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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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第124話 街道の朝と、交易都市への轍

夜明けの柔らかな光が、地平線の彼方からどこまでも続く平原を黄金色に染め上げ始めた。

規則正しい車輪の駆動音を響かせながら、鋼殻の移動要塞はなだらかな街道を順調に進んでいる。

バルガンが独自の技術で設計し、未知の動力源である「星脈の核」と「多頭蛇の魔石」を組み合わせて稼働しているこの巨大な装甲馬車は、馬を必要とせず、底なしのスタミナで大地を駆けることができる。分厚い鋼鉄の装甲は並の魔物の襲撃を容易く弾き返し、内部には生活に必要なすべての設備が整えられている。まさに、移動する小さな城であった。

朝の居住区画には、濃厚で香ばしい匂いが充満していた。

「よし、焼き加減は完璧だ。みんな、朝飯ができてるぞ!」

厨房スペースから、バクスが上機嫌な声を上げる。テーブルの中央にドンと置かれたのは、霊峰の麓で仕留めた巨大な野鳥の卵を使った特大のオムレツと、塩漬け肉の厚切りベーコン、そしてふっくらと焼き上げられたライ麦パンだった。オムレツからは、とろけるようなチーズと香草の香りが暴力的なまでに食欲を刺激してくる。

「わあ、美味しそう! 朝からこんなご馳走を食べられるなんて、本当に幸せです」

ルミナが目を輝かせながら席につく。

バルガンも操縦を自動巡航モードに切り替え、大きなジョッキに注がれたミルクを煽りながらテーブルに合流した。

ヴァンは自室で軽いストレッチと素振りを終え、最後に遅れて居住区画へと顔を出した。彼の腰には、ガルドが打ち上げた白銀の長剣が静かに収まっている。

「おはよう、ヴァン。今日も早い手練ね」

向かいの席でハーブティーを飲んでいたセリアが、優しく微笑みかける。

「ああ。身体の感覚を確かめておきたくてな。それに、この剣の重さにももっと慣れておく必要がある」

ヴァンが席につくと、バクスが手早くヴァンの分の皿を取り分け、湯気を立てるスープと共に差し出した。

ヴァンは食事を口に運びながら、窓の外の景色へと視線を向けた。遠くの地平線に、巨大な城壁のシルエットがうっすらと浮かび上がり始めている。

「あれが、次の目的地か」

ヴァンの呟きに、ルミナが口元の汚れをナプキンで拭き取り、誇らしげに頷いた。

「はい! 東部有数の商業拠点、交易都市リグナムです。ファルガーのような国境の闇市とは違い、ここは人間の王都からも多くの商人が訪れる公式な大市場があります。日用品や食料の補充はもちろんですが、今回は資金にかなり余裕があるので、要塞の拡張素材や新しい魔道具も思い切って買い付ける予定ですよ」

ルミナは分厚い帳簿を開き、すでにびっしりと書き込まれた購入予定リストを指差した。

「そいつは助かるぜ、嬢ちゃん。この要塞もまだまだ改良の余地があるからな。足回りのサスペンションを強化するための特殊なバネ鋼や、結界発生器の出力調整に使う触媒なんかを探したかったところだ」

バルガンがベーコンを齧りながら、職人としての真剣な顔つきになる。

「俺も市場を回るのが楽しみだぜ。人間の大きな街の市場なら、まだ見たこともない珍しい香辛料や、未知の食材が手に入るかもしれないからな。この要塞の厨房を、世界一のレストランの厨房に負けないくらい充実させてやる」

バクスもまた、料理人としての探求心を燃やしていた。

迫害され、理不尽に居場所を奪われてきた彼らだが、この移動要塞の中では誰もが自分の夢や役割を持ち、生き生きと輝いている。種族の壁などここには一切存在しない。互いの技術を尊重し、信頼し合う、一つの強固な家族のような共同体がそこにはあった。

「ヴァンさん、リグナムの街では少し長めに滞在する予定ですが、護衛のシフトなどはどうしましょうか?」

ルミナの問いに、ヴァンはスープを飲み干して答えた。

「要塞の留守番と、街での買い付け班に分かれよう。ここは人間の大きな街だ。バクスやバルガンが表立って市場を歩けば、いらぬ偏見やトラブルを招く可能性がある。目立つ物資の調達はルミナを中心に進め、俺が護衛として同行する」

「なるほど、確かに人間の商人たちの中には、獣人やドワーフに法外な値段を吹っかけてくる者もいますからね。分かりました、交渉事は私に任せてください!」

「俺たちの買い出しリストは、ルミナの嬢ちゃんに託すとしよう。俺とバクスで要塞の留守を預かりながら、内部のメンテナンスを進めておくぜ」

バルガンが快く応じ、バクスも頷いた。

朝食を終え、一行は到着へ向けてそれぞれの準備に取り掛かる。

ヴァンは要塞の屋上デッキへと続く階段を上り、外の風を浴びに出た。

青く澄み渡った空の下、近づいてくるリグナムの巨大な城壁が、徐々にその全貌を現し始めている。

カツッ、カツッ、と静かな足音が背後から近づいてきた。

「いい風ね」

セリアがヴァンの横に並び立ち、手すりにそっと寄りかかった。彼女の銀色の髪が、朝の風に美しくなびいている。

「ああ。平原の風は、霊峰の冷気とは違って穏やかだ」

ヴァンは腰の白銀の長剣にそっと手を添えた。

勇者パーティーを追放され、魔力を持たない無能として見捨てられたあの日から、どれほどの距離を歩いてきただろうか。

スラムの路地裏でセリアと出会い、彼女の同化召喚によって戦士としての本当の力を引き出された。強敵を倒した素材でスラムの鍛冶屋に打たせたかつての斬馬刀と共に数々の死線を越え、その相棒を失う悲しみを経て、今こうしてガルドが鍛え上げた究極の剣を手に入れた。

「人間の大きな街に入るのは、久しぶりだな」

ヴァンがぽつりとこぼすと、セリアは少しだけ目を伏せた。

「……そうね。召喚師が絶対的な力を持つ人間の社会。また、理不尽な思いをすることになるかもしれないわ」

セリア自身、同化召喚という世界で彼女しか使えない古代の術を持ちながら、それを理解しようとしない社会からは異端として扱われ、深く傷つけられてきた過去がある。人間の集まる大きな都市は、彼女にとって必ずしも歓迎すべき場所ではなかった。

ヴァンは真っ直ぐに前を見据えたまま、静かに口を開いた。

「何も心配はいらない。俺たちが今までやってきたこと、そしてこれからやろうとしていることは、誰かに決められた常識や価値観に縛られるものではない」

ヴァンはセリアの方を向き、その紫色の瞳をしっかりと見つめ返した。

「お前が俺に力を与え、俺がこの剣で道を切り拓く。バクスが美味い飯を作り、バルガンが居場所を護り、ルミナが道を指し示す。俺たちを理不尽に縛り付けようとする者には、ただ実力でその認識を覆すだけだ」

飾らない、確固たる戦士の意志。

その言葉に、セリアの胸の奥にあった僅かな不安は、春の雪のように跡形もなく溶け去っていった。

「ええ。そうね。……あなたと、この新しい剣があれば、どんな壁だって越えていける気がするわ」

セリアは柔らかく微笑み、ヴァンの太い腕にそっと自分の腕を絡めた。

前方に見える巨大な城壁都市リグナム。

そこには新たな出会いと、そして避けては通れない人間社会の思惑が待ち受けているだろう。しかし、最強の相棒である意志を持つ剣を手に入れ、固い絆で結ばれた彼らの歩みを止めることなど、もはや誰にもできはしない。

移動要塞は力強い轍を平原に刻みながら、新たな舞台へと静かに、そして確かな足取りで進んでいくのであった。

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