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僕の趣味は

初めて書く小説です。

楽しく読んでいただけると嬉しいです。

四季島(しきしま) (とおる)。僕はこの苗字が嫌いだ。顔も知らない父親の苗字だなんて、気持ち悪い。


 虚な目で天井を見つめる。六畳ほどの狭い部屋、隅に置かれた小さなテーブル、いわば勉強机には僕が中学生時代自腹で買った教科書が行き場を失ったように積み上げられている。


 左窓からカーテンの隙間から朝日が差し込む。差し込んだ光の先には赤いハンガーにかけられた新品の制服が掛けられていた。


  「おはよう……」


 ベットから起き上がった僕を察するように、ドア越しから声を掛けられた。声をかけてきたのは僕の母親、四季島(しきしま) 未麗(みれい)

 僕を産んだ実の母親、そして生活保護を受けている……。

なんて気の毒な母親だろう、父親と兄に見捨てられた僕を庇い一度は僕を嫌ったはずだ、それなのに…。


「今日、入学式よね…お友達、できるといいわね…」

「うん」

「パン…昨日買ってきておいたから食べてね」


悲しみと後悔が入り混じった声だった。

 足音が遠ざかる、母親は僕の返事を待たずに自室へ戻ったようだ、僕は気にするそぶりを見せず制服に手を伸ばす。白と青色が混じった縞模様のネクタイに白いワイシャツ、紺色のブレザーに灰色のスラックス。

いかにも高校生らしい服装だ。


 制服に着替え終わり、少しだけ格好が気になった。鏡の前に立ってみる、年季の入った鏡。まあ、悪くはない。

 そう思いながら部屋のドアノブを回す、部屋を出てすぐ右側の廊下を渡ればリビング、そして目の前には母親の部屋がある。扉が完全に閉め切っていてなんとなく立ち寄りがたい雰囲気を醸し出している。


 僕はいつものようにリビングへ向かう、リビングといってもそれほど広くはない。壁にかけられた古時計に三十二インチほどの小さなテレビ、生活に困らない最低限のものが揃えられている。


 ふと中央に置かれたちゃぶ台に目をやると、母親が言っていたパンが置かれていた。六つ入りのロールパン、ざっと百五十円のもの。


 僕はパンを三つほど食べたところで時計を見た。針は八時四十分を指している。高校までの登下校はお金の節約のため自転車で向かわなければならない。


 バッと手荒にスクールバッグを持って急いで玄関へ向かった。入学式の開始時間は九時三十分、家から高校までの距離は大体三十分ほどだ。特に行きたい高校もなかったため近場を選んだ。


 見慣れた風景が通り過ぎてゆく。駐車場にコンビニ…子供の頃よく一人で通ったゲーセン。


「……友達、か」


 自転車を漕ぎながら、母親の言葉が過った。僕に友達なんかできるのだろうか。中学でいじめられてたこの僕が…。高校に近づくにつれその不安は募っていった。


 高校に着くと、たくさんの保護者と同級生達が下駄箱へ向かって進んでいる。もちろん僕には保護者なんて同伴者はいない。


 和気藹々と話す親子を横目に早足で下駄箱へ向かい、素早く上履きに履き替えた。教室へと向かう途中、教員らしき人物からL判ほどの小さい紙を渡され見てみると真ん中には数字で十六と書かれていた。きっと出席番号だろう。


 同時に鼓動の波打つ音が速くなっていくのが身に沁みて感じた――

 教室に入ると、思ったより静かだった。誰もまだ周りと話してる人はいない。渡された出席番号を頼りに慎重に席を探す。


 ここだ。廊下側から三列目の、前から四番目の席。スクールバックを机のフックへ掛け、椅子を引いて座った。なんだかぎこちない。周りを見渡してみた。


 これから、高校生活が始まるんだ…。なんだか、心の奥底で期待してしまう自分がいる。何に対してかはわからないけど、上手くやってけるだろうか…


 その時、教室の入り口のドアがガラガラッと音を立てたかと思えば一人の男性が入ってきた。みんなが姿勢を正し始める。おそらく担任だ。


「初めましてみなさん。今日から一年 B組担任になります西谷(にしたに) 鹿狗(かく)と言います。よろしくお願いしますね」


 どこか含みのある笑いをした。担任と名乗った鹿狗はスーツを纏い、スラっとした体型に、背が高く、パーマかかった髪型。髪色は少し癖の赤茶色で、男からしてもわかる、なかなかのイケメンだった。年齢は二十代後半といったところだろうか、鹿狗は続けて言った。


「これから皆さんにも自己紹介をしてもらいたいと思います。まずは名前と趣味、それからみなさんに一言ずつ」


 趣味…もちろん僕にそんなものはない。ただ、少し手をつけてたものならあった気がする。


「では出席番号一番さんから」


 指名された生徒達が順々と教壇の前へと立っていく。ゲームが趣味だという者や楽器が得意だという者。僕はその間必死に発表する内容を考えていた。


 ああ、そう言えば――閃くように記憶が蘇える。昔…確か幼稚園生頃だろうか、母親と一緒に絵を描いた覚えがある。描いた物が風景か人物かは思い出せないが…これなら使えそうだ。


「次、十六番さん」


 あっという間に僕の番が来た。のそっと立ち上がり教壇へ向かう、教壇に立つ感覚はまるでここにいる皆んなを支配してるような感覚に陥る。自然と皆の視線が僕に集まった。


「いつでも始めてくださいね」


 鹿狗は背中の後ろで指を組む動作をしながら言った。


「初めまして、僕は四季島透と言います。透でも四季島でも好きなように呼んでください。僕の趣味は絵を描くことです。これからよろしくお願いします。」


 言い切った。拍手が送られる。席へ戻ろうとしたその時だった。


「絵かぁ、透さんはどんな絵を描くのが好きなんですか?石膏デッサンか静物画、それとも風景画?この学校にある幻の絵にも興味があるの?」

「え?」


 幻の絵…それはなんだ?沈黙が落ちた。


「あれっ知らない?あ…長々と質問しちゃいましたね。戻って大丈夫ですよ」


 鹿狗は笑顔を見せながら僕に微笑んだ。僕は戸惑いつつも自分の席へ歩き出す。幻の絵って…

 後ろで次の番号を呼ぶ鹿狗の声が聞こえた。

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