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異世界で、平和を願う。  作者: ちょこぼーらー
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148 気弱さん

「エ゛ェ~~。エ゛ェ~~~」


 華は森から出て、羊の群れと住居だと思われる円柱型の大きなテントに近付いた。


(テントってことは放牧…じゃなくて遊牧民っていうのかな。言葉は大陸中で共通らしいから大丈夫だと思うけど…)


 問題は、水や食べ物と交換して貰うためのお金や物を一切持っていないという事だ。労働を対価にしようにも、華に出来る仕事などあるだろうか。


「わあ…」


 華は小さい頃に行ったはずの動物園を覚えていないので羊を見るのは初めてだったが、思っていたよりは細い。確かにもこもこした毛に覆われているが、もっと足下の方までもこもこしていると思っていたのにそうでもないようだ。…あちらの羊とこちらの羊は違うのかも知れないが。


 もっと近くでよく見ようと更に近付く。

 どのみちテントを訪ねようとすれば群れの向こうへ抜けなければいけない。


「?」


 ぼすっと華のふくら脛に硬い何かが強く当たった。

 もんぺと地下足袋に被われているところに当たって落ちた何かを見ようと後ろの足下を確認しようとした華の、今度は側頭部に。


「!?」


『泥棒!』


 華より少し大きい位の身長の男の子を見て、石を投げられたのだと理解したのは、少年が何かを怒鳴りながら振りかぶっている手に石が握られているからだった。


「な、なに!?」


『近寄るな!出ていけ!この羊泥棒が!!』


「きゃあっ」


 初めて聞く“泥棒”の意味も分からず、薙刀を持った手で頭を庇いながら後ずさるが、男の子は『泥棒だ!羊泥棒だ!!』と叫んでは石をぶつけてくる。

 何を言っているのかは分からないが、手足に当たる石礫が本気で当てる為に投げつけられているのは分かる。


『羊泥棒だって!?』


 羊の群れの奥から数人の男女の声がして振り向くと、テントの中から大人が数人出て来た。

 その手には斧や木の棒が握られている。


 道を聞くどころではない。

 華は森に逃げ込むしかなかった。






「はあっ、はあっ、はあっ…」


 森の奥まで逃げ、疲れて走れなくなってもどんどん奥へ歩いて行く。


 どうせ道など分からない。

 遥か遠くに見えていた山脈方面へ向かってはいるつもりだが、森のただ中では遠くの山脈など見えないのでひたすら奥へ奥へと進んで行く。


(怖かった……)


 話をするどころではなかった。

 ただ訳も分からず追われただけだった。


 草原の国では遊牧をしている部族が多くある。

 大規模な部族でも同じ部族内の人間は大体親戚…同じ一族で暮らしているので、知らない人間=他の部族の者になる。

 そして部族間同士は決して仲が良い訳ではなかった。

 むしろ水場や放牧地を巡って争う事の方が多い。


『どろぼう…』


 あれだけ本気で排除されれば決して良い言葉ではないのだろう。

 何となく意味を察した華だった。




「はあ……」


 歩いて歩いて数時間ほどたった頃、華はそこそこ大きな木にもたれて座り込んだ。


 投げ出した両足も、頭を庇った両腕も、庇いきれなかった頭も、所々石が当たっていてズキズキ痛む。

 水も食料も無いし道も分からないが、また人間を見かけても声を掛ける事など怖くて出来そうにない。


(もうこのまま山脈を目指そう。森の中なら何か食べられる物もきっと見付かる…)


 森の中には猛獣や魔獣もいるだろうが、なるようにしかならないと思いながら、華は膝を抱えて目を閉じた。

 心も体も疲れていた。




「ひよひよ…」


 小鳥の声がして目が覚めた。


 小鳥の事をすっかり忘れていた事を思い出すのと同時に、ずいぶん走ったし歩いたはずなのによく合流出来たなと驚いた。


「おかえり。よくここにいるって分かったね」


 膝から顔を上げ、足の甲の上でひよひよしている小鳥を掌に抱き上げた。


「!?ひよっ!?ひよひよひよっ!!」


「どうしたの?…………ああ、これ?」


 華が怪我をしているのに気付いてばたばたと暴れ出した小鳥を片手に、ズキズキ痛むこめかみの辺りをそっと触る。

 血が出ていたのは止まったようだったが、いつものカバンも今は無いので鏡で傷の具合を確認することも出来ない。


「ひよ~…」


 痛ましそうに見ていた小鳥だったが、何かを思い出したようにぴょこんと華の掌から飛び降りて華の足元の地面から何かを咥えて差し出した。


「ひよひよっ」


「なあに?…くれるの?」


「ひよっ」


 んっ!と差し出された物ごと小鳥を再び掌に抱き上げると、小さな桃のような果実だと分かった。小さいと言っても小鳥と同じくらいのサイズはある。


「…小鳥さんのごはんでしょう?わたしが貰ってもいいの?」


「ひよひよっ」


 いいらしい。お土産に持ってきてくれるくらいだからすでに食べて来たのだろうと華は有り難く頂いた。

 袖口で少し実を拭いて皮ごと齧ると、それほど甘くも酸っぱくもない梨のような味わいと水分が口の中に広がる。

 アイシャの差し入れを昨日の午後に食べたきり、何も口にしていなかった華は小さな実をたくさん噛んでゆっくり頂いたのだった。


「ひよっ」


 華が実を食べ終わる頃、木々の間から何か動物が華の方に近付いて来るのが見えた。

 馬程は大きくもなく、鹿にしては短い首。頭から背中の方へ向けて伸びた二本の大きな角。


「…気弱さん……」


 魔獣かと身構える前に見知った姿を確認した華が、一緒にこちらに飛ばされてしまったのかと思っていると、近くまで来たその隣人は、華の目の前で立ち止まって言った。



「誰が“気が弱い”って?」

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