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12話.十月は行楽!?狩りは身軽な服装で(前編)

. 


「きゃー!、山があんなにカラフルだあ~!!」





二階建てのバスの窓から、あたしは身を乗り出して。

冷たい風に顔を曝していると、大きな手が胴に回され、ひょい、と元の席に戻された。




「マナーが悪いですよ、ユキ」



溜息混じりの声。




ヤン先生だと思ったでしょ?思うよね、フツー。

違うんだな、コレが。




「二階の窓から出てるもんにぶつかる物体がそうそうあるとは思えないんだけど」

「本当におっさん、小姑クサいですねぇ」




あたしの膝の上に乗り込んで来た坊やが同意した。




「誰がおっさん小姑ですか。小っちゃい自称24歳に言われたか無いです」






そう、何を隠そう目の前の大っきな麗しの美青年が、






     トール。






そしてこのお膝の上に居る、小学生低学年っぽい可愛い少年は、




「ヤン先生、口調がまったく似合ってないよ。

お薬、まだ効いてこないんだね」






そう、ヤン先生その人なのだ。




窓際に置かれたお茶に手を伸ばして、先生はキャップを外すとあたしにも注いでくれた。


 


「どうぞ、ユキ。────まあ今日の午後には元の姿に戻るでしょう。お蔭で荷物が嵩張りましたが」




そう、二人は断固として、お互いの服を交換しようとしなかった為、服が二人分昼食のバスケットの他に、もう一つ乗っかった。




「どうせ持つのは僕じゃないですか……」




長い銀髪を紐で一括りにしたトールの、菫の瞳が剣呑に眇められた。

その視線の先の師匠は弟子の抗議など何処吹く風だ。




「機嫌が悪いですねぇ、トール。

常々貴方は『早く大人になりたい』と言っていたじゃないですか。

一時とはいえ、夢が叶って師に感謝する気持ちは無いんでしょうか」




肩を竦めて、先生はあたしの腕を両手で掴むと、よいしょ、と自分の胴に回させた。






ギリリリリリリリィ。






物凄く悔しそうな歯軋りの音が、トールの口許から聞こえた。




「そりゃあ同意の上なら、ですね。

誰かがこっそり、僕の部屋の水差しにこんな薬を混入したんじゃなきゃ、素直に感謝しましたとも」



 


またまたまたまたヤン先生の人体実験だったらしい。

予想外だったのは、おっきくなったトールが逆襲した事。

いつも彼の手の届かない場所に置かれていたサプリだったもので、油断していたらしい。



今回の薬は【時迷走】ってお薬。

効果はご覧の通りだ。



笑顔で啀み合う師弟を余所に、あたしは窓から見える景色を楽しんでいた。








      ★




今回のお出かけは果物狩りだ。




しかも、一種類なんてケチな事は言わない。


ありとあらゆる山の幸を持てるだけ、食べられるだけ、取っていいんだそうで。

食べる事が大好きなあたしはウキウキしている。




今月のクレヨンは銀杏の葉っぱみたいな秋の色。



見る間に移り変わる季節の様に様々に色を変える不思なクレヨン。

幾ら使っても減る事の無かったソレは、実は包み紙ギリギリの処まで僅かに減っていた。



でも、ほんのちょっと、だ。



今まで変化が無かったのがそもそもおかしいんだし。


 


少しだけ、引っ掛かっていたそれは、目の前に広がる山々の紅葉に、あっという間に忘れ去られてしまった。







山裾でバスを降りると、何故かそこには、でっかいスフィンクス像がでーん!と。


すっごい頭上から朗々と声がする。






『質問。朝は四本足、昼は二本─────』

「「人間」」


師弟、秒殺だった。





「…ねぇ、にゃんこ前足に顔を突っ伏して泣いてるよ?」



どうしてこんな時ばかり気が合うのか、この二人は。




「何千年、同じお題でやってると思うんですか。

お笑いならとっくに消えてますよ」

「そんな処で甘えられましてもねぇ。

ご婦人なら何時間でもお付き合いしますが」




トホホな顔であたしは立ち並ぶお土産屋さんの路を、ヤン先生の手を引いて歩く。




「いろんなお土産があるねぇ、先生」

「ちょっと見て行きますか、ユキ」




あたしはパア、っと顔を綻ばせた。



「いいのッ!?先生」



先生は財布を持たせていたトールを呼び付けると、

あたしが気に入りそうな店に足を向ける。


 

「『いいの?』も何も、さっきから貴女ソワソワソワソワしていたじゃありませんか」

クスッ、と微笑うと、少年はオルゴールの音色のするその店内に、あたしを招き入れた。





渋い木造のその中には不思議な物が沢山置いてあった。

綺麗な千代紙に巻かれた、六角形の筒を手に取って見る。




「…これ、万華鏡かな?」




店番のお婆ちゃんがフフフ、と人の良さそうな顔で微笑っている。




「お嬢ちゃん、この糸の先をその筒の小さな穴に差し込んでくれないかい?」

そう言うと、白い絹の糸玉を手渡してくれる。



「‥こう?」

「そうだよ。─────音楽スタート!」



お婆ちゃんの声と共にノリノリのクラブ系ミュージックが流れる。

すると、何と筒からレースのモチーフが次々に編まれて出てきたではないか。




「え!?どうなってるの!」




あたしがびっくりして筒の中を覗くと、虹色の小~っちゃい蜘蛛が、中で音に合わせて八本の脚を忙しく動かしていた。



 


やがてあたしに気付いたらしく、その中の一本を、

“イェーイ”とばかりに、高々と挙げる。



編み機ならぬ編み蜘蛛というワケ。




なるほど。




「ユキ、こちらも面白いですよ」



先生に呼ばれて行ってみると、可愛い靴が飾られていた。



『魔法の靴』と書いてある。


説明書を読むと、

《履いて踵を三回鳴らすと、思い描いた所へ飛んでけます》




えーっ!?凄い性能じゃん。




「いえ、確かに土産物です。その証拠にご覧なさい、ココ」




小さく※印が隅っこに。豆粒大な文章が羅列している。






《但し、着地の場所は選びません》






……うん、土産物のノリだね。



他にも山葡萄の水飴やら、テッポウユリの集音機やら。変わった物で一杯だった。







ふと、上から下がっている暖簾に気付いた。




深い緑の綺麗な暖簾には、妙齢の美しい女性が若い娘達を侍らせている。

彼女は華やかな笑みを浮かべ、御付きの娘に手を取られていた。








その、視線が。


ゆっくりと、動く。


 






     「ユキ」






はっ、と我に返り、声のした方に振り向くと、穏やかな笑みを浮かべた少年が、試食のお漬物を手に取っていた。




「何、それ美味しいの?」




先生は頷くと、あたしの手を優しく握った。

その時初めて気付いたのだ。





自分の手がブルブルと震えている事に。





もう片方の腕が、腰の辺りをそっと押した。

彼はちらり、と暖簾を見上げる。

鋭い一瞥を“美女”に向けると、二度とその一角には戻らなかった。










ハイキング服装の人で溢れ返り、山は大賑わいだった。




「そういえば、この山何て名前なの?」




短い割り箸に紫の水飴を練り練り練ってくれ、素敵な美青年は微笑んでそれをあたしに差し出した。




豊穣山脈(ほうじょうさんみゃく)紅蓮山(ぐれんざん)

ここは秋の女神のお住まいで、大層お気に入りの山だとも言われています。それで、とても長く恵みが続くんですよ」




遠くまで目を凝らして見回してみるが、確かにここまで紅葉も実りも見事な山は無さそうだ。



凄いなあ、と感心しているあたしの横を、転がり抜ける物有り。



 


後ろから、続けて、






ゴロゴロゴロゴロゴロゴロー!






薮を突き抜け、走って行く。




「出たぞー、栗だー!!栗の群れがあっちに行ったぞー!」



大きな声がして、網を片手に皆がそれに続いて走り出した。




「…何故、栗が走っている?それに……網?」




ぽん、とあたしにも渡された丈夫そうな軽い網。

同じ物を掲げて、トールはちゃっかり見物を決め込んだ先生に、お昼のバスケットの番を頼んでいた。




「何を言っているんです。とってもイキがいいでしょう?

これこそ《果物狩り》の醍醐味じゃないですか!?」




皆が毬付きの一mくらいの栗を追い掛け回していた。




「“狩る”んだ、果物‥。‥ゆうかさんが来なかった理由が分かったよ」

「沢山捕まえたら、僕が何かお菓子でも拵えて、差し入れしますよ」




だから、頑張って。と言外に告げて、菫の瞳がウインクを決めた。

あたしも笑顔が零れる。

ゆうかさんの為とあっちゃあ、ね。頑張らなきゃ。


 


網を構えて栗群を追おうとしたあたしをバスケットの上にちょこん、と乗っているヤン先生が手招きする。




「なぁに?先生」




傍に行ってみると、単語帳みたいな物を渡された。

ぺらり、と捲ると、たった三枚しか付いていない。

複雑な文字と模様が黒々と隅で描かれていた。




「何コレ?お札みたいに見えるけど」



「先程の店にあったんです。ジーンズのベルトを通す処に下げておいて下さい。御守りですよ」




戸惑いながらもありがとう、とお礼を言って言われた通りにしていると、






フォオオオオ~、フォオオオ~ン!!







と、法螺貝を山伏が吹き鳴らし始めた。




「ラ・フランスが出たぞー!!」






ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロリンヌ!






わーっ、と歪な果物の群れに人々が殺到する。




「さあ、傷んでしまう前に僕達も行きますよ。目指すは、各種三個獲得」

「おーっ!」




あたしとトールはいろんな果物が地面を、樹々の梢を渡り、逃げ回るのを追い掛けた。



 


息急き切って、二人で捕まえたのは梨一個、栗が二個。キノコ類、三種。



網に入った物は何故か、ピタリと暴れるのを止めて、ただの果物になっちゃうのだ。




「後、何があるかなぁ。そういや、葡萄は?見ないね」

「葡萄は特に気性が荒いですからね。この辺は良く出ると聞いていたんですが…」




あたしとトールがテクテクと網を持って彷徨っていると、標識を見つけた。

土砂崩れを表す記号が描かれた、黄色いソレに、





 《危険!山葡萄雪崩れ》






と、ある。

いやな予感に顔を見合わせてみれば、







‥ド‥ドド‥ドドドドドドドドドドォオオオオオオッ!!!







「山葡萄だあああああああぁぁ~!」







上の方から、ゴロゴロと転がり、誰かの叫び声と共に迫り来る大量の紫色の物体。

血相を変えたトールが、あたしを小脇に抱え込み、山裾に向かって駆け出した。



 




「ぶぶぶぶ葡萄がああああ」

「黙っていなさいッ!舌を噛みますよ!?」



彼は白いシャツのポケットから、数枚の色鮮やかなカードを取り出す。

親指と人差し指で鳴らす様に素早く弾いた。




「【ワンドのナイト】─────僕達の背後を護りなさい!!」




タロットカードの小アルカナから騎士が現れれ、山葡萄を弾いた。




「【運命の輪】よ、僕らを包み込め!」




大アルカナから四つの頭を持つ巨大な輪が現れ、回転して白い膜に変化する。

やがて馬ごと騎士が紫の津波に飲み込まれ、ただのカードに戻った。




地鳴りの音に巻き込まれ、お餅の様な膜にエアバック状態で二人して包まれる。







あたしの記憶はそこで一旦、途切れた。













    ~中編に続く~



 

 

 



 

 




 


 


 


 


 



 

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