イミテーションの過去
「じいちゃん?遊馬?まさか!」
「おっ見当がついた様だな!そうだ、ここで死んだ遊馬紀子の父ちゃんだよ」
アロハシャツの男は笑いながら正体を明かした。
「いったい何しに来た!」
まさかまた実験されるのかと警戒するが……
「いやな、この嬢ちゃんが俺の所にやってきていきなり、孫が出来てるからその子を救って欲しいなんて言うもんだから面白そうだと思って来た!」
面白そうだから来た。そんな理由でやって来たこの男に警戒するのも馬鹿馬鹿しいと思ったので警戒を解く。
「そんな理由でここに来たなら帰ってくれ!俺はここから動かない」
「動かないなら俺が担ぐ!」
無理矢理にでもここから出すつもりらしい。
「黙って担がれると思うか?そもそもアイツの父親って事なら碌な人間じゃない!」
もうあの2人には遠慮しない。そして目の前に居るこの男にも。
「碌な人間じゃないか……ガッハッハお前、見る目あるな?」
碌な人間じゃないと言われても笑っている男を見て困惑するフェイル。
「まぁアイツは俺から逃げていったんだけどな」
そりゃあ逃げるだろう。この男とまともに会話をするのは難しそうだ。
「アイツは俺がいつまでも若いから嫉妬したんだろう!ガッハッハ不老不死とか馬鹿じゃねーか!?笑ってりゃいつまでも若いんだよ!」
俺を造る事になった元凶が目の前に居るこの男なのか?
「お前のせいで俺は造られたのか?」
「多分な!とりあえずウチの娘とその夫が悪い事をしたすまん!」
言って、頭を下げる男。自分の娘たちがした事を素直に謝るのは良い事だが、あまりにもサッパリしているというかなんというか……
「謝ってくれた事は感謝するけど、どうして?」
「アイツらが人の道を外れる、その一端が俺に関係しているなら謝るのが道理だろう?しかもお前は完全に被害者だ。ならお前と会話する為にも俺に非がある事を認める所から始めようってな!」
今まで話を聞いてもらう事が無かった為この男の言葉が妙に刺さる。
「わかった、そっちは本人じゃないけど悪いって思ってるんだな?だったら話は早い。俺を殺してくれ」
「さっきから気になってたんだけどよぉ?なーんでそこまで死にたいんだ?遊んだりしねぇのか?」
「遊びなんて知らないし、俺みたいな失敗作はそもそも生きているのがおかしいんだ。だったら俺が消えれば良いだけの話だ」
「おいおい、アイツら遊びの一つも教えてねぇのかよ。そりゃ死にたくもなるわ」
「高校レベルまでの学習要項を頭に直接ラーニングされたくらいかな」
所詮16年程度しか生きられない俺に大学レベルまでの事を教えても無駄だとの判断で高校レベルまでの内容で止めたのだろう。
「うへぇ勉強だけ頭に詰め込むとかアイツらもひでぇ事すんなぁ?」
ダメだ、この男が考えている事が分からない。だが、なぜだろう。魔法少女が俺の事を助けたいとか言うよりもこの男が喋る言葉が胸にスッと入ってくる。
「大体人体実験の実験台だったから遊ぶなんて事はしたことが無いな」
「不老不死の実験か……そもそもお前はアイツらのクローンなんだっけか?」
「あぁ、2人分の細胞を掛け合わせて造られたクローンだよ、まぁクローンって言っていいのか分からないけど。普通に産むのが研究の妨げになるとかで、あと実験も出来るとかいう理由でね」
そう喋った時、遊造はそのムキムキな体で壁を殴っていた。
「ちょっと何してんだアンタ!」
「何してるんです遊造さん!」
俺と魔法少女が止めに入るが
「うるせぇ!これが怒らずに居られるかってんだ!人間なら普通に子供を産んでやれよ!紀子ォ!お前だって普通に産まれてきたんだから!」
隣の部屋と繋がるんじゃないかと思うほどの力で殴る。
拳に血が滲んでいる。そうとう頭に来ている様だ。俺の為に拳に血が滲むほど怒ってくれているこの男に俺は少し歩み寄っても良いかなと思った。
「ほら、これ使えよ」
そう言って包帯を手渡す。
「あぁ、すまん熱くなっちまった。そうだ、嬢ちゃん土産に持ってきたアレ出してくれよ」
拳に包帯を巻きつつ、魔法少女に何かを頼む遊造
「は、はいどうぞ!はい、あなたの分です!」
そういって手渡されたのは……
「冷たっ何これ?」
掌に収まるようなサイズのカップが冷たくて、少し重く感じた。
「あぁ?知らねぇのか?これはアイスって言う、うめぇもんだ!」