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戦闘員A  作者: 甲斐祐樹
正義の仕事
20/73

第19話

「大丈夫?」

「イイーッ!」

 審判をしている研究員に返事をして、ファイティングポーズをとる。


「じゃあ再開して」


 軽く頭を一振りし、一歩間合いを詰める。

 赤井もしっかりガードを上げジリジリ近づく。ガードの間から見える顔には少し余裕が窺える。


 パンチの届く位置に近づいたので、僕は左手でジャブっぽくパンチを放つ。


 パンッ!


 僕の左手はあっさり払いのけられ、空いた顔面に赤井の右拳が迫る。

 頭を衝撃が貫き、僕は一歩二歩と後退し踏みとどまった。


 顔を正面に戻すと、赤井はまたきちんとガードを上げて構えていた。ガードの間から見える口元には笑みが浮かんでいた。




 くそっ!! なんだよその顔!!




 体温が上がる。全身の血の巡るスピードが上がる。


「イイーッ!!」

 頭が真っ白になり何も考えられなくなった僕は、赤井の顔を目掛けて殴りかかった。

 当然ガードされるがお構い無しに左、右と殴り続ける。

 パンチの合間に赤井も的確に僕の顔面にパンチを入れてくるが、一瞬動きが止まるだけで再び顔を正面に向け連打を開始する。

「――!!」

 赤井の後ろにいる村井が何か叫んでいるが僕の耳には届かない。


「くっ!」

 赤井の表情には余裕がなくなっていた。

 その顔を見た僕は逆にマスクの中で笑顔を浮かべる。さらに力を入れて殴り続ける。


 呼吸を荒くしながら調子に乗って殴っていると、不意に躱された右のパンチの勢いで体勢を崩す。

 その瞬間、僕の腹部に衝撃が突き抜けた。

 赤井のパンチがボディーに突き刺さり、僕の体は動きを止める。呼吸が止まる。


 視界の端の方が徐々に黒く侵食されていき視野を狭めていく中、倒れまいと一歩踏み出し両膝に手を付き何とか耐える。


 呼吸をしようとするが、肺が動いてくれない。

 そこへさらに、赤井の蹴り上げたつま先が腹に刺さる。


 視界は一瞬だけ真っ黒に塗り潰され、再び中心から光を取り戻していく。


 完全に視界が戻った時には赤井が目の前からいなくなっていた。探そうとするが足が宙を掻く。


 バタバタとしばらくもがいて、ようやく体にかかる重力を感じる。その重力で自分がマットに倒れていた事に気付いた。


 むくっと起き上がり見回すと、赤井はコーナーに背を預けロープに手を置きこちらを見ている。

「大丈夫?」

「イー」

 赤井の足元にいる村井から声を掛けられ頷いてから、自分がどうなっていたのかを聞くためコーナーにペンと紙を取りに行く。


『どれくらい倒れてました?』

「10秒くらいかな。それよりいきなり暴れ出すからビックリしたよ!」

『すいません』

「その状態になると相当な量のアドレナリンが出てるんだろうね。結構危険だからできるだけ興奮しないように気を付けてね」


 危険なんだ……


『気を付けます』

「それにしてもほんとに村井の言った通りボディー一発だったな」

「強化されてるのは体の表面だけなんで、内臓への攻撃はかなり有効だと思いますよ」

 村井が途中で叫んでいたのはボディーを攻撃しろという指示をしていたらしい。

 それによって一時的に呼吸困難になって失神してしまったようだ。

「前田君はもう少し体力付けた方がいいね。さすがに一発で動けなくなるとはボクも思ってなかったから」

 笑いながら話す村井に釣られて、赤井も笑っている。


『そうします』

 少し恥ずかしくなり、顔を伏せながら書いた紙を見せた。


「じゃあ今日はこの辺にしておきますか? あんまり無理するのも危ないですし」

「ああ、そうだな。なんとなく分かったよ。確かにこれに複数で襲い掛かられたら厄介だな」

 赤井はロープを潜りリングを降りる。

「前田君も降りていいよ。ありがとう」

「イー」

 頷き、まだ酸欠で痺れの残る手足を引きずりリングを降りる。




 そのあと僕は体育館の壁に背を預けて座り、姿が戻るのを待った。




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