第55部 綾香と彩香 ブルートパーズとヒスイ の巡り合い
1950年12月(昭和25年)ニューヨーク・倉庫街
ギュエー。ギャー。バキーン。骨が折れたか? ドタッ。バタン。
「もっと激しく? をご希望かな?」
埠頭の倉庫の奥では、カムイコロが大なたを振って暴れている。
「敵の首を切り落としたらダメよ!」
「ええ、分かっているわ。でも止められないのよ」
「もう、これは病気ね!?」
「そうかしら!」
人狼兵は胴体を殴られてへばってしまう。そこに巫女がソードで一刺しにして人間に戻していく。連携プレーも板についている。
デルフィナは一人で戦っている。本当に身軽な女の子だ。ただただ巫女の力が面白いのか。日本では退屈でもしていたのだろう、確実に一刺しを行っている。
「何よ! こののろま! おたんこなす」
「お嬢様、もう勘弁してください。私は先ほど刺されています、もう人間です」
「デルフィナ! そいつはまだとどめを刺していないわ。騙されないで」
「OK! 沙霧お姉さん。ありがとう。でも私も騙されていないわよ」
この人狼兵は、丁寧に3度の串刺しにされた。それでも死なないのだ。関心してしまう。巫女のソードでなければ何度刺しても人狼のままだ。
「あれぇ? デルフィナ。もう一つの剣はなんなの?」
「これは人狼兵から奪ったものよ。しつこい人はこれで先に刺しているのよ」
「? もうデルフィナは。遊ばないの。あとでひどい目に遭っても知らないよ」
「うん、心得た!」
「ホントかな?」
「うん、マジで」
「今日は楽勝だったわね。昨日はあんなに苦労したのに」
「風邪を引いていないかしら?」
「うん、大丈夫みたいよ。でもさ、寒中水泳でヒグマの本能が目覚めたのかしら。今日は一段と力が入ってるね」
「あぁん? 私になにか文句でも?」
「いいえ、お元気で何よりです」
「ほう~そうかい。シビルの訓練をしとくかい?」
「そうね、まだ使いこなしてもいないしね。自由に使える程度にはマスターする必要があるわ」
デルフィナが不思議なことを言った。
「ね、このシビルの魔法だけれどもさ、合体魔法に出来ないかな」
「何を言うの。そんな事は出来ないでしょう? 第一、火と水じゃ混じらないでしょ。火は沙霧だけだから、水と水なら合体が出来るかもね」
「一度試してみようよ。出来るようだったら練習しよう?」
「私は反対よ。シビルの攻撃魔法を交わせる自信は無いわよ。勘弁して!」
カムイコロさんが一言。
「一度試してみなさいよ。ヒグマで受けてみるわよ。な~に、大丈夫さ!」
「では、一発試してみっか!」
「何事も信じるこころがあれば・・・。というじゃありませんか。私が火で打ち消してみるよ。どうかしら? カムイコロさん」
「一回では死なないだろう。たとえ威力が二倍になってもね!」
ハドソン川の河畔で試してみることになった。的はヒグマに決定した。念のために澪霧とデルフィナの二人と、ヒグマとの距離を100mほどにする。
「アクア・バードスプラッシュ!」
「アクア・バードスプラッシュ!」
澪霧とデルフィナの二人がシビルの魔法を放つ。しかも後方へ放った。水の刃はすぐさま反転してヒグマへと向かう。
「ぎゃー、なんだいこの威力は。この俺でも防げないよ。沙霧! 助けろ」
「ファイヤー・バードスプラッシュ!」
沙霧がシビルの魔法を放った。だが力不足で炎が消されてしまう。
「ヒグマ! やばいよ。逃げて」
沙霧が大声で叫んだ。ヒグマは脱兎の如くハドソン川へと走り、そして飛び込んだ。水の刃はそれでも追跡は終わらなかった。
水の刃は二倍どころか、四倍に膨れていたように見えた。カムイコロは水中で鮭を捕まえて、岸に上がって来た。
「お土産だよ。ちょうどこの鮭が泳いでいたからさ、身代わりにしたのさ」
「そう、いいお土産だわ。下の半分が残っていたらね!」
「はは、そうだよね。半分は消えて無くなったよ。ガハハハ!」
「では! 炎と水で放ったらどうなるか、試してよ。相殺で消えたら何も起こらないから、安全でしょう?」
「そうね、二人でやってみる。言いだしっぺのデルが敵役ね! イヤダとは言わないわよね。そうでしょう?」
「はい、お姉さま。私が的になります」
それぞれの距離が今度は200mと長めにした。距離が長ければ途中で消滅するかもしれない。一応の安全策だった。
「アクア・バードスプラッシュ!」
「ファイヤー・バードスプラッシュ!」
二人で魔法を放った。予想に反して打ち消すどころか、同じく相乗効果で8倍くらいの大きさに変化した。
デルフィナはもの凄い形相になり、身体が動かなくなった。言葉も出ない。
「ああ、デルフィナも成仏するのか」
カムイコロは心でつぶやいた。が、次の一瞬でヒグマに変身して、側に在った木材をデルフィナに投げつけた。
「ギャー、なにするのよ。殺す気~~~」
バコーン。見事に命中した。デルフィナはハドソン川まで飛ばされて着水した。炎のシビルは川の水で打ち消されて消えた。水の刃は通常の大きさになり、これも消えてしまう。デルフィナは死なずに済んだ。
蒼い顔の二人が川岸に駆け寄り、デルフィナを引き上げた。
「デルフィナ? 大丈夫。死んでないよね」
「もう殺さないでちょうだい。本当に死ぬところだったわ」
デルフィナの唇は血の気が無くなり、ガチガチと顎が音を立てていた。デルフィナはその場でへたり込んだ。
「もう、動けないわ。こんな怖い思いは嫌よ。早く連れて帰って!」
「しょうがないわね。背中に乗ってちょうだい。暖かいわよ」
カムイコロはヒグマに変身して、デルフィナを背中に乗せて走り出す。
こうして3日目は終了となった。バスタブに沈むようにして、デルフィナは暖をとった。
◇
この風景を謎の巫女・四人が見ていた。
「もう、驚いたわ! こんな使い方があるなんて!」
「そうね、デルフィナは死んだかと思ったけど、やっぱり巫女ね。クマさんの危機回避が素晴らしいわ!」
濃緑と緑の巫女が言った。
「アクア・バードスプラッシュ!と、ファイヤー・バードスプラッシュ!を合体させるなんて、よくも考えたわ。褒めてあげたい」
「さて、私たちは、ドンに挨拶に行こうか。そして、ブルートパーズとヒスイの宝石を妹の二人に渡そうかしら」
ブルートパーズとヒスイの巫女が言った。濃緑と緑の巫女は、
「そうね、この戦いはドンのいる巫女に任せるのが一番ね。あなたたちはもう巫女は十分でしょう?」
「人狼兵に狙われるからもう嫌だよ。人間になりたい。ね、私たちは人間になれるかな」
「あ、そうだ。人間に戻れる方法があるから、やっぱり会いに行こうか」
ニューヨークの大戦も4日目になった。人狼兵の討伐は遅々として進んでいない。デルフィナは、夕食も摂らずに寝込んでしまった。父親の木之本署長は心配をしているが、娘には親心が届かない。
沙霧と澪霧は、母に今日の出来事を話した。双子はまだ動揺している。そんな娘の気持ちを察して、桜子は優しく話を聞いている。娘の二人は甘えん坊? になっていて、母から離れないでいる。
こんな光景を初めて見た妹の二人だった。いつも気丈に振る舞う姉の二人だが、今日ばかりは心底恐怖を味わったからか。
妹は姉の話に聞き耳をたてている。巫女の力が本当に怖いと思う姉二人の心境はいまいち分からない。安全地帯で弓を引く、機動隊の後方支援、街中探偵が仕事だからか。人の命を奪うという事は全くないのだ。
「私たちは戦場で兵隊さんが死んだ所を見ただけだよ。人狼に突き刺す剣は人狼を人間に戻すだけしか出来ないから、少しも不安は無いよね」
「そうよね。まして近親者を殺してしまうような出来事なんて、想像も出来ないし、経験もしたくはないわ」
「今度の魔法の威力が強すぎるのかしら」
「そうなんでしょう? 私はまだ見てはいないからかな、理解出来ない」
署長が部屋を訪ねてきた。少し躊躇ったのか、直ぐには話し掛けなかった。
「桜子さん、それと四姉妹のみなさんにお客様です。屋外のテントまで来て頂けませんか。なんでも緑の宝石とか言ってもらえば分かります! という事でしたがよろしいですか?」
「お母さん、来たみたいね。今日の練習を見ていたんだわ」
「そうでしょうね。みんな! 行きましょうか。デルには声を掛けてきてね」
「うん、彩香が行ってくる」
四人して部屋を出て行った。やや腫れぼったい目をしたデルフィナが遅れて来た。沙霧と澪霧は一人の巫女だけを見つめている。どこか見覚えがあるような?
「みなさま! 初めまして。私は濃緑の巫女のシビルと言います。こちらは緑の巫女の・・・・」
「クライ、ね。久しぶり。ご家族の皆さんはお元気かしら?」
桜子はシビルの会話を遮って、クライに話し掛けた。
「ええ、みんな達者でいるわ」
「お母さん、失礼でしょう。懐かしいのは分かるけれども、シビルさんの話しを聞いてちょうだい」
「あっ、ごめんなさい」
「ありがとう、え~と・・・」
「はい、次女の澪霧です。よろしくお願いします」
「まぁお行儀のいい巫女さんね。それに、他の三人とはどこか違うような?」
「まぁ、どうしましょう。直ぐに分かりました?」
「ええ、クライさんが教えてくれました。おでこが萎んで胸に行ったって」
「クライさん。もしかしてボリショイサーカスでお会いした?」
「ええ、そうよ。二人とも立派になったわよ。私も嬉しいわ!」
澪は少しはしゃいで母に報告した。
「ねえ、お母さん。このクライさんです。私たちに剣技を指導して頂いた」
「あらあら、そうでしたの。クライだったのね。遅れましたがお礼申しあげます」
ブルートパーズとヒスイの紹介を飛ばして、みんなは再会を喜んだ。
「あのう、すみませんが、こちらのお二人は?」
木之本署長がやきもきしながら、話に割り込んだ。後ろに立っている二人が不憫に思えたからだった。
「わ~、どうしよう。忘れてしまったわ。ごめんなさい」
「本当です、失礼しちゃいます。シビルさんはヒドイです」
「うん、ブルートパーズとヒスイさんね。昨日はありがとう。おかげで凄い魔法が使えるよになりました」
「ブルートパーズのクリナ。こちらはヒスイのアナスタシア。あなたたちは二度目ですよね。桜子さん、この二人をよろしくお願いします」
「クリナです」
「アナスタシアです」
「よろしくお願いします」X2
「ええ、娘を助けて頂いたわ、ありがとう」
「そんなことはありません」
「私は理解出来ないんですけれど、あなたたちはどこの生まれですの?」
「はい、ルーマニアです。育ったのはウクライナのオデッサ、という街です」
「ねぇ、シビル。この巫女さんの存在は知らないわ。宝石は8個じゃなかったの? それに、まだ他にも隠された宝石があるのかしら」
「そうなんだよ。私もオデッサに旅で寄っただけだったのよね。そうしたら、この二人が私を見つけてさ、声を掛けてきたのよ」
「すぐに巫女だと分かったの?」
「いや、感じるところはあっても、理解出来なかった」
「今は?」
「今でもよ! お願い桜子さん。ダイヤの力で呼び出してみてくれないか」
「そう、後でやってみるわ。それに、」
「それに?」
桜子は考え込んだ。新しい巫女が二人も現れたのだ。運命のいたずらではなかろうか。他にも宝石があるとしたら、なんだろう。どこにあるかな・・・・。
「ねぇ、桜子さん、聞いてます?」
「はいはい、聞いております。それにね、あなたたちは覚醒していないかもよ」
木之本署長がまたしても話に割り込んできた。
「え~と、少しよろしいでしょうか? そろそろ文字数が5000を超えます。ですので、あちらのテントに夕食の用意をいたしました。皆さんで召し上がってください。おいしい日本料理で準備いたしました」
「わ~お父さん、すご~い。見直したわ!」
「おうおう、もっと尊敬しろ!」
「では席をお移し下さい」
木之本署長は来客を案内した。テントでは課長が待っていた。
「よくお出で下さいました。いつも私どものお手伝いをありがとうございます」
「いえいえ、お邪魔いたします。え~と、・・・・」
「はい、日本の警視庁の課長をいたしております」
「そうですの。お名前は?」
「はい、まだ名前が無いんです。誰かの怠慢ですね。このまま課長とお呼び下さい。どこに行っても課長で通じます」
「お父さん、梅干しを入れただけで、日本料理なの?」
「はい、そうですよ。みそしゅるも有りますよ」
「オヤジ、どこの生まれだい?」
「さぁ~、どこだろう。娘だろう? 気にするな!」




