01
(マリアンヌ視点)
「マリアンヌ様!」
教室へ入るとバーバラ様が駆け寄ってきた。
「おはようございます、バーバラ様」
「ああマリアンヌ様、良かったですわ……!」
私の顔を見るなり泣き顔になったバーバラ様に心がズキリと痛む。
――この方にも随分と心配を掛けてしまった。
本当に……私の独りよがりで多くの人に迷惑を掛けてしまったと、改めて心が苦しくなる。
「ご心配をおかけいたしましたわ」
「いいえ、ご無事で何よりですわ。それに記憶も戻られたのでしょう」
涙ぐみながらもバーバラ様は笑みを浮かべた。
「本当に、良かったですわ」
「ありがとうございます。でも、記憶喪失だった時のことは覚えておりませんの」
「まあ、そうなのですか」
「ええ……バーバラ様の花娘姿はとても素敵だったとか。覚えておきたかったですわ」
「まあ」
一瞬目を見開いたあと、バーバラ様は再び笑顔になった。
「……マリアンヌ様、記憶を無くす前ともまた雰囲気が変わりましたわね」
「そうなのですか?」
それは両親、そしてカミーユにも言われた。
前よりも柔らかくなったと。
――それはきっと、心の重みが取れたことと、そしてお祖母様の存在のおかげなのだろう。
元の身体に戻ってから約二週間経ち、私は学園へと復帰した。
とはいっても、私はすぐに学園を辞める予定なのだけれど。
その辺りはまだお父様たちと揉めているところなので、バーバラ様にはまだ秘密だ。
放課後。
学園内を歩くと幾つもの視線を感じる。
二週間前のカーニバルで起きた、騎士団長の息子が侯爵令嬢、しかも王子の婚約者に横恋慕し誘拐した事件は社交界にあっという間に広がったという。
そして、その時の恐怖で私が失っていた記憶を取り戻したという話も。
私に向けられる視線は好奇、同情――そして失望だ。
記憶がなかった私、つまりお祖母様はとても好かれていたという。
お祖母様は優しく、いつも笑顔で、無愛想な私とは正反対だ。
好かれるのも分かるし私もそんなお祖母様が大好きだ。
けれど好かれすぎて良くない好意を受けることも多く、祖父や大伯父様は大変だったそうだ。
それは正直、分からなくもない。
お祖母様は誰にでも優しくするから……その優しさをもっと自分に向けてもらいたくて、悔しくなるのだ。
中庭へ着くと、先にベンチに座っていた女生徒が慌てたように立ち上がった。
シャルロットというこの平民の女生徒は、以前はフレデリク殿下の気を引こうとしていたが、やはりお祖母様の魅力にやられたらしく――あっという間にお祖母様の正体を知るほどの仲となったという。
「マリアンヌ様。あの……」
今の私がどちらなのか計りかねているのだろう、おずおずとシャルロットが口を開いた、その時。
「シャルロット!」
私の足元から黒い影が飛び出した。
「え、うわっ!?」
突然のことに後ずさったシャルロットの腕の中に黒い影――もとい、黒猫が飛び込んだ。
「シャルロット! 私よ私!」
……突然黒猫に人間の言葉で言われて分かるものだろうか。
「え……もしかして、リリアン様?」
けれどシャルロットには分かったようだ。
「そう、マリアンヌと入れ替わったの」
「入れ替わるって、この猫あの時のセレストですよね……って、まさか!?」
「そうよ、マリアンヌはずっと黒猫として生活していたのよ」
したり顔風に黒猫、いやお祖母様は言った。




