第59部 ブルートパーズとヒスイの解放 そして覚醒へ
1950年12月(昭和25年)ニューヨーク
お開きの後に桜子は、娘の四人を前にして母としての気持ちを伝えた。
「私はクリナとアナスタシアを娘にしようと思うの。いいかしら。だってこの二人は紛れもない、ルーシーとアスタの娘なのよ。だから私の孫? にもなるの」
「ええ、私たちは、いきなり子持ちになるの?」
「綾香と彩香は、クリナとアナスタシアのお母さんね」
「いやだ~、子供の方が親よりも年上だなんて、あんまりだわ。せめて姉?扱いに出来ないかしら」
綾香は言った。かわいい二人だし、妹にはならないけれども、姉妹としては受け入れても、良いかな? と思っている。
「彩香はどうなの?」
「うん、私もそれでいい。姉さんもいいのでしょう?」
「そうね、なんたって人狼の巫女ですもの。何が起きても、全部受け入れます」
「澪がそういうなら、沙霧も問題ありません。小賢しい妹との間に、新しい妹が二人もはいるんですもの。むしろ歓迎です」
「なによ、沙霧姉さん。ひどいです。もう、秘密をばらします」
「綾香! ステーキはレアとかミディアムとか焼き方があるわ。綾香の好みは何かしら。おいしいステーキを焼きあげて、あ・げ・る」
「わぉ~、もう堪らないわ! 沙霧お姉さまは・・・」
「クリナとアナスタシアには両親がいないのかしら」
「そのようよ。小さい時の記憶にも両親の思い出は無かったわ」
澪霧の問いに、桜子が答える。桜子は二人の記憶を一時的でも、断片かも知れないが、覗いているのだ。桜子は、
「綾香と彩香は、ティアラの宝石の記憶は見ていないのね」
「たぶん、見ていない。彩香! そうでしょう?」
「そうです。だから、宝石の覚醒が出来ていないのよ」
「そうなのね、明日あの二人が元気になったら、宝石の覚醒を行ってみる」
「さ、もういいかしら。もう休みましょう」
「はい、お休みなさい」
桜子は、巫女全員を集めて昨日のお礼を述べた。
「昨日は親子共々皆様に助けて頂きありがとうございます。つきましては、同じ娘の二人・クリナとアナスタシアも記憶が無くなったままです。二人を助けます。協力してください」
「桜子さん、なに水臭い事を言うのです。私たちは仲間ではありませんか。だから私たちは全力で桜子さんを助けます」
クライが一同を代表するように返事をした。
「うん、ありがとう。それから、シビルとクライにお願いがあります」
「そうだね。桜子さんが言う通りで、・・・私たちは構わないです」
シビルの言葉が一瞬途切れたのは、クライの了承を得るために、クライを見たためであった。当然、クライからは異存はなかった。
クリナとアナスタシアは、別室におかれていた。話の内容を聞かれても理解できる事はないのだが、皆は気を遣うからだった。話しがまとまり直ぐに呼ばれて部屋に通された。桜子はシビルに、
「ねぇシビル。クリナとアナスタシアに話してくれないかい。私よりもシビルの方がいいだろう」
「分かったわ、説明する。でも理解は出来ないよ。いいわね」
「もちろんです」
シビルは、クリナとアナスタシアの前に行き、今から行う事を優しく説明した。クリナとアナスタシアは、やはり理解は出来なかった。
「私たちのために色々とありがとうございます。そうですね、記憶が戻るならぜひともお願いします。アナスタシアもいいよね?」
「はい、それでかまいません。というか、お願いします」
「桜子さん、いいわよ。それと、私たちは何をすればいいかしら」
桜子は昨日考えた手順を説明する。
「手順が間違っているかもしれない。疑問に感じた事はどんな事でもいいから全部話してちょうだい。いいかしら」
全員はうなずいた。そして心配そうに見守るクリナとアナスタシアであった。桜子は説明を始めた。
「最初に、ティアラの宝石が覚醒していなようなの。だから、宝石を覚醒させる。次に、本人を覚醒させるのだけれども。・・・・」
「どうしたの?」
「みなさんの宝石を全部預けてくれないかな。そしてこの二人に持たせるの」
「いいわよ。問題ありません」
クライが返事した。と同時にカムイコロが、
「この俺はどうしたらいいんだい。宝石は持っていないぜ?」
「そうです、私も娘の沙霧と澪霧も持ってはいません。身体に同化しています。だから私ら四人は手を繋ぎます。これで大丈夫です」
「うん、分かった。手を洗ってくる」
一同は笑い出した。これで場が和やかになった。
「でも、宝石の力の解放は分からないのよ。一度だけれども、シベリアでスミヤさんが解放した所をみたわ。あの時はスミヤさん本人が封印したのですから、解放も出来たと思います」
クライは、
「でもさ、一番力のあるダイヤの桜子だよ。きっとダイヤの力で出来るよ」
「そうならばいいのです。昨日ティアラを手に取った時は何も感じませんでした」
「やってみようよ。出来なくて当たり前。出来たらラッキーだよ」
デルフィナが言葉を挟んだ。重たい空気で発言出来るのは、若い子だけだ。
「綾香と彩香。ティアラを渡して」
「はい、お母さん」
「どうぞ」
桜子は二つを受け取ると、両手に包み込んで念じてみる。桜子が思ったように変化は無かった。
「お母さん。宝石の色で考えたら? ブルートパーズは青だから、澪がやってみる。ヒスイは緑だから緑のクライさんがいいかも」
「そうね、クライ。お願いするわ」
「やって見る。出来たらいいね」
二人は桜子からそれぞれのティアラを受け取ると、両手で包み込んで念じた。しばらくしても変化は無かった。二人は無言で桜子を見る。
「まだ諦めないで。きっと解放できるわ。頑張って」
二人は念じ続けた。桜子はある行動に出た。
「綾香は澪の背中に手を置いて念を送って。彩香はクライに念を送って」
二人は言われた通りにした。
「シビル、お願い。クライの背中に念を送って」
「デルフィナは、同じく綾香に念を送って、さ、早く」
そして桜子は、デルフィナと綾香に念を送ってみた。
「ねぇ、宝石が光ってるようよ。みんな、もっと頑張って! カムイコロが声を掛けた。しばらくして、二つの宝石は光りだして覚醒した。
「やったよ、桜子。出来たよ」
カムイコロは桜子を呼び捨てにして喜んだ。
「はは、念を送ったから疲れたのね!」
誰一人として元気な顔はしていなかった。
「わ~疲れた。休憩よ休憩」
クリナとアナスタシアは、どうにかして? 全員にコーヒーを淹れてくれた。全員がコーヒーを噴き出すほどのたくさんの砂糖を入れて。でも誰もが怒らなかった。
「さ、次はクリナとアナスタシアの覚醒ね。手順はブルートパーズとヒスイに宝石を持たせて呪文を唱えればいいのだけれども」
「そうはいかないの?」
クライが尋ねる。桜子は、
「そうなのよ。この二人はイレギュラーですもの。誰も知らない宝石よ?単純にいくかしら」
「桜子さんが弱気ではだめです。しゃきんとしんしゃい」
「はい、じゃきーん。・・・・」
「?桜子? んか字が違わないかしら」
「まぁ、訂正します。シャキーン!」
「クリナとアナスタシアさん。二人ともベッドで横になって。今から呪文を唱えます。呪文が利いたらあなたたちは深い眠りに就くわ。でも大丈夫よ皆があなたたちを守るからね。大丈夫よ。クライだって娘たちだって同じ道を進んだのよ」
「はい、お任せいたします。アナスタシア、頑張ろうね!」
「ええーと。さっきの宝石の覚醒と同じ要領に変更する。宝石を二人に持たせて頂戴。娘たちはそれぞれ手を繋いでね。最後は私がデルフィナと綾香の手をとります。カムイコロは私に念を送って頂戴。わたしなら、多分?死なないわ。加減は無用よ、ヒグマ準備はいい?」
「OKよ」
「ではいくわ!」
「我は汝の記憶を司る。我は汝の真名を唱える、ファティーマ クリナ」
「我は汝の記憶を司る。我は汝の真名を唱える、ファティーマ アナスタシア」
桜子は力強く呪文を唱えた。宝石は全部が輝きだす。クリナとアナスタシアは身体がガクガクと痙攣を始めた。
「ヒグマ。もういいわ。私を床で構わないから、抱えて休ませて。動けないの」
「あいよ、そう言わずにさ、ベッドまで運ぶよ」
「あ、あん? もう、全員がおねんねか。そこの二人。手伝いな」
クライとシビルは宝石を貸しただけだから何ともない。ヒグマと一緒に疲れた巫女をベッドまで運ぶ。
みんなを寝かせたらシビルが、
「貧乏くじを引いたよ。お昼の用意はこの三人で作るよ」
「そうだね、俺は酒だけでいいから、パスさせて」
「ダ~メ。しっかりと働きな!」
「いやだ~」
ヒグマは逃げて行った。なぜだろうか。しぶしぶ二人で全員の昼食を作り始めた。しばらくして、ヒグマが帰って来た。
「ほい、鮭がたくさん獲れたよ。今から刺身にすっから」
なんのことはなかった。テントにたくさんの鮭が置いてあったのだ。昨日の戦闘で川に浮いてきた魚だった。クライは考えたら分かるはずなのだが?料理は面倒だから、鮭の料理だけになった。・・・・夜もである。
クリナとアナスタシアはもう夜だというのに目覚めなかった。送られた念が多すぎたのだろうし、きっと宝石の歴史が長いせいであろう。たくさんの夢を見ている。綾香と彩香はティアラを握り締めて、二人が流す涙を拭いている。時々は二人の髪を撫でている。慈しみの観音様のようだ。
その後は何もなく時間は過ぎていった。
翌日は吹雪になった。これでは見えないから戦闘は中止になるのか。見えないのはお互いさまだし、第一に、戦闘は膠着したままだ。
署長は戦闘態勢で臨んでおくようにと指示して休戦にした。
巫女たちは、休戦とは出来なかった。クリナとアナスタシアは覚醒し、綾香と彩香と言い争いになった。どちらにしても、他愛のない言い争いだ。姉妹の喧嘩? いや親子喧嘩になるのか、放置していいのだった。
アメリカ軍から1個のダンボールが届けられた。開封した沙霧はすぐに外に出て行った。
「なによ、沙霧は。どうしたのかな」
「わー、みんな。日本からの手紙よ。早く来てちょうだい。たくさん有るわ」
各自で選り分けて読んでいる。機動隊への手紙は課長が届けた。
「ねぇ、お姉ちゃんは、もしかして? もしかするのかな」
「うん、そうだね。きっと独りで読みたいのよ」
デルフィナは怪訝そうに尋ねた。そして、
「みんなして、テレパシーを送ったら? 返事があるかもよ」
三人がテレパシーを送った。
「返事は無いわ。でも、笑いをこらえているような感じがしたよ」
「やっぱ、そうなの?」
「そうだね・・・・」
親子喧嘩は、新しい興味に削がれてしまい、いつの間にか終戦になった。
「お前たち、親子の関係は繋がったかい?」
桜子は娘たちに尋ねるのだった。
「はい、お母様。上々ですよ・・・・」
沙霧が帰って来たら、デルフィナと娘たち6人の合計7人で、新しい巫女の力を試しに出かけた。
帰ってきたら、
「お母さん、ねぇ、聞いて聞いて。凄い魔法が使えるようになったわ」
「ほほう、そうかい。ぜひとも聞かせておくれ」
「うん、あのね・・・・・・」
新しい魔法? 今から考えます・・・・・・・。




