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1.五月は出会いの季節(前編)

異世界で12の月を巡って行く、一人の少女の物語です。

貴方の胸の中に小さな傷はありませんか?


忘れてしまった小さな棘はありませんか?



一本のクレヨンで描く扉の向こうには、おかしな彼らと不思議な世界。


何処か貴方に優しくて、懐かしいこの世界を。

ユキと一緒に一年を巡る旅に出掛けてみませんか?



これは貴方の物語。














あたしは散歩道、一本の黄緑色のクレヨンを拾った。

それが、あたしとヤン先生との出会いの始まり。



「てれらりら、れん~♪」


キテレツな歌を歌いながら、あたしはいつもの如く、手にしたクレヨンでアスファルトの地面に簡単な長四角を描いた。




丸い把手をつければー?


「出来上がりィ~」



上機嫌で、あたしは掴めない筈のソレを持ち上げる。

すると、地面が扉の形に抜けた。

「そーれ~♪」

あたしは迷いもせずに、その中に飛び込む。




ぽよよよよょん。




実にマヌケな音を立てて、白いトランポリンが跳ねる。まるで、この緑の大草原の中に咲いた花みたい。


「めしべ?」


あたしは自分を指差して、笑った。

ここはいつもいい風が吹いている。初夏の風、薫風だ。


「…相変わらず、呑気なヒトですよね、ユキは」



幼い声に下を覗き込むと、少年がデッカイ紙飛行機を折っている処だった。


「うっス!トール」


あたしはぶらん、と逆さに実ったまま、挨拶をした。


「張り込み?」


そう尋ねると、銀髪菫瞳の美少年は、何処から出したのか、ハト型豆鉄砲を取り出し、撃ってきた。




  ぱぱぱぱ、ぽん!



豆はデコに全弾命中。

「食べるんじゃ、ありませんッ!!」


ちっ、見られたか。


「ヤン先生がお茶の用意をしてますよ?」

「桃饅出る?」


トール少年は火花草を手際良く、紙飛行機の翼と尾翼に括り付けた。


「僕が貴女を迎えに来る前に拵えておきましたよ」

そう言うと、『降りてきなさい』と招いた。

草原の中に鎮座したソレに…


乗るんだよね?アレに。やっぱし。



「トール、いつものデカ燕君はどうしたー?」

そう、いつもヤン先生の町まで送り迎えをしてくれるのは、人が乗れる程の、体格と懐のビッグな燕なのだ。


「恋人が出来まして…。(ちっ)

巣作りの為片道分しか、時間を裂いて貰えませんでした」


今、舌打ちしたよね…?キミ。

胡乱なまなざしのあたしの手を取り、飛行機を跨ぐと、トールは…



「ファイアー!!」と、叫んだ!

その瞬間、火花草が、





     『カッ!!』





と、開いた!



ゴオオオオオオオッ!!




「んなああぁあああッ──────!?」

カッ飛んだ!



見る間に星の様に流れていく景色を眺める余裕も無く、あたしはトールにしがみついた。



「きいゃああああッ!!!!!ミグ―!」

「何処がロ●ア製戦闘機ですか。

しっかり僕に掴まっていれば、大丈夫です!コレでも加減してるんですからね?」


「うそー!?いやぁ助けてェ、ヤン先生ぇええぇッ!!」


あたしの叫びに、何故かトール少年の瞳が底光りした。




「──────最大出力で飛ばします!」




物凄い勢いで町外れの先生宅に着いた。



「おや、早かったですねぇユキ」

のんびりとした声が、遠くからでも耳に届く。


ヤン先生だ。

やばい、通り過ぎちゃうよ。

どーにかしなくちゃ!

何とかしなくちゃ!


あたしは咄嗟に何やら色んなイミでヤバい呪文を叫んだ!





     「イオッ!!」






その瞬間、ノリの良い火花草が七色の閃光を放つ。


「ドラ●エ!?」





    ぼぎゃあぁんッ!!!





案の定爆発した。

 


 


ひゅるりるるるる~…






あたしとトールは宙を舞った。



「キャティ、トールを!」


にゃん、と返事がして、どでかい白猫がジャンプした。






    ぱくっ!!!






上手に巨大猫は美少年のシャツ裾を咥えた。

一方、あたしの方にはヤン先生が走って来た。



「青龍58、玄武67 、白虎12‥誤差修正、朱雀5…よし!」



怪しげな風と位置の読み方をして、

それでも正確にあたしの真下に滑り込み、抱きとめた。






      どん!!






─────────ゴロリゴロゴロン!



衝撃に二人して転がり、

ツツジの植え込みに突っ込んだ。



「いたたた‥。ユキ、怪我はありませんか?」

「──────ヤン先生こそ!」


「私は大丈夫ですよ。…私は」

見れば植え込みが、人型に凹んでる。




「あたし、ダイエットするわ…」




横では紙飛行機が炎上していた。


「ああッ──────!!!僕のトマホークがぁッ!?」

そっちかッ!?




「…まぁ、その内収まりますよ。さ、アーチを潜ってお入りなさい。お茶にしましょう」



ヤン先生の家は決して招かれない者は入れない。

緑のアーチに下がる花は、今月は藤だ。

紫と白の美しい枝垂れる様はとても美しい。



「今日のお茶は茉莉花茶ですよ」



丸いテーブルをいつもの様に3人で 囲む。




ああ、ごめん。

長々と自己紹介を延ばしたね。

あたしは春日美雪カスガ ミユキ14歳だよ。


今居るココが普通とちょっと違うのは、もう皆分かっちゃったと思う。


ヤン先生とトール少年。

二人はあたしを拾ってくれた恩人だよ。

でも、実は迷い込んだ原因でもあるんだ。




きっかけは黄緑色のクレヨン。




それはあたしが落ち込んで歩く学校帰り。

子供っていいよねー、勉強だけしてれば生きていけるんだから。


大人の誰かが何かでそんな風に言っていたのを何となく覚えている。


大人は知らないんだ。


子供の世界は狭い。

そして、その小さな檻の中で何の気遣いも無く、

自分の気持ちだけで真っ直ぐ人を傷付けてくる子だっているんだ。


ちょっと目立ったり、変人だったりすると、意味も無く目の敵にされたりする。



そうして、あたしはそんな一人だった。



目の前の小石を蹴って、あたしは帰っていた。


蹴って、蹴って、何も考えない様に。



ただ蹴っていた、その先に…

草で出来た緑の小さな輪の中に。



一本だけのクレヨン。



黄緑のクレヨンは白い紙に巻かれて、それには不思議な模様が描かれていた。



握ると仄かに暖かい。


何だか不思議に笑みが零れた。胸がワクワクしてくる。


心のささくれが不思議と優しく包まれて、お薬を塗り込まれた様。




「ふふふふ。綺麗、これ、凄く綺麗」

描くと、どんな色になるの?

今すぐ描きたい。何かに。



そして何かは直ぐに見つかった。


粗大ゴミに混じった古い襖。

やや黄ばんだそれにあたしは目を付けた。


何を描こう?何を描こうか?

何が今、描きたい?




あたしは何処かに行きたかった。


泣いても誰にも見られない処にずっと行きたかった。

だって、家族には知られたくなかったから。


見られていない様で人の目はある。

「お宅の美雪ちゃん、泣いてたわよ」

…なんて、お節介なオバサンがお母さんに言うかもしんない。

中学生が外で泣ける場所なんて、意外と無いのだ。




「扉を描こう」




そうだ、扉を描こう。


口に出すと、思いが形になった。

簡単な扉、開けられらる筈も無い。


でも、こんな綺麗な色の扉なら、きっと想像だけでもきっと楽しい。


あたしは四角く、簡単な、幼児が描きそうな扉を描いた。


把手は丸く、ほら出来上がり。


中の色は塗ろうか、でもそんなに使ったら無くなっちゃうかな?


そう考えてその扉に両手を置いた。

不意に


扉が前に開いた。





「え?」





当然、倒れ込むあたしの身体。

その向こうは青空。




ひゅーん。




そんな音を立てて、あたしの小さな体が、何と、何も無い大空を滑降していく。




「ほにゃらららにゃらはぅわ───────ッ!!」




何語かも分からない叫びを上げて、あたしは空気抵抗いっぱいいっぱいで膨らんでいる。

目の下に広がる、長閑な風景。



海、森、家、草原、山ー!!!!!



「ああ、駄目ーもー死ヌー!!かーさん、にーちゃん、ポンタ(犬)あああッ!!」



何でか父さん出て来ない。

どうにも死に際にも当てにならないらしい。








       『望むか?』




手の中のクレヨンが光った。

何を?と、反射で思った。




『心の救済を望むか?』






何だか知らないけど、今は心より身体よッ!!


心から楽しそうな笑い声が脳裏に響いた。

そう、その声は耳にするものでは無かったのだ。





  『ならば、思うがままに叫ぶのだ』





せぇの、




「たぁすけてぇええええぇッ──────!!!!!!」


きらりん、と太陽を黒い何かが横切り、急降下してくる。


何?鳥?‥‥燕?

あたしに向かって突っ込んでくる、それは。

巨大な燕と、燕に付けた手綱を片手に掴んだ乗り手の青年だった。





肩までの黒髪が風にはためいて。

褪めた蒼のスタンドカラーのジャケットがまるでチャイナ服の様。


そんな彼が大きく、残る片手をあたしに差し出した。




「助けに来ました!!」




がしッ!!と掴まれる腕。

力強く抱き寄せられて、あたしは広い胸に飛び込んだ。


そのまま彼はあたしを懐深く抱き込むと、ほう、と安堵の溜息を吐いた。



「‥間に合って良かったです。

すみません、『彼』はとてもきまぐれで」



緑の瞳が優しく瞬いた。

それからふと、風に晒されていたあたしが話す処じゃないって事に気付いた。

冷えきってガタガタと震えていたのだ。



「テール君、家の方にお願いします。

早くお嬢さんを暖めなくては───────」



燕は心得た、とばかりにくるりと方向を変えた。


風を切って飛ぶ黒い翼の上で、

彼は自分のジャケットであたしを包み込む。



「暖かいお茶と、お菓子で貴女を歓迎致しますよ。

お嬢さん‥心から」



木目も鮮やかな緑色の家が目に飛び込んでくる。

彼はそれを誇らしげに指差した。




それが彼とあたしの始まり。



「ようこそ、我が家へ!!」








『求めよ、されば扉は開かれん』






 そんな言葉がふと閃いた。









「どうしました?ユキ」


柔らかな声に顔を向けたあたしは、

にこにこと微笑ってお茶を口に運んだ。


「へへ。またヤン先生に助けられちゃった、と思って」


ヤン先生は笑うと糸の様に見える細い目の、自称24歳だ。

尤もトールに言わせると、随分前かららしいんだけど、どれくらい前からそうなのかは命に関わるから、と教えて貰えてない。

職業は町のお医者さん。


ふふふ、と照れた様に微笑むと、先生はあたしにお茶のお代わりを注ぐ。


この優しい微笑みが見たくて、

あたしは毎週日曜日になると、朝からこの世界に来る様になった。


ヤン先生の隣にいるのが、助手のトール少年。

一コ下の13歳。


あたしを毎回手作りおやつでもてなしてくれる、お菓子作りの天才。

長い銀髪を一括りにして、いつも礼儀正しい。


綺麗な菫色の瞳が、何故かあたし達の様子を見て、

物騒に光っている。


「キャティがいて良かったですよ。

でなければ、トールはぺしゃんこでした」



「…猫手が無ければ僕を助ける気はありませんでしたね?貴方」



「勿論ですよ、トール。

女性は老若区別無く大切にしなくてはなりませんが、男はペンペン草の養分にも成り得ないんですから」




ヤン先生は徹底した男性蔑視のヒトだった。



女は千尋の谷からでも全力で救い出すが、男は素通りといった大人気なさだ。

トール少年は女の子みたいに可愛く無ければ、決して助手にはなれなかったろう。



ははははははは。と、乾いた笑い声を交し合う。



お互い、目を見開いてホラーな雰囲気を醸し出して無ければ放っておくのだが。



「ねぇ、先生。最初に言ってた『彼』って誰?」

先生はちょっと困った顔をした。




「──────知り合いなの?」



 『彼は』とても気紛れで



あの時、先生は確かにそう言った。

先生が躊躇いながら口を開こうとした、その時────────




びーびーびーびーッ!!!!!!!




庭のベルフラワーが一斉に警報を鳴らした。

ロベリアが薄紫の花弁から光を放つ。

スズランが可憐な頭を擡げた。


 

 



ビュウウウゥシィイイイッ─────────!!






「あちちちちィ~、ヤン先生助けてぇ!?」



性懲りもなくアーチを潜らず、主の許可も無く庭に飛び込もうとした、

コウテイペンギンみたいな髪の青年がスズランビームを背中に食らって、転げ回っている。



キャティがトコトコとやってきて、先生が頷くのを確認すると、菖蒲の葉っぱを『くいっ』と曲げた。


花弁から水が吹き出して青年を冷やすと共に、水圧であたし達の目の前まで連れて来た。



「…今度は何ですか?チャーリー」



些かうんざりとした様子で先生は尋ねた。


そう、彼がこういう騒ぎを起こしたのは初めてでは無いのだ。


あたしが来ている時は必ずだから、少なくても毎週。



「!!───────そうだ、先生!

俺、燃えてる場合じゃない、大変なんだよ!!」


「だから何ですか?」



「パン屋のピエトロと向かいの飯宿のニコが大ゲンカしてんだ!

大通りの自分の店の白い壁に、

お互いの悪口を延々と書きなぐってやがるんだよ!!」



ツバを飛ばすチャーリー青年を華麗に無視すると、

先生はよいしょ、と座り直した。



「ユキ、今度は蕎麦茶でも淹れましょうか」



「全否定!?」




四つん這いのまま移動して、素早く先生に縋り付いたチャーリーは、

「止めに来てくれよー、先生ーッ!」と、嘆いた。


「私の本分は医者ですよ?畑違いです。

そういう揉め事は町の顔役であるガウェインにでも相談なさい」



絶望的な顔をして迫る青年を、先生はうっとおしそうに引き剥がす。



「それじゃ、間に合わないんだよっ!!」

ペンギン頭を彼が振り上げたその時、






ビュウウウゥシィイッ―――!!






「あちちちィ~、ヤン先生助けてぇ!?」


以下同文。




「そういうのは、もうお腹一杯なんですよ、ジャン」



先程とまったく同じ展開で流されて来た青年(彼の従兄弟)に、先生は溜息を吐いた。



「いや、俺燃えてる場合じゃないって!先生、ゆうかさんが大変なんだよ!!」




ゆうかさん?


それは海辺の家に、大きな猫さん達と住んでいる売れない作家さんだ。


きらり、とヤン先生の目が光った。



「ゆうかがどうしました?」



「ぎっくり腰で牛乳パックを握ったまま、庭先に倒れてたんだよッ!!」



あの人幅取るし、目立つからそのままして置けなくて‥と続けるジャン青年を余所に。


ヤン先生は素早く立ち上がり、

家の中で診療鞄を掴むとトールに薬の指示を出す。



「うわあ、ゆうかさんのぎっくり腰が優先かよー!」

「当たり前です!!ゆうかは一応、大きな意味で分けると『女性』なんですよ!?」



チャーリーの脳天に手刀を振り下ろし、先生が叫んだ瞬間。






「ヤブ医者あああああァッ――――!!」






白い大猫の頭が玄関を突き破った。



手綱を付けたソレから、ぽーん、と降り立った女の人は、齢×歳の自称熟女さん。



「ヒトを人類誕生以来の生殖有史に於ける範疇だけで分類して論ずるのは止めやがれぇ!」


「‥ゆうか、元気一杯叫んでも、座り込んでいては迫力半減ですよ?」




白猫がムリムリ中に入って来る。

ゆうかさんの襟を咥えると、背中に乗せた。


あれはマロ君、ゆうかさんが飼っている3匹の内の猫さんだ。




「さあ、診察しますから降りて下さい」

「馬鹿言うな、私はぎっくり腰なんかじゃない」



腰に手を宛てて、聞き分けの無い患者さんに先生が説得していると、トールが。





「ああ。ゆうかオバさんは椎間板ヘルニ‥」「ニーキック!!」




子供にも容赦無い、ゆうかさんの蹴りが美少年に見事に決まった!



「ヘルニアでも無いわ!

ただ時々、腰が3秒程抜けて立てない時があるだけだッ!!」



「──────それって結構ヤバいのでは…」




呟いたあたしを振り返り、熟女はにっこりと微笑った。



「おう、ユキちゃんやん。来てたのか?

丁度良い、この馬鹿共を連れてってくれ。

テール忙しいんだろ?帰りはマロに送らせるからさ」



ゆうかさんも女の子には優しい。



途中、余程飛ばして来たのか、風で膨らんだ肩まである天パ茶髪が若干オールバックになっていた。



黒い瞳が爛々と光ると、容赦無く睥睨した。






      ~2へ続く~

 


 



 


 





 

 

こちらはほのぼの連載です。よろしくお願いします。

読んで戴き有難うございます。

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