02
(フレデリク視点)
心にぽっかりと穴が空いたようだった。
一目見ることも、その声を聞くこともなく永遠に会えなくなってしまったリリアン。
どうして彼女は死んでしまったのだろう。
同じ歳の祖母はまだまだ元気なのに。
どうして僕は……彼女ではなく、見た目が似ているだけのマリアンヌを選んだのだろう。
孫であるマリアンヌはリリアン危篤の報を受けて両親と共に領地へ向かい、最期を看取ったのだという。
マリアンヌの婚約者ではあるけれど、リリアンとは何の接点もなかった僕には叶わないことだった。
どうして。
僕はきっと、誰よりも――リリアンのことが好きなのに。
喪失感と虚しさと苛立ちと。
ごちゃまぜになった感情を、それでも王子という立場上、表に出さないようにしていたけれど。
マリアンヌは何か察したらしい。
彼女との仲はぎこちなくなっていった。
学園に入るとさらに関係は悪くなっていった。
婚約を解消した方がいいだろうか。
そう思ったが、王族の婚姻はそう簡単に変更できるものではない。
――本当に、幼かったとはいえどうしてマリアンヌと婚約するなどと言ってしまったのだろう。
後悔しても取り返しがつかなかった。
「殿下は誰のことを想っているのですか」
二年生になり、ある時久しぶりにまともに顔を合わせた彼女に尋ねられ――僕は正直に話した。
僕の好きな人が自分の祖母であることを聞かされ、マリアンヌはきっと引くだろう、そう思っていた。
彼女は確かに驚いたように目を見開いたが――ふと視線をそらした。
「……確かにお祖母さまはとても素敵な方ですけれど」
そう呟いたマリアンヌの眼差しは和らいで見えた。
僕の心を知られてからもマリアンヌとの関係は変わることなく距離を取ったままだったある日。
マリアンヌが学園の階段から落ちて意識不明になったという知らせが届いた。
その日は僕は公務で休んでおり、王宮で報告を聞いた。
――何でも彼女は誰かによって突き落とされた可能性があると。
確かにマリアンヌは気が強く、あまり慕われるような性格ではなかったが……恨まれるほどだったろうか。
三日ほどで意識は回復したがしばらく養生が必要だと学園は休み続けていた。
父上からは見舞いに行くよう言われたが、僕が行っても喜ばないだろうと花を贈るだけにしておいた。
そうして、回復してきた彼女のことで大事な話があると父親のバシュラール侯爵と共に王宮へ現れた、その彼女を見て――僕は驚いた。
そこにいたのは「リリアン」だった。
見た目はマリアンヌだったけれど、まとっている空気は明らかに別人で――それがずっと思い続けていた「リリアン」のものだとすぐに分かった。
侯爵曰く、意識のないマリアンヌの身体に、二年前に亡くなった「リリアン」の魂が入ったのだという。
原因は分からないけれどその言動からリリアン本人で間違いないと。
これは夢だろうか。
叶わないと思っていた願いが――彼女が、目の前で生きている。
リリアンは祖母から聞いていた以上だった。
本人はもうお婆ちゃんだと言っているけれど、外見だけでなく中身も可愛らしく年齢を意識することは全くない。
ただ唯一気がかりなのは、彼女の前の夫……前バシュラール侯爵のアルノー殿のことだ。
リリアンはまだ彼のことを好きなのだろう。
彼女の心に僕が入る余地はない。
けれど。
僕は諦めない。
一度は叶わないと思った望みを必ず手に入れるんだ。




