる。
代わりにフリックが答えた。
「悪いが模擬戦は遠慮しておこう」
「どうしてだ?」
「本気を出せないからさ。俺はクロスボウを扱うんだ」
「別に問題ないが」
「文人が大丈夫でもギルド的には危険だからNGなんだ。俺は剣も扱うが、剣だけならジャスパーどころかギルドでも最弱レベルさ。模擬戦をしても君を落胆させるだけだろう」
「そうか、だったら仕方ないな」
戦ってみたかったが、相手にその気がない以上は無理強いできない。
「他に何もないなら説明は以上だが……」
「大丈夫だよ」
フリックが「分かった」と答えて会話を終了する。
「今から狩りに行こうと思うのだが、誰かPTを組まないか?」
フリックが尋ねると、過半数の人間が参加を表明した。
その中にリゼルは含まれていない。
「なら挙手の早かった5人に頼むとしよう」
やったぜ、と喜ぶジャスパー。
彼は誰よりも早く手を上げていた。
スマホを操作してPTを作ると、フリックはリゼルを見た。
「リゼル、文人は明日のギルドハントに参加するのか?」
「あー、そういえばまだその話をしていなかった!」
「おいおい、そこは一番に言うべきだろー!」
ジャスパーが笑いながら突っ込む。
リゼルはごめんごめんと舌を出す。
「明日はギルドの活動日だから全員でダンジョンに行くの。文人もよかったら参加してくれない? 今日みたいなオフの日を見学するより、よっぽどギルドのことが分かると思うから」
「オーケー、参加しよう」
二つ返事で快諾した。
模擬戦同様、ギルドハントも貴重な経験だ。
ガチ勢たる千年騎士団の戦いが見られるのも楽しみである。
「決まりね! じゃあ、明日の朝9時にここに来てもらっていい?」
「明日の朝9時にギルドホームだな、了解」
次の瞬間、俺とリゼルのPTが消滅した。
リゼルが解散させたのだ。
「私は自主練に行ってくるね。今日みたいな恥ずかしい姿を見せたくないから。今日は助けてくれてありがとう、文人。明日もよろしくねー!」
「おうよ」
俺は千年騎士団のギルドホームを後にした。
◇
翌日の朝9時55分。
ギルドホームの前には千年騎士団のメンバーが揃っていた。
どうやら俺を待っていたようだ。
「言われた時間より5分早く到着したつもりだったが……」
スマホを確認する。
やはり俺は指定時刻より5分早く着いていた。
「文人は10時で合ってるよ! 私らは1時間前に集まってただけ!」
答えたのはリゼルだ。
昨日とは面構えが違う。
他のメンバーにしたってそうだ。
みなぎる闘志が感じられた。
「君がジャスパーやリゼルの言っていた文人君か」
「たしかに見た目は普通の若者といった感じだ」
「リゼルといい、最近の若い子は見た目に反して強いんだな」
「どれほどの実力か楽しみだ」
ギルドメンバーの面々が興味深そうに俺を見ている。
(聞いていた通りメンバーの男女比が凄まじいな)
千年騎士団のメンバー30人の内、女は2人しかいない。
リゼルと黒髪ロングの女――エルメスだけだ。
「作戦会議は終わり、文人も到着した。ダンジョンへ向かうとしよう」
フリックが口を開くと、皆は静まりかえった。
「今日はどこのダンジョンに挑むつもりなんだ?」
「そうか、文人には言っていなかったな」
間を置いてフリックが続ける。
「今回のダンジョンは〈千年寺院〉――レベル33のPTダンジョンだ」
「千年対決ってわけだ! 燃えるだろ?」
ジャスパーが手を叩く。
他のメンバーも戦いたくてうずうずしている感じだ。
「水を差して悪いが、ちと厳しくないか? 33レベルの敵はかなり強いぞ」
千年騎士団の真の実力は知らない。
だが、個々の戦闘力についてはおおよそ分かっている。
ギルドで2~3番目に強いというジャスパーと戦ったからだ。
だから、このギルドにはまだ荷が重いと思った。
「承知していて挑むのさ。強くない敵と戦っても経験にはならないだろう。我々の目的は強くなること。もっと言えば最強だ。そのためには厳しい戦闘をこなさなければならない」
フリックが答えた。
リゼル達が頷いて同意している。
「それもそうだな」
俺も最近はレベル40以上のPTダンジョンにいることが多い。
なので、フリックの言い分は理解できた。
強くなりたいなら死と隣り合わせの戦いを経験するに限る。
「では行こうか。文人を含めて31人だから、俺以外は二人一組になって馬車で移動してくれ」
「じゃあ私は文人と乗るねー! 誘ったのは私だし!」
リゼルは俺の手首を掴みつつ、もう片方の手で馬車を手配した。
(これはもしかして……マリナの時のようにむふふんな展開があるかも!?)
などと期待したが、馬車に乗るなりリゼルは眠りこけてしまい、到着するまで起きることはなかった。
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