ヴァルト
同じ様な木がいくつも並ぶ道を通り抜けると、見覚えのある顔が目に入った。
「貴方ならたどり着けると思っていましたよ。ようこそヴァルトへ」
一時は死ぬかと思いました。なんだって、あんなへんてこりんな道筋なんですか。
いや、へんてこなのはまだ良い。この人が嘘をついた事に比べれば。
嘘つきはあなたのほうです。フクロウさんは嘘なんてついてなかったですよ。
そう、あの時僕は右の道を選んだ。フクロウさんが嘘をついていないと気づいたから。
「流石ですね。でも何故、フクロウが本当の事を言っていると分かったんです?」
フクロウさんに、「人間さん」って呼ばれたので。これが嘘なら、僕の存在が否定されることになってしまいます
僕を人間さんと呼んだのはフクロウさんだけじゃ無く、小鳥さんもだったし。だから、嘘はついていないと思った
今思うと、安易な決断だったかも。だけど、たどり着けたから結果オーライだよね。
と、ロトさんに向かって人影が移動するのが見えた。反射的に後ずさりをするが、現れたのは落ち着いた風貌の青年で、こちらに微笑みを向けている。
「先ほどはどうも」
さっき? 人とすれ違った記憶無いんだけどな。もういちど、彼の顔をよく見ることにする。
茶色い瞳とふさふさした灰色の髪、もしかして。
フクロウ……さん?
「うん。僕が嘘つきではないと見抜いたのは君が初めてだよ。ありがとう。」
フクロウさんが、頬をゆるませて目を細める。喜んでるみたいでなんだか嬉しいな。
「やはり、あなたは私の名付け親にふさわしいですね。騙すような真似をしてすみませんでした」
ロトさんが感心した様子で話しかけてきた。心なしかロトさんの表情も明るい気がする。
「フクロウには名付け親がいないんです。だから、人間界で呼ばれている名を借りて生活しています」
あの、名付け親がいないと、国にいられないわけじゃないんですね?
僕が名付け親になった時、「これでやっと戻れる」的なことをロトさんは言っていた。僕、別に名付け親にならなくて大丈夫だったんじゃ……。のんきに考えていると、ロトさんが再び口を開く。
「ええ、いられますよ。……1年間だけですが」
1年過ぎたらどうなるんですか?
「人間の姿で、名付け親を探すか、国に帰らず動物の姿で暮らすかのどちらかになります」
その言葉にフクロウさんの顔に不安の色が見えた。どちらにせよ、単純な問題ではなさそうだ。
「フクロウ、あなた確か明日で1年でしたね」
「うん。どうしようかな」
何で、そんなに悩んでいるのかな? 僕が疑問に思っていることに気付いたロトさんが教えてくれた。
「人間界で人間の姿を保つには自分の寿命を削らなきゃいけないんです。それに比べたら、故郷を捨てる方が幸せな気もしますが……」
「僕、嫌だよ! この国に帰ってこれないなんて」
フクロウさんがロトさんの言葉をさえぎって泣き始めた
「大好きなんだ。この国が、住んでるみんなが。出て行きたくない」
「だったら、誰かあなたに感謝してくれる人間を見つけなさい。それが出来なければ……追放です」
ロトさんが悔しさと悲しさの入り交じった顔をしている フクロウさんは更に声を上げて泣き続ける。感謝してくれる人……か。ん? 僕、フクロウさんに感謝したけどなぁだめなんだろうか。
あの、ロトさん。名付け親は掛け持ちしちゃダメですか
「へ? 良いですが、名前をつけられる動物は2人までですよ」
僕がフクロウさんの名付け親になります!
僕を見て、フクロウさんがきょとんとした後、吹き出した。な、何が面白かったの?
「人間さん。僕、まだあなたの名前知らないんだけど。教えてくれないの?」
あぁ!えっと、佐野千尋です。
動揺のあまり、喋れないはずなのに口を動かしてしまう
その様子に笑顔を浮かべるフクロウさんの顔は青空みたいに明るかった。
「さあて、パーティを始めますよ。二人とも手伝って下さいね」
ロトさんがウキウキした様子で、僕とフクロウさんの手を取る。茶色の瞳がぱちぱちとしている。呆気にとられているみたい。でも、僕が笑うと、その人もふふふと微笑んだ。ようやくパーティ開始かな?




