第82部 桜子の秘密!
1954年6月(昭和29年)日本・宮城県 牡鹿半島
イカレ所長の石井は、人狼を集めて強化の魔法の呪文を唱えた。
「ハバロフスクの兄貴、待たせたな。今から人狼巫女に強化の魔法を唱える。これで大きいい戦力になるだろうて。」
「弟よ、今日の戦勝祝いも頼むぜ! お前の人狼兵は凄いな。感心したよ」
「なに、兄貴の巫女三人には敵わないよ。さ、始めるか」
石井は、アランとドロンと女の三人を前にして呪文を唱える。
「いいか、俺は巫女ではない。だから、1回しか出来ないからな。しっかり聞いてくれよ」
「俺は、飛翔する鷲の巫女、アランとドロンと女に力を授ける。アン=ナスル・ッ=ターイル。飛翔の巫女となれ~」
「アランとドロンと女。試しに力を使ってくれ。今日からお前らは自由に飛べるはずだ。飛んでみろ!」
アランとドロンと女は、言われたように力を込めて飛翔のイメージを試みた。人が自由に飛ぶとかは、考えた事も無ければ聞いた事もない。だからか出来なかった。
「ちょっと! あんた。うそを言うんじゃないよ。飛べないよ」
「おうおう、そうだろう。そんな事だろうと思って、漫画家に絵を描いてもらったぜよ。この絵を見て想像しておくれ」
下手でもないロボットが自由に空を飛ぶ絵が描かれていた。
「ほれ! どうだ。考えて飛んでみろ!」
「出来ないよ~」
「今度はこの絵だ。お前は魔法使いになって、自由に飛ぶんだ!」
「石井、箒は有るのかい?」
「無いよ、でも、この絵なら? どうだい。飛べるだろう」
石井は小さな女の子が笑いながら、空を飛んでいる絵を見せた。アランとドロンと女はしきりに見つめている。そして、3枚の絵を折り空から投げた。
「キャッホー! 空高く飛んでいけ~!」
「おうおう、良く飛ぶじゃないかい。すげ~な」
「弟の石井よ、ありがとうな。こんなに飛ぶピンクと紙飛行機は初めてだ!」
「な~に、お礼は要らないよ。それよりか、酒盛りにしようぜ」
「お~い、そろそろ、降りて来いよ! 飯にするぜ!」
「は~い、今降りま~す」
アランとドロンと女は、三人とも飛行に成功していた。そして、ピンクのパンチラを見せながら降りて来た。
「明日からが楽しみだわ!」
一方、巫女たちは夕食前だというのに、作戦会議を始めた。今日敗北したアメリカ軍をバカにするでは無く、賛辞をも述べていた。
「あんなたくさんの軍艦を沈めちゃうんだもの、あいつらは凄いよね! 私たちが参戦していたら、あの爆弾攻撃を受けたのかな?」
澪霧が今日の戦いの感想を述べた。それに沙霧が続いてくる。
「そうね、チェスター長官は左遷・解任だわね。可哀想!」
「いや、沙霧。チェスター長官の事はどうでもいいのよ。明日に戦うにあたり
あのイカレ所長が爆弾を使用するのか? が問題よ」
シビルは自分の考えだと、言いながら感じた事を言った。
「もう、人狼兵も爆弾も使い切ったんじゃぁないかな。船を全部沈めたんですもの、余力は無いと思うの」
カムイコロは持ち前の視力の良さで戦いを見ていた。
「俺もそう思う。人狼兵はもう少数だとみていいわ。海に泳いでいた人狼兵も爆発で死んだようよ。浜に戻ったような跡は無いのよね」
「ね、桜子姐さんはどう思う?」
クライが桜子に話を振った。桜子はしぶしぶ口を開いた。
「初日は私の作戦ミスで負けたわ。もう、偉そうに指示も出せないよ!」
「お母さん。それは違うわ。私たち巫女の注意不足、怠慢よ!」
彩香は巫女の怠慢だと言う。他の巫女も同意見で彩香の意見に追随した。
綾香は、巫女のみんなから命を助けられた恩もある。その綾香が、
「もう、私一人で戦うわ。みんなは母の援護と、機動隊の男を守って頂戴! だって私は、巫女の全員の血を引くスーパー巫女だもの。負けないわ!」
「綾香、それは違うと思うわ。もしもスーパー巫女になっていたら、綾香こそが戦況の分析と作戦指示を出すべきと、お母さんは思うわ」
「ううん、お母様は、綾香に力を送ってください。それだけでいいのです」
桜子はだんだんと元気が無くなるような面持ちだった。意を決したかのように言い放った。
「みんな、私の大巫女の力は無くなったわ。ダイヤの2個は持っている。持っているのよ。でもね、巫女としての力が感じられない。だって・・わた・・・・」
桜子は泣き出してしまう。桜子としては力が無くなったのも当然の結果だ。母の血を綾香に輸血した。その代わりに機動隊の人からたくさんの輸血をして貰った。今の桜子の血は、謂わば他人の血と同じだ。巫女の血は半分だろう。
泣き出した母・桜子を前にして誰もが無口になる。目が覚めた亜依音を沙霧は抱いていた。亜依音がバブーと言った。
「バブー! 婆ちゃん、痛い? 痛い?」
「亜依音ちゃん、お婆ちゃんは、どこも痛くはないよ。大丈夫だからね?」
「バブー!」「バブー!」
沙霧は、母の直感か、亜依音を母に抱かせた。亜依音は心静かにして黙っている。
「お母様。もしかしたら、もしかしたらですよ? 亜依音は自分の中に在るダイヤの力を、お母様に贈る気でいるのかもしれません」
「すると、なんだい? 亜依音の巫女としての力を全部この私にくれるというの?それはいくらなんでもダメだろう。」
亜依音は黙ったまま桜子に抱かれている。桜子は本当に亜依音から力を贈られているのだろうかと思い、自分の身体中に気を張ってみた。別段何も感じなかった。
「沙霧、自分の身体の気を診てみたけれども、なにも感じないね」
「そうなんですね。お母様、私がお母様の気の流れを整えて見ます」
そう言って綾香は母の肩に手を当てた。綾香は目を瞑り、肩、腕、背中、お腹、両足、首、最後に頭へと手のひらを当てて診た。いわゆる治療=手当てだ。
「お母様。肩が張っていますわ。肩もみしましょうね」
綾香はそう言いながら肩もみを始めた。
「お母様、今度はうつ伏せでお願い。背中と腰も揉みますわ」
母から亜依音を渡された沙霧以外の娘は、母・桜子の身体を揉みだした。母からは、気持ちのよさそうな声が漏れてくる。最後には桜子は眠ってしまう。
「お母様はここに寝かせて、私たちは女子会を始めましょう」
巫女らは桜子を残して全員がテントを出た。
「木之本署長、中の母が目を覚まさないようにお願いします」
大きくて美しい月の下で少しばかりの酒宴を開いた。ニキータは黙ってお酒の用意と夕食を運んでいた。 巫女と人狼兵の戦いがうそのような、静かな夜だった。遠くて明るく見える森の火災も、ともしびみたいに綺麗に見えた。
1954年7月(昭和29年)日本・宮城県 牡鹿半島
翌日の3日目。人狼兵からの攻撃は無かった。こちらは機動隊を配置していたが、昼前に人狼巫女のドロンがテントの前に現れた。
「今日は私たちの人狼兵の強化をいたします。ですので、戦闘は中止です」
ドロンは一方的に叫んで消えた。姿を消してその辺を歩いている? と判断したカムイコロは、石を数個投げ飛ばした。
「痛い! 痛いじゃないの。明日お返ししますわ、覚えていなさい」
「ギャッハッハー。間抜けなドロンだよ、バカだよね~」
カムイコロは大声で笑い出した。つられて巫女らも笑い出す。
お腹を空かせて桜子がテントから出てきた。そして直ぐに昼食にがっついて、忙しそうに食べていた。
「もう、みんな。ヒドイじゃないの? 私一人にしてから。怒るからね。娘にはきつく言わないといけないね」
「で? さ。桜子姐さんは大丈夫ですの? 気分は良いのかしら!」
クライは気にして尋ねた。桜子は元気に返事をする。
「おうさ、もうすっかり元気だね。メシを食べたからね」
「四姉妹はどうした? どこにいる!」
桜子は下腹部に力を溜めて一気に放つ。
「こら~~~、霧香~~。帰って、こ~~~い」
「は~い、お母様。もうお加減はよろしいですわね?」
「おうさ、すっかり元気だよ。それより、今から作戦会議だよ。みんなを集めてくれないか。それから、綾香。お前はそこまで付いて来い」
「はい。お母さん。お手柔らかにね?」
「誰がするもんか。気合入れろよ!」
「あ、みんなは先に昼飯を食べておくように。な?」
そう言って桜子と綾香は森の中へと歩いていった。
ドカ~ン! 3分ともせずに大きい音が木霊した。
「バアオウ! ブワ~!」
そうして二人が戻ったのは10分後だった。
「綾香! ゆっくりと食事を摂っておくれ。昼前にすまなかったよ」
「ね、ね! 綾香。お母さんと何を特訓したのよ。姉には教えなさいよね」
「えぇ~~、イヤだ! 内緒だよ?」
午後からも巫女たちの特訓が続いた。
人狼巫女は飛翔の練習だ。特訓は巫女たちだけではない。人狼兵の強化がなされた。
「お前たち、待たせたね。今から昼飯だ。全員はこの分量を食べるんだよ? いいね」
「フンガー、ふんがー」
「ありがてえ~、昼飯だ!」
「おうおう、これは美味い。何ぼでも食べれるぜ!」
「所長! メシのお替り!!」
石井が用意したのは、石巻産の鯨の脳みそ! だった。脳に良いDHCたっぷりの海鮮丼だ。人狼兵の知能が飛躍的に増大した。昨日までの小さい機関銃では無く、大きい破壊力のある大型の機関銃が、人狼兵に持たされた。
アランとドロンと女には、高高度から落とす爆弾の扱い方が説明される。
「ムッフッフー! これで明日の戦いも勝ったも同然だわさ・・・・」
「ドロン! お前はさっきのお返しにさ、試しに1個空から落として見て来い」
「はい、お父様。優しいお父様。直ぐに行って参ります」
ドロンは飛び立ち、カムイコロを探して爆弾を落とした。
「ギャイ~~~ン!!!! ガー!ギャオー!・・・!」
ヒグマは言葉も話せない程に驚いて叫んでいる。だが、ヒグマであったためにローブに守られて怪我はない。
ドロンは、ヒグマが泣き叫んでいると思い、喜んで帰った。
「お父さん。これは凄いわ!ヒグマが泣いて喜んだもの・・・・」
老婆が笑っていた。
「ヒーッヒーッヒ~。もうすぐ完成じゃ! あの宿六が帰れば焼き・・・・・」
石ナキという小さな漁村まで、亜依音はホロと避難して来た。ここでは一人の老婆が、大きい鉄製の檻を造っていた。檻の周りには薪が多数用意されている。
老婆は東の方からトボトボと、歩いてくる初老の婦人と赤子を見つけた。この二人を見た老婆は作業を止めて、ホロに声を掛ける。
「あおら~!」
「精が出ますね~」
「なんごとですか? こげな人もおらん所でさー」
「はい、山向こうで戦いが有りましたので、避難して来ました。今日は1日中この村で過ごす予定です」
「ほう、そうちの~。暑いけん、家の中で休んでいきなはれ!」
老婆はホロと亜依音を家の中へ案内した。古い家だから中はとても涼しかった。
「老いぼれの話すこつば、判りますかえ?」
「いいえ、もう外国語にしか聞こえません」
「そうでっしゃろ、そうでっしゃろ!」
無口な亜依音がバブー、バブーと言った。ホロは何か? と考えるも判らない。
「おうおう、めんこいお子さんじゃ。頭が良さそうじゃのう」
「ええ、そうなんですよ。とても聡明だと、ヒーバーも思います」
「そうですか~、この老いぼれにも一人のヒー孫が居りますで。娘は寒くて遠い所に嫁に行きましたよ。いつ死んでもいいような老いぼれには、便りもくれん!薄情な娘ですばい」
「そのような事は無いでしょう!」
「あの娘も不憫な子じゃった。大きな地震で船で沖に流されたんじゃよ。探したが見つからんじゃった。それから1か月程してな、北海道に流れ着いたと、便りがありましてな、それから、それから、親不孝な事を書いておりました。」
「はぁ、なんと書かれてありましたの?」
「牧場の牛や羊が可愛いからと言うて、ここの男と結婚すると書いてありました。助けられた恩義もあるんじゃろうがのう。仕方なか。」
1900年(明治33年)5月12日 宮城県北部で地震があった。この事を言っているんだろう。この話は娘の桜子から聞いたような思いがあった。桜子の母は、北海道では無い東北だと聞いている。この家の苗字は鹿子生という。日本では少なく、全国で250~300世帯だという。
鹿子生の姓は、福岡が80%を占めているが・・・。
「一人娘だったのにの~」
残念な思いが未だに残っているのだろう。
「バブー!」「バブー!」
亜依音が声を上げる。動作が? 抱いているホロの腕から両手を老婆に向けている。これは、老婆に抱かれたい、とう仕草なのだ。
「バブー!」
「おう、そうかい。お婆ちゃんに行きたいんだね」
「バブー!」
「お婆ちゃん。この子があなたに抱かれたいと言っています。抱いてやって下さい」
「おりゃ~、70年は子供を抱いとりゃん。今でも抱けるかな~」
「おう、どっこりゃしょ! おうおう、可愛いのう。重たくてかなわん!」
「バブー!」「バブー!」
亜依音は両手を伸ばして、老婆の顔を触ろうとしている。これは、ホロ自身にも思いでがある。初めて会ったあの、沙霧と澪霧の事であった。その当時の事を思い出して、ホロは少し涙目になった。
亜依音はすやすやと眠りに就いた。ホロは驚いた。ただでさえ見ず知らずの他人に抱っこをねだるだけでも、驚きものなのだ。ましてや寝てしまうとは・・。
「重たいでしょう? 今代わりますね」
ホロは老婆に声を掛けた。老婆は亜依音の顔を覗き込み、満面の笑顔を見せていた。ホロは差し出した両手を、そうっと引き込める。ホロは、そんな二人を見つめた。
ホロと亜依音を護衛する隊員が遅れて到着した。車の音がしたので、ホロが急ぎ家の外に出て見つけたのだ。木之本が護衛を付けると言っていたのを思い出す。隊員はホロに開戦が始まった事を告げた。
「ホロさん、先ほど開戦になりました。桜子さんが今日の食事の弁当を作って持たせてくれました」
「桜子がね~ぇ、良く気が付くよな。亜依音ちゃんの朝ご飯は?と」
老婆は頭を上げて尋ねる。桜子とういう名前が気になった。桜子とは、あまり普通はにつけられない名前だ。孫は桜の満開の時に生まれたから、桜子と名付けられた。
「なぁ、あんた。桜子とはどこの生まれですじゃの?」
「はい、北海道の苫小牧です。杉田桜子と言います。旧姓は岩倉ですが・・・」
「そうですか、孫と同じですな。そうですか・・・・」
老婆はそうですか、としか言わなかった。桜子は老婆の孫だった。だが、今さら名のる気も無かったが・・・・。それ以上の驚く事実が・・・・・。
「お婆ちゃんは、もうお幾つになられますか?」
「失礼な娘じゃ。年寄りにお婆ちゃんと、呼ばれたくは無いわい。今年でな?今は何年じゃ?」
「はい、1954年7月になります」
「そうかい、1954年じゃな。1834年じゃったと思うがな。何せ歳じゃ!、記憶違いがあるじゃろうて!」
「えぇ、120歳?・・・・」
「ほれ、この子の朝飯じゃろ? はよう食べさせれ!」
ホロは老婆から亜依音を受け取ると、老婆の腕の力が衰えていない事に気が付く。
「ほらほら、亜依音ちゃん。ご飯ですよ。起きて下さい」
亜依音は寝起き? か、機嫌が悪い。ホロに抱かれるのを嫌がった。
「バブー!」「ねんね! ねんね~~~!」
「バブー!」
「すみません、またお婆ちゃんに抱っこをお願いします」
「あいよ、まだ大丈夫だよ。昔の記憶が戻ったよ。ほんと、娘の宮子のようだよ。おうおう、めんこいな~」
亜依音はまた眠りに就いた。
「お姉さんは、ここにお独りでお住まいですか?」
「そうだね、昔は満州で軍医と一緒だったよ。その夫と共に63年前に日本へ来てここに居着いたんだよ。わし等は籍には入らんだったから、苗字が無かったよ」
「そうでしたか、では、鹿子生という苗字は何処からつけたのですか?」
「鹿猪からですわ。ご先祖様がな、なんでも鹿から生まれてという言い伝えがありましてな、夫と別れる時に考えた苗字ですわ」
「はは、いい苗字ですね。素晴らしいです」
「ご主人は? いらっしゃらないのですか?」
「あの宿六は死んだと思うがのう。別れ際には、え~と、俺は軍で実験をたくさんしたから、捕まって死刑にされるだろう、と言うてましたわ」
「おやまぁ、物騒な事ですね。」
「名前が、石井四郎陸軍軍医中将。と言います。中将までなったとですよ」
ホロは、石井四郎陸軍と聞いて驚いた。あの、石井だ。731部隊の総指揮官だ。しかし、老婆には知らない振りを取り続ける。
「そうですか、陸軍軍医中将さんですね。最高指揮官ですよ。凄いです」
「ご夫婦の娘さんが、宮子さんですね」
「そうですわ、宮子です。天真爛漫の気立てのいい娘じゃった。嫁に行ってからは一度だけ里帰りしましてな、孫を連れて来ました。それが最初で最後でしたわ」
「バブー!」
「おや、起きたかい。ご飯だよね」
「今用意いたします。暫くお待ちください」
桜子は、あの石井の孫になるという。こんな事があって良いものか。ホロは顔から血が引く思いで、亜依音の朝食の用意をした。手の動きがぎこちなくなり、ごはんをこぼしてしまった。
「バブー!」
「あらあら、ごめんなさい。今からお昼ご飯にしましょうね~~~」
理不尽な事を言うホロだった。亜依音の食事の用意が出来たら、板張りの上にホロははしたなく寝転んでしまった。
「もう、動けない。や~~だ~~~」
隊員はどうしたら良いかが判らずに、二人の顔を見ているしかなかった。
イカレ所長は、この事実を教えたくて、戦場をここに決めたのだと判った。判っても、桜子には教える事は出来ない。ホロは考えあぐねて苦しんだ。
巫女という残酷な運命を考えたホロは、泣き出してしまう。
「ほれ、若いの。どうして泣くのじゃ? 老いぼれには、同情は要らぬでよ」
「いいえ、この私の人生に涙しています」
「でも、泣かんでいいじゃろ!」
亜依音は、この老婆が桜子のお婆ちゃんになるのが判ったのだった。沙霧と澪霧と自分との関係が同じだと、思い返したのだった。亜依音と桜子には血の繋がりは無い。無いが亜依音が生まれてから、桜子のダイヤの力の影響を受けて育った。つまりは、そういう事だ。
亜依音は昼食後、一人で遊んでいる。老婆とホロはお互いの事を話した。だがホロは北海道の生まれだと、うそを多く交えて話すのだった。
「石井も人狼なのか・・そういえば、年齢の計算が出来ない。石井も120歳?」
山の向こうから、大きい爆発の音が何度も響いてくる・・・・。
「サイコパス所長。飛行方法が判りました。両手を少しずつ広げればいいのです。
両手を高く伸ばせば、月まででも行けますわ」
「お前たちには、俺のスタミナ食をやろう!」
「何ですか?」
「鹿肉ソーセージのサンドウィッチです!」
「日本産の鹿はカルシウムが不足していますので、巫女の力にはなりません」
「ならば、鹿肉ソーセージのサンド・ウィッチです。これは凄いで!」
「お父様、お替りは有りますでしょうか?」
「俺は、シホテアリニ山脈の研究所で食べたものだ。70歳にして~~立つ!!」
「キャッ!!お父様ったら。」
「おい、愚兄よ。冗談はよしておくれ。お前は、もう130歳だろう」
「おお、愚弟よ。お前も食べろ。元気になるぜ! お前はまだ125歳だろう」
「お父様たち、もう人生は過ぎましたわ!ここでお休みになって下さい。
今からお二人を墓場まで、お連れいたします」
「俺はまた殺されるのか?」
「はい、奥様の元へお届けいたします。ドロン、一緒に運んでおくれ!」
「はい、お姉さま。山向こうの村ですね?」
「アラン・ドロン。あそこだけは止めておくれ! 本当に殺される。頼むから
止めておくれ!」
アラン・ドロンは、軽々と二人を抱きかかえて、鹿子生の家に飛んだ。そして
二人を落した。
どすん! どすん! と、大きな音がした。
「お~いて~。なんで、こんな所に檻があるんだい。」
「クマでも出るんだろう!」
老婆は音が聞こえた庭に出て、
「いし!」
「いしい、じゃないかえ? いし! かまどきゃーし」
そう言って、老婆は痛みで動けない二人を抱えて、檻に放り込み鍵を掛ける。
「ほんま、久しぶりじゃ!!70年にはなるかのう?」
「おい、俺を誰だと思っている。ここから出せ!」
「いぎなし降ってくるから、おれさま、と間違えたわ!」
「こら~、早く出せ~」
「あんたらは、はようここから、立ち去るがええ。南に向かえばええじゃろうか」
「はぁ、そういたします。」
「元気でな、亜依音ちゃん。お婆ちゃんによろしく伝えておくれ!」
「バブー!」「バブー!」「バブー!」「バブー!」
「亜依音ちゃん、行こうか。お婆ちゃんは忙しそうだよ」
隊員の車に乗って南に向かった。半島を回って石巻まで進む。
先ほどまで居た村の方角では、黒い煙が高くのぼっていた・・・。
「は~い、二丁~上がり・・・」
新生、アラン・ドロン・女。
サイコパス所長が用意した、鹿肉ソーセージのサンド・ウィッチを食べて
バージョンUP! した、人狼の女戦士が誕生した。
人狼兵はクジラの脳みその海鮮丼を食べて、脳みそがスキルUP! した。
アランは、6人以外の人狼兵に向けて言った。
「お前たちは石井の人狼兵だから、ここでお終いよ! 死んでチョ!」
石井の人狼兵は、アラン・ドロンの魔法で海に飛ばされた。爆弾の手土産も
添えて? である。
三人の人狼の女戦士は、人狼兵を従えて機動隊の殲滅を図る。
「ほら、潔く死になさい」
人狼兵は口径の大きい機関銃を携えて突進した。人狼兵の機関銃の威力は大きく
機動隊の防御の土嚢は悉く破裂して無くなった。隊員も次々に倒されていく。
「なぁ、刑事課の課長さんよ。何か良い作戦は無いかい?」
「もう、無いよな~。座して死ぬしかね~」
「署長! 課長! あんたらは部隊の頭だろうが、しっかり脳みそを使いな!」
桜子が最前線までしゃしゃり出る。
「チョット! さくらさん。ここは危ないから、巫女さんたちと居て下さい」
「あ、あ?ん! あいつらはもう居ないよ。戦闘に出たからね!」
人狼の女戦士の三人は、空から爆弾を落とす、落とす。
ドーン、ドドーン。ドーン、ドドーン。
「やばいよ、ここにも落とされる。総員! 退避~~」
「アクア・バード・スプラッシュ!」「ファイヤー・バード・スプラッシュ!」
ドーン、ドドーン。ドーン、ドドーン。
「ファイヤー・バード・スプラッシュ!」
人狼の女戦士は爆弾を落としては、逃げる機動隊目がけて魔法を放つ。
これを2回繰り返した。
機動隊は、ほぼ全滅状態となる。
「アクア、ショット!」「ファイヤー、ショット!」
ドーン、ドーン、ドドーン。
ようやく人狼の女戦士の攻撃が止まった。
「あいつらは空を飛ぶんかい。違反だろう。飛ぶなんて聞いていなぜ!」
「木之本! そうぼやくな。もう、攻撃は終わったさ!」
「はは! 全滅だ! もう終わりだ! 全滅だ~~!!!ダ~~~~~」
チェスター長官は、あさっての方角へ逃げて行った。
こちらの巫女からは攻撃がなされていなかった。
「さくらさん! 巫女さんはまだ攻撃魔法は使えないとですか! どうしてですか」
「まだ血の気が足りんとです。もう暫くお待ちください」
「綾香が命じる。ドロンよ、我が呼び出しに応えよ。風よ我の僕となり
て、かの女をここに召喚せよ!ツバイ!ウインダム!!」
「キャーーーー、何よ、何が起こったの?」
「は~い、捕まえた。芋虫にして檻に監禁よ!」
「こらー、離せ!」
「やだよ」
巫女たちは、人狼の女戦士三人分の檻を作っていたのだ。もう一つの頑丈な檻は
出来上がるまで、少し時間が掛った。
「綾香が命じる。女よ、我が呼び出しに応えよ。風よ我の僕となり
て、かの女をここに召喚せよ!ツバイ!ウインダム!!」
「キャーーーー、痛!痛! 痛!痛!、何が起こったの?」
「は~い、ボコボコね。芋虫にして檻に監禁よ!」
「さっきのお礼だよ、これで気が済んだわ!」
カムイコロが空爆のお礼をした。
「みんな~、集まって~。人狼兵を一度に召喚するわ~」
巫女たちはソードを構えて、制作した檻の周りに待機した。
「人狼兵の機関銃も、もしかしたら一緒に転送するかもしれない。注意してね」
「いつでもいいよ。転送して!」
四姉妹は、檻の上に円陣を組んで、呪文を唱えた。
「綾香が命じる。人狼兵よ、我が呼び出しに応えよ。風よ我の僕となり
て、かの男どもをここに召喚せよ! ツバイ! ウインダム!!」
「ギャー、痛い! フンガー」
6人の人狼兵は見事、檻の中に転送された。
「さ!、みんな、一突きよ。」
「ギャー、フンガー」「痛い! ギャー、」「フンギャーー」
人狼兵の6人は一突きなされて人間へと戻った」
「次はアランよね。あれは手ごわいわ! 多分、ダメと思う」
綾香は召喚魔法は使えないと言う。
「では、 Zweiツインズ・シスターズで攻撃する?」
「そうね、そうしようか」
彩香は四人で攻撃しよう、と言う。他の三人は彩香に同意した。
「フュージョン!」
妹が先に合体魔法を唱える。
「フュージョン!」
次に姉が呪文を唱える。
「W、フュージョン!」
最後の呪文だ。四人が一人の巫女ななった。全身が漆黒の鋼へと変化した。
両手両足はソードとなりて、右腕には赤き炎が纏わりつき、左腕には白き水龍が
纏わりつく。
さらに、4本のソードは刃は光輝く。巫女の最終形態が完成した。
「おうおうおう、自分の娘とはいえ、なんだか凄いね! あんたたち、力いっぱい
ブチかませー!!!」
桜子は大きい声で叫んだ。
「霧香が命じる。アランよ、我が呼び出しに応えよ。風よ我の僕となり
て、かの女を攻撃す。アブソリュート・カルテット!!」
火焔と水龍の特大魔法が山向こうに跳んで行き、大きな地響きを起こした。
次々に魔法が飛んで行く。
「アブソリュート・カルテット!!」
「アクア・バード・スプラッシュ!」「ファイヤー・バード・スプラッシュ!」
「アブソリュート・カルテット!!」
「ツバイ・ファイヤー・スプラッシュ!」
山向こうは荒れ地に変化した。ここに原発の敷地が完成した。
「これでいいわ。さ! アランを召喚しましょう」
「綾香が命じる。アランよ、我が呼び出しに応えよ。風よ我の僕となり
て、かの女をここに召喚せよ! ツバイ! ウインダム!!」
「キャーーーー! みんな、逃げて~~~~~」
「ドッカ~~~ン」
巫女の円陣の中には、1個の爆弾が転送されて来た。ものの3秒で爆発した。
巫女らはかろうじて無事だった。だったが、ただ一人ヒグマを除いてだ。
カムイコロはとっさにヒグマになって爆弾に覆い被る。全身は火傷で見るも
無残だった。
「な~に、これくらい、なんとも・・・・・・・」
意識不明となった。急ぎ、カムイコロの手当てがなされた。
先に収容作業の隊員たちと、テントに運ばれた。
「うんうん、大丈夫。頭が飛んでいるだけだよ。」
「先生、ヒグマの頭はついていますが?」
「ひよこが多数飛んでいるのが、見えないのですか?」
「はは、脳みそがバカになったんだ!」
「・・・・・・?」
今日の戦いは、お互いともに大敗で終わった。




