第11話
「いたたたっ!」
ご飯の準備をしていてくれていた桃子が、ビクッとなってこちらを振り返る。
「どうしたんですか!」
「いてー。桃子ちゃん、地図とメモ用紙ある?」
「えっ? 地図ですか?」
突然言われたので、どこにあったか考え込んでしまう。
いつも当たり前のように用意していたので、一瞬おかしなことを言っているのに気が付かなかった。
「……違う違う! 地図は無しで誰か呼んできて! できれば村井さん!」
「博士ですか? じゃあちょっと行ってきます」
数分後、村井を連れて桃子ちゃんが帰ってきた。
「どうしたの?」
「通信来ました! もうすぐ始まると思います」
『ザザザ……、ザザザザザザ――』
「うわっ! うるさっ!」
思わず耳を塞ぐが音の大きさは全く変わらない。
「大丈夫かい?」
「雑音しか聞こえなくて、すごいうるさいです! 指示が聞き取れないですね」
「そっか。レシーバーもちょっと故障してるのかなぁ」
村井は少し考え込む仕草をしながらこちらを見ていた。
「聞こえなくなりました」
耳に軽く痺れを感じながら一息つく。
「言葉は全然聞き取れなかった?」
「無理でしたね」
右手を持ち上げ、右耳を軽くマッサージしながら耳の穴に指を突っ込む。
カチッ!
「耳に違和感ある? 大丈夫?」
「はい、問題なさそうです」
村井はじっとこちらを見ている。
「今何かした?」
「えっ? いや、耳のボタンを……」
違和感に気付き鳥肌が立つ。震える手をもう一度右耳に持っていく。
カチッ! カチッ!
そこには確かにボタンが存在している。
何これ……
「それってどういう時に使うものなの?」
「それ!? いや、耳にボタンがあるんですけど!」
「ハハハッ、レントゲンに写ってたから知ってるよ」
村井はすごく楽しそうだ。
「いや、はははって……これ大丈夫なんですか?」
「さぁ?」
村井はなおも笑っている。
耳のボタンの感触を触って確かめていると、今まで黙っていた桃子が話しかけてきた。
「前田さん、それ押してみていいですか?」
桃子の方を見るとこちらに指を伸ばし近づいてくる。
「押してみてって……」
答えに詰まるが徐々に近づく指に、仕方なく耳の穴を向ける。
カチッ!
ううっ、女の子に耳触られるとゾクゾクする……
カチッ! カチッ!
ぐりっ!!
いきなり奥の方に指を捻じ込んできた!
「いってぇ! 何してんの!!」
「奥にもボタンあるのかなぁって、えへへ」
「村井さんと話してるから、向こう行っといて!!」
桃子は部屋の隅にある椅子に座ってシュンとしてしまった。
「それで、そのボタンの事だけど?」