番外編:栗属性のスキルキュ!
異世界待機番外編
小屋で待機している聡美も護身用に攻撃スキルを欲しがるが・・・
◆ 型落ちスキルの配給 ◆
ある日の午後。
聡美は小屋の「人をダメにするクッション」に深く沈み込み、mPADで特売情報を眺めていた。小屋の結界の外からは、遠くを往く魔族の野太い声が風に乗って聞こえてくる。
「……転生神さん。私にも何か『攻撃手段』が欲しいキュ。護身用でいいキュ」
ピロリン!
『……おいおい、急にどうした? 異世界の空気に当てられて好戦的になったか?』
「失礼キュ。この前、玄関先に大きなカマキリがいて怖かったキュ。神刀(除毛用)を抜くのも非合理的だし、指先からビビッ!と光線が出るやつが欲しいキュ」
『お前に「火」や「雷」なんて持たせたら、自分の小屋を燃やすのがオチだ。……まあいい、倉庫の奥に余ってる「型落ち」のスキル在庫で、何かお前に向いていそうなものがないか見てやるよ』
数分後。通信越しにガサゴソという物音が響く。
『……お、あったぞ。属性適合チェック……よし、聡美でも発動できる。これでお前も今日から「属性魔法使い」だ』
「……キュ!? 本当キュ!? 何属性キュ? 聖属性? それとも虚無属性キュ?」
『……**【栗属性】**だ』
「……。……キュ?」
『栗だよ、栗。マロン! 秋の味覚の王様だ!』
「……なんで栗キュ。そんな季節限定・期間限定みたいなスキル、弱そうキュ……」
『型落ちって言っただろ? 誰も使わないから倉庫で埃を被ってたんだよ。文句を言うな、希少なレア属性だぞ(不人気的な意味で)』
「……」
『とりあえず、手をかざして「栗よ来たれ!」って唱えてみろ』
聡美は、渋々クッションから腕を突き出した。
「……栗よ来たれキュ……」
次の瞬間――ポンッ!
彼女の手のひらから、見事なまでにトゲトゲしたイガ栗が飛び出した。
「キュッ!?」
イガ栗は綺麗な放物線を描き、小屋の床に着地した。
コロコロコロ……。
『……ほら、ちゃんと出ただろ? これで護身完了だ』
「……これで護身キュ? イガイガの栗を投げるだけキュ? 原始的すぎるキュ」
『甘く見るな。イガの貫通力はバカにできんぞ。十分な投擲武器だ』
* * *
◆ カマキリ退治とゴブリンの受難 ◆
翌日、聡美が小屋の前を掃除していると、因縁の宿敵・巨大カマキリ(体長50cm)が現れた。
「キュッ!? また来たキュ!」
カマキリが威圧的に鎌を振り上げる。聡美は反射的に手を突き出した。
「栗よ来たれキュ!!」
ポンポンポンッ!
まるで自動小銃のようにイガ栗が連射される。
バシッ! バシッ! バシッ!
「ギィィィ!!」
カマキリは無数のトゲに刺され、悶絶しながら森の奥へと逃げ去っていった。
「……や、やったキュ!! 栗魔法、意外と制圧力が高いキュ!!」
調子に乗った聡美は、小屋から少し離れた場所にいたゴブリン(近隣の配送業者)にも栗を投げてみた。
「えいキュ!」
ポンッ!
「ゴギャァァ!!」
不意打ちのイガ栗がゴブリンの頭に直撃。怒り狂ったゴブリンが棍棒を振り回して突っ込んでくる。
「キュッ!! ごめんなさいキュ!! 冗談キュ!!」
聡美は全力で小屋に逃げ込み、ドアをバタンと閉めた。外ではゴブリンが「ゴブゴブ!(何すんだ!)」と叫んでいる。
そして――グシャッ!
「ゴギャァァァ!!!」
地面に落ちていた予備のイガ栗を、ゴブリンが素足で踏み抜いたのだ。痛みに悶絶するゴブリンは、涙を流しながら足を引きずって去っていった。
「……。……事なきを得たキュ」
* * *
◆ 平和利用への転換キュ ◆
その夜。聡美はクッションの上で深く反省……ではなく、画策していた。
「……私は平和主義キュ。暴力は何も生まないキュ。……栗魔法を、もっと生産的に使う方法はないキュ?」
そして、天才的な閃きが彼女を襲う。
「……もしかして、中身の『食べられる栗』だけを抽出できるキュ?」
聡美は全神経を集中させ、魔力を練り上げた。
「……天津甘栗よ来たれキュ……」
ポンッ!
手のひらに現れたのは、イガも皮もない、艶やかな剥き栗。しかも、ほんのり温かい。
「……キュ!?」
恐る恐る口に放り込む。
「……!!! 甘い。ホクホクで完璧な仕上がりの天津甘栗キュ!! できたキュ、甘栗パラダイスキュ!!」
それから、聡美の「ピ」に代わる連打が始まった。
「天津甘栗よ来たれキュ!」
ポンポンポンッ!
「美味しいキュ♡」
ポンポンポンッ!
「止まらないキュ♡」
気づけば、小屋の床は栗の殻と、満足げに横たわる聡美で埋め尽くされていた。
* * *
◆ 転生神の怒りと、禁じられたモンブラン ◆
ピロリン!!!
『聡美ィィィ!!! 小屋の床がゴミ捨て場みたいになってるぞ! 何だこの殻の山は!』
「天津甘栗……錬成したキュ……」
『栗魔法は戦闘用だと言っただろ! おやつ生成機じゃない!! そういう因果を無視した使い方は魔力の暴走を招くんだぞ! 掃除しろ!!』
だが、叱られれば叱られるほど燃えるのが橘聡美である。
「……まだ栗魔法の限界はこんなもんじゃないキュ。甘栗が出せるなら……『完成品』もいけるはずキュ……」
数日間にわたる極秘研究の末、彼女はついに到達した。
「モンブランよ来たれキュ……」
ポンッ!
手のひらに出現したのは、都内の高級パティスリーも驚愕する、完璧な造形のモンブラン。
「……キュ……!!!」
一口食べると、濃厚な栗の風味が鼻を抜け、控えめな甘さが舌の上で踊る。
「……美味しいキュ……。デパ地下の味がするキュ……」
* * *
◆ スキル没収 ◆
ピロロロロロン!!!(警告音)
『聡美ぃぃぃ!!! またやってるだろ!!! 魔力センサーが「モンブラン警報」で爆発してるんだよ!』
「キュ!? バレたキュ……!」
『当たり前だ!! 食物錬成は禁忌だって言ってるだろ! もういい、そのスキルは没収だ!!』
「えええええ!?」
『【栗属性スキル】、強制パージ!!』
シュゴォォォ……。
聡美の体から、栗色の優しい光が抜けていく。手を前に出しても、もう何も出ない。
「……栗魔法……消えたキュ……。次はマロングラッセの量産体制に入る予定だったのにキュ……」
『だからダメだって言ってるんだよ!!! 二度と渡さんからな!!』
* * *
◆ エピローグ:栗の思い出 ◆
その夜、聡美は、床に散らばった栗の殻を掃除しながら、寂しげに呟いた。
「……栗魔法、楽しかったキュ。マロングラッセ、食べたかったキュ……」
クッションに座り込み、mPADでマロングラッセの画像を検索する。画面の中の宝石のようなお菓子を指でなぞる。
「……綺麗キュ……。次は自分の『ピ』で買うしかないキュ……」
ポッケに残っていた、最後に生成したモンブランの残骸(一口分)を大切に口に運ぶ。
「……また、いつか……栗魔法が配給されるといいキュ……」
『二度と渡さないと言っただろ』
「……ちぇっ」
こうして、聡美の「栗属性魔法使い」としての短い、そして甘い栄光は幕を閉じた。
しかし、彼女の心には、あのホクホクとした記憶が、いつまでも温かく残り続けるのであった。
レアスキル栗魔法、
戦闘用スキルを即座に「おやつ生成機」に魔改造した聡美
しかし、まだ新しいスキルを欲しがっているようです。




