08
「昨日帰り際に話しただけで、ずいぶんと打ち解けたようですね」
カミーユが口を開いた。
こちらを見るその目は――どこか、疑っているような眼差しだ。
「そうね……」
シャルロットと顔を見合わせる。
この世界が乙女ゲームの世界であるということを知っているという、そして前の世界の記憶を持つという共通点ですぐに打ち解けられたけれど、普通ならば侯爵令嬢と平民が親しくなることは……ないのか。
「そうですね。前のマリアンヌ様は壁があるというか、他を寄せつけない雰囲気がありましたけれど」
シャルロットはカミーユに向かってそう答えると、再び私を見た。
「今のマリアンヌ様は親しみがありますよね。それに何より可愛いし!」
「……そう?」
可愛い……? 中身は六十過ぎてるのに?
「可愛いといったら……シャルロットの方が可愛いのではないかしら」
何せ王子や高位貴族子息といった攻略対象達を落とすほどなのだ。
髪色は平凡な茶色だけれど、大きな青い瞳といい、ふっくらとした赤い唇といい……まさにヒロインという、人目を惹きつける容姿を持ったシャルロットの愛らしさは貴族令嬢に劣ることはない。
「えー、私は見た目だけなんで。マリアンヌ様は中身も可愛いんです!」
「そ……そう?」
だからその中身はおばあちゃんなんだけれど。
「――確かにアンとずいぶん打ち解けたようだな」
殿下は私の腰に手を回した。
「だがアンは僕のものだ。あまり気安く接しないでもらおう」
「……殿下、シャルロットは友達ですわ」
「友達でもだ」
「殿下。嫉妬深い男は嫌われますよ」
「シャルロット! 王子様に向かってなんてこと言うんだよ!」
低い声でそう言ったシャルロットにディオンが慌てる。
ふふ、この二人はゲームにあったみたいにいいコンビなのね。
「ああでも、今のマリアンヌ様は囲っておかないと誰かに狙われそうですよね」
「そうですね、色々と自覚が足りないようですから」
シャルロットの言葉に同意するようにカミーユが頷く。
「自覚?」
「記憶をなくす前と後とで、男子生徒たちのあなたへの視線が明らかに変わっているんですよ」
「――そう言われても、前のことなんて分からないわ」
「前を抜きにしても、自身がどう見られているか分かっていないでしょう」
どう見られているか?
「……記憶を無くして可哀想とか?」
確かに視線は感じるけれど、あれは記憶喪失になったことへの同情や好奇心だと思っていたのだけれど。
「やはり分かっていませんね」
カミーユはため息をついた。
「そう言う者もいますけれど。多くはあなたに好意があるんですよ」
「……そうなの?」
「マリアンヌ様モテモテですね! 私も男だったらマリアンヌ様みたいな女の子と付き合いたいです、ねえディオン?」
「え!? え……と、確かに……」
シャルロットに聞かれ、私をチラと見たディオンがその顔を赤らめた。
「――アン。今すぐ結婚しよう」
殿下がぎゅっと抱きしめてきた。
「今すぐ!?」
「アンは僕のものだ――誰にも渡さない」
耳元で硬い声が響いた。




