第40部 夜空に瞬く星が、輝く朝日にかわるまで
前章までに大事な事を忘れていました。人狼兵は、日本人の確保が出来ずに終了
しました。次章からは貧困にあえぐ朝鮮半島の人が人狼兵に昇格します。
この頃は、GHQの指導を下に朝鮮学校の全閉鎖の命が下されていました。
そればかりでは無く、職に就けない朝鮮人多数が、事件や暴動を数限りなく引き
起こしています。済州島から避難して来た人々は帰国せずに日本に居座ります。
運が良ければ、炭鉱で働けて大きい収入がえられるし、故国に仕送りも出来ま
した。
「おい、所長が討たれたらしいぞ!」
「え? 何でだ」
「なんでも奇襲を受けたらしい? と」
「じゃあ、ここの仕事はどうしようか」
「俺たちの仕事にすればいいさ! 酒は飲めるからいいだろう?」
「そうだな、俺たち! 朝鮮人の挑戦! だ」
1948年1月(昭和23年)ロシア・シホテアリニ山脈
「綾香お姉さん、私たちは夕食の準備の手伝いをする予定だったわ」
「そうね、お手伝いに行こう」
綾香と彩香の両姉妹は先に部屋を出て行った。
「ソフィアお姉さまもお手伝いをお願いします」
ソフィアも二人に続いて出て行く。
残された5人は少しの間、無言であった。遠くでソフィアの声が響く。これはソフィアからの気配りだ。
誰かが口火を切るまで動かなかった。気丈な母の桜子だったが、霧の写真を前にしては気弱い女性? というところかもしれない。だからか、
「さ、私たちもソフィアに続いて行きましょう。娘が呼んでますわ」
「そう、よね。お姉さま! 行きましょう」
「うん」
気持ちを切り替えるべく、澪は姉に声を掛けるのだった。
「一番の泣き虫は自分だ。自分さえ明るくなれば、きっと、みんなは元気になる」
そう思ったからだ。そのように考えたらとても気持ちが楽になった。
「お母さま、お父さんも、行きましょう。早くお手伝いしないと、夕食に間に合わないから」
澪は母の手を引いて、沙霧は父の手を引く。
ミーシャは自分で立ち上がった。こころ淋しい思いが込み上げたのは、自分は部外者なのだから。それは当然だろう、と思ったが多分違う。懐かしい母スミヤの写真を見たせいだろうか。
だだっ広い食堂に着いた5人を、みんなは暖かく迎え入れた。暖炉には沢山の薪がくべられている。この建物も燃やさんばかり? の火の勢いだった。署長は建物を燃やす気でいるから、これは署長の指示だろう。
食堂のテーブルは、ロの字の形に配されている。ここロシアの進んだ食文化? の自慢のレトルト食品で構成されている。もっとも、この時期にしか存在しないのが難点だろうか。温めればシチュウも直ぐに出来上がる。レトルトは最高だ!
食材の入った箱は全て屋外に置かれている。クマの心配は? 屋内だけで十分だ。屋内に置いていると全部解けてしまう。
課長には沢山の酒が注がれている。注いでいるのは? ものにしたいと思う悠木さんだった。クマさんの前にはお皿ではなく、鍋ごと置かれていた。
赤くなりすぎた課長が、
「今日はご苦労さまでした。思う存分飲んで食べてくれ。全部俺のおごりだ!」
「ありがとうございます~」
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一方日本では、
「今年の酒はうまく出来たようだが、もう少し樽の温度を下げようか」
「そうだな、雪をもっと盛ろうか!」
酒蔵の大きい醸造用の樽の横に雪が盛られていった。
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こうして賑やかに時間が過ぎてゆく。広間とは別に寝具が運ばれた所があった。
「みんな、よくお酒が飲めるね。私たちだけよ、飲んで無いのは」
「あたりまえでしょう? まだ子供だもん」
「わ~ヒドイ! お姉さまはいくら二十歳になったからって、あんまりだわ」
娘ら5人は部屋の片づけや配置換えをしていた。大きい家具? でも5人で掛かれば瞬時に屋外に廃棄される。男くさい物は全部、屋外に飛ばされた。そして拭き掃除も終わる。
「これで十分だね」
「そうね、飲み過ぎて疲れたわ!」
「ソフィアは沢山飲みすぎよ! そりゃ、いくらロシアの血を引くといってもね」
「ソフィア姉さまも、父さん程は飲めないかな」
「父さんは接待で鍛えたらしいし!」
ミーシャと母、それと父が沢山のファイルを運んで来た。掃除が終わって運び込むのは常套手段である。5人の手伝いに入ると邪魔になるから? でもないが。
「さ、ファイルから写真を外して、と。これは母さんの写真で・・・」
「わ~、この母さんはお姉さまにそっくりよ!」
写真を取り出すのにも時間がどんどん過ぎてゆく。
そして、ミーシャさんの思いで話が始まった。
1枚、1枚の写真を前にして、状況説明と共にミーシャは涙も流した。
父は涙ぐんで無口になる。これは昔からで性格のようだ。
母は口元が緩んでいて、頬が疲れないかと心配した。
私たち二人は泣きながら、笑いながらも写真を見て、ミーシャの説明を聞く。
妹の二人も同じだった。妹二人には実の両親が居るが、姉の二人に同化している感じがした。
どんどん夜は更けて行き、一人また一人と疲れた順番に寝落ちした。
今日は、奇跡のようなロシア晴れになった。日本でもそうだが、冬に快晴は普通にあり得ないのだ。全員は眠い筈なのにとても元気に朝を迎えた。
「みなさん、起きましたか? 昼食の用意が出来ましたのでお集まりください」
「はは、悠木さんがボケてる!」
「そうね、まだ朝なのに、昼食ですって!」
「姉さん達がボケてる! わ~面白い」
「そうね、お姉さまに失礼よ、綾香!」
「彩香さん? そうね、とはなによ!」
「わ、姉さんが、さんを付けて名前を呼んだわ。怒ってる」
「わ~い、怒った、怒った」
「うんもう~綾香ったら!」
麓の街からはトラックが多数到着していて、証拠の物が積まれていた。私たちはファイルだけを判る様に梱包して箱に納めていく。今日は荷物の梱包と積み込みで終わった。また、レトルトの料理が出される。
「昨日の深酒で二日酔の筈よね。どうして今日も沢山飲めるのかしら?」
「飲んでいるのは今日ここに来た人達よ。課長さんを見て!」
「あらホントだ! 悠木さんに捕まってる」
「来月はお祝いになるね!」
「署長が仲人さんになるのかしら、楽しみね!」
「酔いが醒めたか、少し寒いな」
署長はぶるぶると少し震えていた。
夜には梱包されたファイルが開梱されてしまった。この部屋だけが明るく光っていた。
翌朝に日本に向けて出発した。二人を除いてであるが。
五日目に東京に到着する。荷物はその翌日に到着した。署長は学校に赴き学長へ二人の欠席を出席扱いへと依頼に行った。学長は当然二つ返事で了承した。
両親と妹二人は2日後に帰路についたのだった。沢山の想いでが詰まった荷物と共に。
生活安全課はその後も忙しい。
「署長、今回の暴動が朝鮮の人狼兵の仕業のようだが、巫女を呼ぶの?」
「いや、このまま収まる事は無いが、静かにさせておこうか。ニキータさん」
「そうね」
「それよりも、来週は祝言だぞ! 仲人だぞ?」
「シン! 鳥肌ものね」
「ふん! バカにするな。酒を飲めば何でも同じさ!」
この後の1年間は平和に過ぎて行く。1949年4月に召集がかかるまでは。




