第20話
「もうすぐ完成するのか?」
「はい。あとは軽く調整するだけですね。それと残りの二人にも体感してもらってからにしようと思ってます」
「そうか」
「2週間後を目処にしてるんで、お願いします」
「わかった」
僕はリングから降り、体育館の壁を背に座った。
研究員たちが何組かに分かれ話し合っている。
赤井は少し村井と話した後、体育館を出て行くのが見えた。
暫くすると煙が僕を包み込み、姿を元に戻していく。
「大丈夫?」
煙が晴れると村井を始め、数人の研究員が僕を取り囲むように立っている。
立ち上がろうとすると腕に痛みが走る。
「いてー……」
「ハハハッ、やっぱり無事じゃないよね」
笑っている村井をよそに、他の研究員達とは少し違う白衣を着た一人の男が僕に近づき、触診していく。
「ここは?」
「少し痛いです」
肩の辺りから触られ、その流れでグローブも外してもらう。外すときに少し痛みがあり顔をしかめる。
「拳も少し痛めてるかな。とりあえず医務室に運ぼうか」
後ろにいる研究員に話しかけ、担架を持って来させる。
「じゃあ行こうか」
僕はパンツ一丁の格好のまま担架に乗せられ、体育館から運び出された。
医務室でもう一度痛めた箇所の確認をしたり、レントゲンを撮ったりと検査を進めていく。
「骨もなんともないし、大した怪我はなさそうだね」
肩から腕にかけて湿布をペタペタと貼っていく。
「あと帰りに食堂で氷を貰って、顔を冷やしておいた方がいいね」
先程から僕の体を見てくれているこの医務室の主、小林先生は椅子から立ち上がりビニール袋とタオルを持ってきてくれる。
「ありがとうございます」
レントゲンを撮っていた辺りから、顔がかなり熱くなっていて目蓋も塞がってきていたので、すごく助かる。
「あと適当に湿布も替えておいてね」
渡された湿布も一緒に持ち、一度頭を下げて医務室を退出する。
腕に力を入れると痛いので、両腕をダラダラとさせながら食堂へ向かった。
時刻は午後4時を回っていた。
食堂の扉を開け中に入ると数人、食事をしている。この時間に食事をする人は少ないのか暇そうだ。
奥のキッチンへ行き、声を掛ける。
「すいませーん」
「遅かったね……」
奥で冷蔵庫の中を確認していた長沢が振り返り、僕の顔を確認して言葉に詰まる。
「すごい顔だね……何してきたの?」
「エヘヘ、ちょっと殴り合ってきました」
「そう……」
笑顔で話したつもりなのだが気付いてくれただろうか。長沢は引いている……。
「顔冷やしたいんで氷貰っていいですか?」
痛みに耐え、腕をブルブル震わしながらビニール袋を差し出す。
長沢はビニール袋を受け取り、氷を詰め戻ってくる。
「はい」
「ありがとうございます。あの、明日なんですけど」
「うん、無理しないでいいからね」
「すいません。来れそうなら来ますんで」
「ホントに無理しなくていいからね。ご飯どうする? ジュースでも作ってあげようか?」
顔の腫れのせいで話しにくさも出てきていたので、食事も辛いかもしれない。僕は厚意に甘える事にした。
「お願いします」
「じゃあ座って待ってなさい。持っていってあげるから」
皆から「おかあさん」と呼ばれる長沢の優しさに素直に従い、近くのテーブルに腰掛け待つ事にした。
長沢は適当な果物や野菜と牛乳をミキサーにかける。それをグラスに移し、座っている僕の前へ差し出す。
「ありがとうございます」
震える手を持ち上げグラスを掴むが持ち上げるのは辛いので、顔を近づけていきゴクゴクと飲んでいく。
「ストローあった方がよかったね」
「あ、大丈夫ですよ」
一度口を離し答え、残りも一気に飲み干す。
疲れと喉が渇いていたのもあって、ジュースが体に染み渡る。
「まだあるけど、もう一杯飲む?」
「お願いします」
長沢は空いたグラスを持ってキッチンへ行き、新しく入れられたジュースを持ってくる。
テーブルに置かれたグラスにはストローが刺さっていた。
僕は持って来てくれた長沢に軽く頭を下げ、両手をダラリと下げたままストローに吸い付く。
「ご馳走様です」
「はい。じゃあまた氷溶けたら取りに来なさい」
長沢は空いたグラスを持ち、キッチンの奥へ帰っていく。
その姿を見送った後、僕も立ち上がり食堂を後にした。
自室に戻る前にトイレへ寄っていく。
用を足し、鏡に映った手を洗う僕の顔はパンパンに腫れ上がっていた。
1日で治るのかな……
不安な気持ちのまま、僕は自室へと戻った。




