シルエットメイト
「これが、シルエッタの本当の姿……」
蜘蛛から人間の上半身がくっ付いた様な姿、先程までの小さな女の子では無く、廊下の天井につきそうなくらい大きくなったシルエッタがそこに居た。
「ごめんね、クロト、こんな姿、本当は見せるつもり、無かった」
シルエッタが謝ってくるが、俺は黙って続きを聞く。
「本当の姿、隠したまま、一緒に過ごしても、本当の友達、なれないと、思った」
シルエッタが泣きそうになっている。
「受け入れられなくても、しょうがない、私は、化け物、だから」
そこまでシルエッタが言った時には俺は既に動いていた。
「シルエッタは化け物じゃない」
シルエッタの元へ歩いていく。
「どんな姿だろうと俺の中ではシルエッタは可愛い女の子だ」
そう、姿なんて関係ない。
「本当の姿が人間と違っても俺は気にしないよ」
シルエッタは正直な子だ。嘘をついて俺達と生活するのは辛いと思ったのだろう。
「でも、怖くないの?」
確かに、シルエッタの言う事も分かる。だけど俺には怖がる事が出来ない。
「あのなぁ?さっきまでプリン食べて幸せそうな顔してたり、焼肉取り合ったり、裸で俺を揶揄ったりしてた奴を今更怖がると思うか?」
「えぇ……」
シルエッタは困惑している様だが更に近寄る。
「よし、じゃあシルエッタ。ちょっとしゃがんで?」
「ん?こう?」
シルエッタがしゃがみ、人の部分が俺と同じくらいの高さに来た所で俺はシルエッタを優しく抱いて頭を撫でる。
「!?」
「これでもまだ俺が怖がってると思う?」
「ク、クロト!?何してるの!?」
シルエッタが動揺している。
「何って頭撫でてる」
「なんで、頭撫でるの!?」
「さっきから言ってるでしょ?シルエッタは怖くない。俺には可愛い女の子にしか見えないって。だから撫でてる」
言いながら頭を撫で続ける。
「うぅ……そんなに、真っ直ぐ言われると、恥ずかしい……」
よし!さっきのお返しは出来た様だ。
「まだ信用出来ない?でもこれ以上は流石に……」
「わ、分かった、もういいから!クロトは、私の事、怖がってないって、分かったから!」
シルエッタが顔を真っ赤にして俺を引き剥がし、靄に包まれる。靄が晴れると先程までのパーカーっぽい姿になっていた。
「シルエッタはシルエッタなんだから姿が変わったくらいで俺が逃げるとでも思った?心外だなぁ?」
「ふふっ、クロト、すごいね」
先程まで泣きそうだった顔は無く、照れた様な顔をしている。
「だろぉ?俺が良いって言ってんだからシルエッタは家に居て良いんだぞ?むしろ居て欲しいんだ」
ヴァイスの仲間としても新しい俺の友達としても。
「うん!私、クロトの家に、居たい!居させて!」
やっとシルエッタも納得した様だ。
「おう!ゆっくりしていけ~」
「うん!」
「あ、そうだ」
「ん?何、クロト?」
シルエッタはもう家の一員だ。だったら
「お帰り、シルエッタ」
そういえば帰ってきた時言ってなかったから一応言っておこう。
「ただいま、クロト!」
満面の笑みでシルエッタが答える。
「おかえりだぞシルエッタよ」
うおっヴァイスいつの間に
「ただいま、ヴァイス様!」
さっきまでの思い詰めた様な雰囲気は何処へやら、元気になった様でなによりだ。
「ヴァイスは風呂入っちゃえ、シルエッタは居間で待ってようか」
「わかった」「うむ」
二人は返事をしてお互い居間と風呂場を目指して進む。シルエッタが居間に入り、ヴァイスが俺の横を通り過ぎようとした時に呟く。
「クロトよシルエッタの事で迷惑をかけたな」
「そんな事は無い、ヴァイスの仲間だし、それに俺の友達だからな」
「そうか、流石クロトだ」
「ところで、何時から見てた?」
「クロトがトイレに入った辺りからだな」
ほぼ最初からじゃねーか。
「では我は風呂に入ってくるぞ」
そう言ってヴァイスは風呂場へと向かった。
廊下に残るは俺一人。
「はぁっ、ドキドキしたぁ……」
シルエッタを抱きしめたのはその場の勢いだったが、本当の姿のシルエッタは大人な姿だったのだ。
何処がとは言わないけど大きかったし、肌面積もさっき程では無いが、多かったので色んな意味で危なかった。蜘蛛の体も意外と艶めかしいし……って何考えてんだ俺。
でも、彼女の覚悟は伝わった。
「シルエッタも嫌われる覚悟で本当の姿を見せたんだ。俺も二人に自分の事話しても良いかな……」