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llorar  作者: ataru
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8/8

 (りょう)のこめかみから、赤い液体が下に流れる。

 私は、諒をしっかり抱きしめていた両手を、そっと離した。

 諒の体が、スローモーションのようにゆっくり倒れていく。

 ドサッ

 体が床に倒れた。でも、諒は反応しない。

 私の撃った銃弾によって、諒は、二度と帰らぬ人となった。

 私は、まだ煙を吐いている拳銃を見る。

 この拳銃から放たれた銃弾が、諒の脳を貫き、殺したのか。

 銃を撃つのには慣れているはずなのに、何だか、とても不思議な気分だ。

 私はため息をつきながら、拳銃を捨てた。


 私は、諒を撃ったあの銃に、何か感慨深いものを抱いている。

 別に、諒を殺したことを喜んでいる訳ではない。ただ……なんと言うか、今までにない特別感のようなものがあった。何か名誉ある大役を成し遂げた時のような、そんな達成感がある。

 でも……私は、もう二度と、人を殺すことができないであろう。

 諒が死んで、私は、何かとても大事なものを失ったような気がした。()()が無ければ、私は『私』として完成しない気さえする。いわば、ジグソーパズルの一片と同等に大事なもの。

 それを失ったことで、私は今、どうしようもない喪失感を味わっている。

 私は当初、ものすごく心が歪んでいた。底知れぬ闇のように暗く、陰湿な性格を持っており、そんな私と『正常な』私との釣り合いが取れない人間だった。そんな私にとって、諒や殺人は、一種の『制御装置』だった。偏狭で、性根が腐っていた私は、諒を足かせ代わりにしたり、自由奔放に人を殺したりして、ここまで生き抜いてきた。

 でも、殺人という制御方法で、諒という足かせを失った今、私は、正常に自我を保てないでいる。

 自分に向き合ってみてみると、自分はここまで弱い人間なのだということが、よく分かる。私は、何かに(すが)って生きていかないと、まともに生きられない人間なんだ。一人で生きていくのが怖い、小心者なんだ。そう思えてくる。

 気のせいか、瞼の奥が熱い。

 そして私は、人や物を、単なる道具としか思っていなかった。使い捨ての便利グッズだと思って、軽率に扱っていたんだ。

 私とはつまりそういう人間なのだ。

 涙腺がゆるやかに崩壊した。

 私はその場に泣き崩れる。

 何で泣いているのか、自分でもよく分からなかった。今更泣いたって、何の言い訳にもならないのに。

 最後の最後まで……弱い人間なのね。

 ドアが開き放たれ、武装した数多(あまた)の警察官が飛び出してきた。

 そのうちの、茶色いコートを着た中年の私服刑事が、「松村!!」と、諒の名前を呼んで、倒れ伏す諒のもとに駆け寄った。

「松村! しっかりしろよ、おい!!」

 そう叫びながら、諒の体を揺さぶった。その目には、うっすらと涙が滲んでいた。

 そして、ゆっくりと私のほうを見た。その顔は、怒りと悲しみで恐ろしく歪んでいた。

「お前が……殺したのか?」

 低い声で訊いてくる。私がうなずくと、私服刑事の顔が更に歪んだ。

「二宮蓮花……お前を殺人容疑で逮捕する!」

 そう言って、私服刑事は私の両手に手錠をかけた。

 私は抵抗しない。

 私は今日、警察に逮捕された。


 格子つき窓から差し込む光を見ながら思う。

 ……誰かの為に、泣けた。

 それが、とても嬉しかった。

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