02
(マリアンヌ視点)
私たちは黒猫を挟んでベンチに並んで座った。
最初シャルロットは私と同じ席につくことを躊躇ったが、お祖母様が強引に座らせたのだ。
「――それで、セベリノ様の提案って何なのですか?」
カーニバルの日に攫われてからの経緯をお祖母様が語り、一息ついたところでシャルロットが尋ねた。
「まずマリアンヌが元の身体に戻るでしょう。そうしてミジャン王国に留学するの」
「留学、ですか」
「――王子と婚約解消して何度も事件を起こしたもの。ここには居辛いわ」
こちらを見たシャルロットに、私はそう言った。
あの小屋で元の身体に戻ったあと、家に帰った私はまず両親に謝ろうとしたのだけれど――それよりも早く、私の無事を聞きつけたフレデリク殿下が駆け込んできた。
私を見た瞬間、殿下は中身がお祖母様ではないことに気づいたのだろう。
あの時の絶望に染まったような顔は、未だに心に焼きついている。
「アンは……?」
初めて聞く低い声でそう言うと、殿下は私へと詰め寄った。
「アンはどこだ! アンを返せ!」
「……何のことでしょう」
表情を消すのが得意で良かったと、この時ほど思ったことはない。
私は階段から落ちて記憶喪失になったのではなく、あれは黒魔術によるということ、そしてお祖母様の魂は私の影の中にいることは、決して誰にも知られないようにとあの黒魔術師に言われた。
恐らくそれを殿下に知られてしまうと、きっと殿下はどんな手段を使ってもお祖母様の魂を手に入れようとするからと。
そう言われたお祖母様がかなり怯えていたので、殿下のお祖母様への執着は相当なものだと察することができた。
殿下のお祖母様への想い、それは嫌というほど身に染みていた。
絵姿でしか知らないお祖母様をあれだけ想えるのだ、本物に会ってしまえばもう、止まらなくなるのだろう。
――この身体が無事で良かったと後で部屋で呟いたらそっと黒猫のお祖母様に目を逸らされた。
その仕草に嫌な予感を覚え、問い詰めたら殿下に首に痕をつけられたと言っていた。
……それだけで済んで良かった。
「アンは……!」
私に掴みかかろうとした殿下は護衛の者たちに制され、王宮へと連れ戻されていった。
その後、ようやく私は両親に謝罪することができた。
あの日は一人思い詰め、いっそこの身体なんかいらないと思っている時に足を踏み外して階段から落ちてしまったのという、嘘の説明をすることに罪悪感を覚えるが、かといって本当のことを告げる訳にもいかなかった。
話し終えた私を両親は抱きしめてくれた。
そうして、逆に済まなかったと謝られてしまった。
私が悩んでいたことには気づいていたけれど、私から言うまでは見守ろうと思っていたそうだ。
けれどそうではなく、もっと私に寄り添うべきだったと。
親子三人、その夜は泣きながら色々と話をした。
*****
三日後、私と両親は王宮へと上がった。
家族で話し合い、殿下との婚約解消を願うためだ。
その場に殿下は現れなかった。
お祖母様が消えてしまったことにひどく落ち込んでおり、学園にも行っていないのだと。
殿下との婚約はあっさり解消された。
――殿下のお祖母様への執着がひどく、このままでは良くないと陛下たちは危惧していたのだという。
そうして私に戻ったことに、むしろ安堵していると。
「あの子がごめんなさいね。ずっと辛かったでしょう」
お祖母様の友人である王太后様が私の手を取り謝罪してくれた。
殿下はしばらく療養させ、心が落ち着くのを待つのだそうだ。
婚約は円満に解消できたとはいえ、それで良かったとはならない。
例えこちらに非がなかったとしても、婚約解消した令嬢は傷もの扱いされてしまうのが貴族社会だ。
まして私は階段から落ちて記憶喪失になったり、誘拐されたりと色々問題を起こしている。
学園でも社交界でも腫れ物扱いとなってしまうだろう。
だからしばらく、遠い異国に留学したいと両親に告げたら反対された。
一人で異国になど行かせられない、心配だというのがその理由だ。
親としては当然なのだろうが、私にだって……望むものがある。
話し合いは未だ平行線だが、頃合いを見てアドリアン殿下の口添えでミジャン王国へ留学できることになったと伝える予定だ。
王子の口添えとなれば、両親もそう強く反対はできないだろう。




