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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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第1話 時代遅れの戦士と勇者の荷物持ち

深い森の中、鬱蒼と茂る木々の隙間からわずかに差し込む陽光は、湿った腐葉土の上にまだら模様を描いていた。周囲には苔のむした巨木が立ち並び、空気はひどく重く淀んでいる。一歩足を踏み出すたびに、ぬかるんだ泥が分厚い革靴に吸い付き、歩みを鈍らせた。

ヴァンの背中には、彼自身の背丈を優に超える巨大な荷袋が固定されている。数日分の食糧、巨大なテントの支柱と天幕、予備の魔力回復薬が詰まった木箱、さらには野営用の重い鉄鍋まで。その総重量は百キロを優に超えているだろう。肩に食い込む太い革紐が歩くたびに軋む音を立て、額からは大粒の汗が流れ落ちては顎を伝って地面に落ちた。

しかし、ヴァンの呼吸は乱れない。一定のリズムで息を吐き、無駄のない足運びで黙々と前へと進んでいく。長年の鍛錬によって研ぎ澄まされた肉体は、この程度の過酷さで悲鳴を上げることはない。

彼の数十歩先を歩く三人組の足取りは、対照的にひどく軽やかだった。彼らの足元は泥にまみれることはなく、周囲の空気さえも澄み切っている。パーティーの参謀役であるキースが使役する微風の精霊が、彼らの歩く道筋から湿気と汚れを全て弾き飛ばしているからだ。彼らの身にまとう豪奢なローブは、この過酷な森の中にありながら、王宮の回廊を歩いているかのように美しい状態を保っていた。

「おい、ヴァン。歩みが遅いぞ。魔力を持たないただの人間が鈍間なのは知っているが、少しは努力というものをしたらどうだ」

先頭を歩いていた金髪の青年、勇者レオンが振り返り、冷ややかな視線を投げかけてきた。その瞳には、路傍の石を見るかのような明らかな侮蔑が込められている。

ヴァンは立ち止まることなく、荷物の重心をわずかに前へと傾けて歩調を速めた。

「ああ、すまない」

短い返答。そこに怒りや屈辱の色はない。ヴァンはただ淡々と事実を受け入れ、己の役割を果たすことだけに集中していた。

召喚師が絶対的な力と地位を持つこの世界において、ヴァンが就いている戦士という職業は、完全なる無能の代名詞であった。異界から強大な魔獣、精霊、さらには伝説の英霊や天使すらも呼び出し、使役する召喚術。その絶大な力の前では、人間が自らの手で鉄の剣を振るうことなど、子供の遊び以下の無意味な行為だ。竜の鱗は鋼の剣を容易くへし折り、悪魔の爪はどんな強固な鎧も紙のように引き裂く。人間は安全な後方から召喚獣に命令を下していればいい。それがこの世界の絶対の理であり、誰も疑うことのない常識だった。

レオンは国中から期待される天才的な召喚師であり、高位の聖騎士を呼び出すことができる。同級生であるというただ一つの理由で、ヴァンはこの勇者パーティーに同行を許されていた。もちろん、戦力としてではない。彼らがやりたがらない泥臭い雑用を全て押し付けるための、便利な道具としてだ。

突然、前方の茂みが大きく揺れ、低い唸り声が響き渡った。飛び出してきたのは、巨大な体躯を持つ四ツ目狼の群れだった。赤黒い四つの眼球がレオンたちを獲物として捉え、鋭い牙からは粘着質な涎が滴り落ちている。

ヴァンは反射的に腰を落とし、背負った大剣の柄に手を掛けようとした。しかし、その手は途中で止まる。自分の出番などないことを理解しているからだ。

「薄汚い獣が。僕の視界に入るな」

レオンは面倒くさそうにため息をつくと、右手で軽く虚空を薙いだ。その瞬間、大気が震え、まばゆい光の陣が空中に展開される。光の中から現れたのは、身の丈三メートルを超える白銀の聖騎士だった。

聖騎士はレオンの意思を完璧に汲み取り、音を置き去りにする速度で踏み込んだ。巨大な光の大剣が一閃されると、凄まじい衝撃波が森を駆け抜ける。三頭の四ツ目狼は抵抗する間もなく、その胴体を真っ二つに両断され、血飛沫を上げて地面に転がった。

「ふん、他愛もない。行くぞ」

レオンは何事もなかったかのように歩みを再開する。精霊召喚師のリーゼもキースも、魔物の死骸にすら目を向けることなく後に続いた。ヴァンは静かに荷袋を持ち直し、聖騎士の圧倒的な力によって周囲の木々ごと薙ぎ払われた凄惨な現場を通り過ぎる。戦士の剣であれば急所だけを突き、毛皮や牙といった素材を無傷で持ち帰ることもできただろう。しかし、巨大な力で全てを蹂躙する彼らにとって、そんな些細な配慮など不要なのだ。

夕闇が森を包み始めると、レオンが野営の指示を出した。ここからが、パーティーにおけるヴァンの唯一の存在意義を示す時間となる。

巨大な荷袋を地面に下ろし、ヴァンはすぐさま作業に取り掛かった。地面の凹凸をならし、湿った落ち葉を取り除いて巨大なテントを設営する。少しの傾きも許さない正確な作業だ。冷え込む夜に備えて周囲から乾いた薪を集め、手際よく火を起こす。炎が安定するのを確認すると、荷物から鍋を取り出し、保存食の干し肉と硬いパンを煮込み始めた。

少し離れた倒木に腰掛けたレオンたちは、キースの張った魔力結界の中で、談笑しながら優雅に休んでいる。彼らはテントのペグ一本打つことはしない。火の粉でローブが汚れるのを極端に嫌うからだ。

「ヴァン、温かいお茶はないの。森の空気が冷たくて肌が荒れそう」

リーゼが、焚き火の前に立つヴァンに向かって不満げな声を上げた。

「今淹れる」

ヴァンは立ち上がり、火にかけていた別の小さな鍋から湯を注ぎ、香り高い茶葉を丁寧に蒸らした。カップを清潔な布で綺麗に拭き上げ、彼女の元へと運ぶ。リーゼはヴァンからカップを受け取ると、礼を言うこともなく、当然のように口をつけた。

夜の帳が完全に下り、夕食の片付けを終えたヴァンは、焚き火のそばに一人座り込んだ。皆はすでに温かいテントの中で眠りについている。

ヴァンは背中に背負っていた無骨な両手剣を鞘から抜き、布で丁寧に刀身を拭き始めた。周囲の召喚師たちからは鉄屑と嘲笑われる武器。どんなに磨いても、レオンの聖騎士が持つ大剣のような輝きを放つことはない。

刃こぼれがないか指先で慎重に確かめ、油を薄く引いていく。この世界では無意味とされる行為。だが、ヴァンにとってこの剣の手入れは、己の魂を研ぎ澄ますための欠かせない日課だった。

冷たい金属の感触が、ヴァンの手に馴染む。微かな焚き火の光を反射する鈍色の刃を見つめながら、ヴァンはただ静かに、明日の野営地の天候と、歩くべき道の状態だけを思考の片隅で計算していた。どれほど無能と蔑まれようとも、彼がやるべきことは変わらない。与えられた役割を完璧にこなし、ただ実直に前へと進むだけだ。

夜風が森の木々を揺らし、フクロウの鳴き声が遠くで響く。ヴァンは剣を鞘に収めると、結界の外側の暗闇に鋭い視線を向け、誰に命じられるでもなく、一人静かに深夜の歩哨に就いた。

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