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諒のこめかみから、赤い液体が下に流れる。
私は、諒をしっかり抱きしめていた両手を、そっと離した。
諒の体が、スローモーションのようにゆっくり倒れていく。
ドサッ
体が床に倒れた。でも、諒は反応しない。
私の撃った銃弾によって、諒は、二度と帰らぬ人となった。
私は、まだ煙を吐いている拳銃を見る。
この拳銃から放たれた銃弾が、諒の脳を貫き、殺したのか。
銃を撃つのには慣れているはずなのに、何だか、とても不思議な気分だ。
私はため息をつきながら、拳銃を捨てた。
私は、諒を撃ったあの銃に、何か感慨深いものを抱いている。
別に、諒を殺したことを喜んでいる訳ではない。ただ……なんと言うか、今までにない特別感のようなものがあった。何か名誉ある大役を成し遂げた時のような、そんな達成感がある。
でも……私は、もう二度と、人を殺すことができないであろう。
諒が死んで、私は、何かとても大事なものを失ったような気がした。それが無ければ、私は『私』として完成しない気さえする。いわば、ジグソーパズルの一片と同等に大事なもの。
それを失ったことで、私は今、どうしようもない喪失感を味わっている。
私は当初、ものすごく心が歪んでいた。底知れぬ闇のように暗く、陰湿な性格を持っており、そんな私と『正常な』私との釣り合いが取れない人間だった。そんな私にとって、諒や殺人は、一種の『制御装置』だった。偏狭で、性根が腐っていた私は、諒を足かせ代わりにしたり、自由奔放に人を殺したりして、ここまで生き抜いてきた。
でも、殺人という制御方法で、諒という足かせを失った今、私は、正常に自我を保てないでいる。
自分に向き合ってみてみると、自分はここまで弱い人間なのだということが、よく分かる。私は、何かに縋って生きていかないと、まともに生きられない人間なんだ。一人で生きていくのが怖い、小心者なんだ。そう思えてくる。
気のせいか、瞼の奥が熱い。
そして私は、人や物を、単なる道具としか思っていなかった。使い捨ての便利グッズだと思って、軽率に扱っていたんだ。
私とはつまりそういう人間なのだ。
涙腺がゆるやかに崩壊した。
私はその場に泣き崩れる。
何で泣いているのか、自分でもよく分からなかった。今更泣いたって、何の言い訳にもならないのに。
最後の最後まで……弱い人間なのね。
ドアが開き放たれ、武装した数多の警察官が飛び出してきた。
そのうちの、茶色いコートを着た中年の私服刑事が、「松村!!」と、諒の名前を呼んで、倒れ伏す諒のもとに駆け寄った。
「松村! しっかりしろよ、おい!!」
そう叫びながら、諒の体を揺さぶった。その目には、うっすらと涙が滲んでいた。
そして、ゆっくりと私のほうを見た。その顔は、怒りと悲しみで恐ろしく歪んでいた。
「お前が……殺したのか?」
低い声で訊いてくる。私がうなずくと、私服刑事の顔が更に歪んだ。
「二宮蓮花……お前を殺人容疑で逮捕する!」
そう言って、私服刑事は私の両手に手錠をかけた。
私は抵抗しない。
私は今日、警察に逮捕された。
格子つき窓から差し込む光を見ながら思う。
……誰かの為に、泣けた。
それが、とても嬉しかった。




