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人狼 Zwei (ツバイ)  作者: 冬忍 金銀花


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55/91

第55部 綾香と彩香  ブルートパーズとヒスイ の巡り合い 


 1950年12月(昭和25年)ニューヨーク・倉庫街


 ギュエー。ギャー。バキーン。骨が折れたか? ドタッ。バタン。


「もっと激しく? をご希望かな?」


 埠頭の倉庫の奥では、カムイコロが大なたを振って暴れている。


「敵の首を切り落としたらダメよ!」

「ええ、分かっているわ。でも止められないのよ」

「もう、これは病気ね!?」

「そうかしら!」


 人狼兵は胴体を殴られてへばってしまう。そこに巫女がソードで一刺しにして人間に戻していく。連携プレーも板についている。


 デルフィナは一人で戦っている。本当に身軽な女の子だ。ただただ巫女の力が面白いのか。日本では退屈でもしていたのだろう、確実に一刺しを行っている。


「何よ! こののろま! おたんこなす」

「お嬢様、もう勘弁してください。私は先ほど刺されています、もう人間です」

「デルフィナ! そいつはまだとどめを刺していないわ。騙されないで」

「OK! 沙霧お姉さん。ありがとう。でも私も騙されていないわよ」


 この人狼兵は、丁寧に3度の串刺しにされた。それでも死なないのだ。関心してしまう。巫女のソードでなければ何度刺しても人狼のままだ。


「あれぇ? デルフィナ。もう一つの剣はなんなの?」

「これは人狼兵から奪ったものよ。しつこい人はこれで先に刺しているのよ」

「? もうデルフィナは。遊ばないの。あとでひどい目に遭っても知らないよ」

「うん、心得た!」

「ホントかな?」

「うん、マジで」


「今日は楽勝だったわね。昨日はあんなに苦労したのに」

「風邪を引いていないかしら?」

「うん、大丈夫みたいよ。でもさ、寒中水泳でヒグマの本能が目覚めたのかしら。今日は一段と力が入ってるね」


「あぁん? 私になにか文句でも?」

「いいえ、お元気で何よりです」

「ほう~そうかい。シビルの訓練をしとくかい?」

「そうね、まだ使いこなしてもいないしね。自由に使える程度にはマスターする必要があるわ」


 デルフィナが不思議なことを言った。


「ね、このシビルの魔法だけれどもさ、合体魔法に出来ないかな」


「何を言うの。そんな事は出来ないでしょう? 第一、火と水じゃ混じらないでしょ。火は沙霧だけだから、水と水なら合体が出来るかもね」


「一度試してみようよ。出来るようだったら練習しよう?」

「私は反対よ。シビルの攻撃魔法を交わせる自信は無いわよ。勘弁して!」


 カムイコロさんが一言。


「一度試してみなさいよ。ヒグマで受けてみるわよ。な~に、大丈夫さ!」

「では、一発試してみっか!」


「何事も信じるこころがあれば・・・。というじゃありませんか。私が火で打ち消してみるよ。どうかしら? カムイコロさん」

「一回では死なないだろう。たとえ威力が二倍になってもね!」


 ハドソン川の河畔で試してみることになった。的はヒグマに決定した。念のために澪霧とデルフィナの二人と、ヒグマとの距離を100mほどにする。


「アクア・バードスプラッシュ!」

「アクア・バードスプラッシュ!」


 澪霧とデルフィナの二人がシビルの魔法を放つ。しかも後方へ放った。水の刃はすぐさま反転してヒグマへと向かう。


「ぎゃー、なんだいこの威力は。この俺でも防げないよ。沙霧! 助けろ」

「ファイヤー・バードスプラッシュ!」


 沙霧がシビルの魔法を放った。だが力不足で炎が消されてしまう。


「ヒグマ! やばいよ。逃げて」


 沙霧が大声で叫んだ。ヒグマは脱兎の如くハドソン川へと走り、そして飛び込んだ。水の刃はそれでも追跡は終わらなかった。


 水の刃は二倍どころか、四倍に膨れていたように見えた。カムイコロは水中で鮭を捕まえて、岸に上がって来た。


「お土産だよ。ちょうどこの鮭が泳いでいたからさ、身代わりにしたのさ」

「そう、いいお土産だわ。下の半分が残っていたらね!」

「はは、そうだよね。半分は消えて無くなったよ。ガハハハ!」


「では! 炎と水で放ったらどうなるか、試してよ。相殺で消えたら何も起こらないから、安全でしょう?」

「そうね、二人でやってみる。言いだしっぺのデルが敵役ね! イヤダとは言わないわよね。そうでしょう?」

「はい、お姉さま。私が的になります」


 それぞれの距離が今度は200mと長めにした。距離が長ければ途中で消滅するかもしれない。一応の安全策だった。


「アクア・バードスプラッシュ!」

「ファイヤー・バードスプラッシュ!」


 二人で魔法を放った。予想に反して打ち消すどころか、同じく相乗効果で8倍くらいの大きさに変化した。


 デルフィナはもの凄い形相になり、身体が動かなくなった。言葉も出ない。


「ああ、デルフィナも成仏するのか」


 カムイコロは心でつぶやいた。が、次の一瞬でヒグマに変身して、側に在った木材をデルフィナに投げつけた。


「ギャー、なにするのよ。殺す気~~~」


 バコーン。見事に命中した。デルフィナはハドソン川まで飛ばされて着水した。炎のシビルは川の水で打ち消されて消えた。水の刃は通常の大きさになり、これも消えてしまう。デルフィナは死なずに済んだ。


 蒼い顔の二人が川岸に駆け寄り、デルフィナを引き上げた。


「デルフィナ? 大丈夫。死んでないよね」

「もう殺さないでちょうだい。本当に死ぬところだったわ」


 デルフィナの唇は血の気が無くなり、ガチガチと顎が音を立てていた。デルフィナはその場でへたり込んだ。


「もう、動けないわ。こんな怖い思いは嫌よ。早く連れて帰って!」

「しょうがないわね。背中に乗ってちょうだい。暖かいわよ」


 カムイコロはヒグマに変身して、デルフィナを背中に乗せて走り出す。


 こうして3日目は終了となった。バスタブに沈むようにして、デルフィナは暖をとった。


 ◇


 この風景を謎の巫女・四人が見ていた。


「もう、驚いたわ! こんな使い方があるなんて!」

「そうね、デルフィナは死んだかと思ったけど、やっぱり巫女ね。クマさんの危機回避が素晴らしいわ!」


 濃緑と緑の巫女が言った。



「アクア・バードスプラッシュ!と、ファイヤー・バードスプラッシュ!を合体させるなんて、よくも考えたわ。褒めてあげたい」

「さて、私たちは、ドンに挨拶に行こうか。そして、ブルートパーズとヒスイの宝石を妹の二人に渡そうかしら」


 ブルートパーズとヒスイの巫女が言った。濃緑と緑の巫女は、


「そうね、この戦いはドンのいる巫女に任せるのが一番ね。あなたたちはもう巫女は十分でしょう?」


「人狼兵に狙われるからもう嫌だよ。人間になりたい。ね、私たちは人間になれるかな」

「あ、そうだ。人間に戻れる方法があるから、やっぱり会いに行こうか」



 ニューヨークの大戦も4日目になった。人狼兵の討伐は遅々として進んでいない。デルフィナは、夕食も摂らずに寝込んでしまった。父親の木之本署長は心配をしているが、娘には親心が届かない。


 沙霧と澪霧は、母に今日の出来事を話した。双子はまだ動揺している。そんな娘の気持ちを察して、桜子は優しく話を聞いている。娘の二人は甘えん坊? になっていて、母から離れないでいる。




 こんな光景を初めて見た妹の二人だった。いつも気丈に振る舞う姉の二人だが、今日ばかりは心底恐怖を味わったからか。


 妹は姉の話に聞き耳をたてている。巫女の力が本当に怖いと思う姉二人の心境はいまいち分からない。安全地帯で弓を引く、機動隊の後方支援、街中探偵が仕事だからか。人の命を奪うという事は全くないのだ。


「私たちは戦場で兵隊さんが死んだ所を見ただけだよ。人狼に突き刺す剣は人狼を人間に戻すだけしか出来ないから、少しも不安は無いよね」


「そうよね。まして近親者を殺してしまうような出来事なんて、想像も出来ないし、経験もしたくはないわ」


「今度の魔法の威力が強すぎるのかしら」

「そうなんでしょう? 私はまだ見てはいないからかな、理解出来ない」



 署長が部屋を訪ねてきた。少し躊躇ったのか、直ぐには話し掛けなかった。


「桜子さん、それと四姉妹のみなさんにお客様です。屋外のテントまで来て頂けませんか。なんでも緑の宝石とか言ってもらえば分かります! という事でしたがよろしいですか?」


「お母さん、来たみたいね。今日の練習を見ていたんだわ」

「そうでしょうね。みんな! 行きましょうか。デルには声を掛けてきてね」

「うん、彩香が行ってくる」


 四人して部屋を出て行った。やや腫れぼったい目をしたデルフィナが遅れて来た。沙霧と澪霧は一人の巫女だけを見つめている。どこか見覚えがあるような?


「みなさま! 初めまして。私は濃緑の巫女のシビルと言います。こちらは緑の巫女の・・・・」

「クライ、ね。久しぶり。ご家族の皆さんはお元気かしら?」


 桜子はシビルの会話を遮って、クライに話し掛けた。


「ええ、みんな達者でいるわ」


「お母さん、失礼でしょう。懐かしいのは分かるけれども、シビルさんの話しを聞いてちょうだい」

「あっ、ごめんなさい」


「ありがとう、え~と・・・」

「はい、次女の澪霧です。よろしくお願いします」

「まぁお行儀のいい巫女さんね。それに、他の三人とはどこか違うような?」

「まぁ、どうしましょう。直ぐに分かりました?」

「ええ、クライさんが教えてくれました。おでこが萎んで胸に行ったって」


「クライさん。もしかしてボリショイサーカスでお会いした?」

「ええ、そうよ。二人とも立派になったわよ。私も嬉しいわ!」


 澪は少しはしゃいで母に報告した。


「ねえ、お母さん。このクライさんです。私たちに剣技を指導して頂いた」

「あらあら、そうでしたの。クライだったのね。遅れましたがお礼申しあげます」


 ブルートパーズとヒスイの紹介を飛ばして、みんなは再会を喜んだ。


「あのう、すみませんが、こちらのお二人は?」


 木之本署長がやきもきしながら、話に割り込んだ。後ろに立っている二人が不憫に思えたからだった。


「わ~、どうしよう。忘れてしまったわ。ごめんなさい」

「本当です、失礼しちゃいます。シビルさんはヒドイです」


「うん、ブルートパーズとヒスイさんね。昨日はありがとう。おかげで凄い魔法が使えるよになりました」


「ブルートパーズのクリナ。こちらはヒスイのアナスタシア。あなたたちは二度目ですよね。桜子さん、この二人をよろしくお願いします」

「クリナです」

「アナスタシアです」

「よろしくお願いします」X2


「ええ、娘を助けて頂いたわ、ありがとう」

「そんなことはありません」


「私は理解出来ないんですけれど、あなたたちはどこの生まれですの?」

「はい、ルーマニアです。育ったのはウクライナのオデッサ、という街です」


「ねぇ、シビル。この巫女さんの存在は知らないわ。宝石は8個じゃなかったの? それに、まだ他にも隠された宝石があるのかしら」


「そうなんだよ。私もオデッサに旅で寄っただけだったのよね。そうしたら、この二人が私を見つけてさ、声を掛けてきたのよ」

「すぐに巫女だと分かったの?」

「いや、感じるところはあっても、理解出来なかった」

「今は?」

「今でもよ! お願い桜子さん。ダイヤの力で呼び出してみてくれないか」

「そう、後でやってみるわ。それに、」

「それに?」


 桜子は考え込んだ。新しい巫女が二人も現れたのだ。運命のいたずらではなかろうか。他にも宝石があるとしたら、なんだろう。どこにあるかな・・・・。


「ねぇ、桜子さん、聞いてます?」

「はいはい、聞いております。それにね、あなたたちは覚醒していないかもよ」



 木之本署長がまたしても話に割り込んできた。


「え~と、少しよろしいでしょうか? そろそろ文字数が5000を超えます。ですので、あちらのテントに夕食の用意をいたしました。皆さんで召し上がってください。おいしい日本料理で準備いたしました」


「わ~お父さん、すご~い。見直したわ!」

「おうおう、もっと尊敬しろ!」


「では席をお移し下さい」


 木之本署長は来客を案内した。テントでは課長が待っていた。


「よくお出で下さいました。いつも私どものお手伝いをありがとうございます」

「いえいえ、お邪魔いたします。え~と、・・・・」

「はい、日本の警視庁の課長をいたしております」

「そうですの。お名前は?」

「はい、まだ名前が無いんです。誰かの怠慢ですね。このまま課長とお呼び下さい。どこに行っても課長で通じます」



「お父さん、梅干しを入れただけで、日本料理なの?」

「はい、そうですよ。みそしゅるも有りますよ」

「オヤジ、どこの生まれだい?」

「さぁ~、どこだろう。娘だろう? 気にするな!」


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