35話 困った奴だ
『一流の油断か傲慢か?新人教育中に転落、重傷を負って引退か?如月涼命、全治6ヶ月の重傷で緊急入院』
彼はキツネさんの訓戒を受け、改善の兆しが見えなければより過酷な世界に誘致されるらしい。この世界はまだましなほうで、ひどい世界になると・・ああ、秘匿事項だった。なのでこの話はおしまい。
さてと、とりあえず次席の真面目なスタントさんに、色々とこの業界の事を教わり、心構えや必要事項を色々と教わって無難に特別教育は終了した。静原スタント養成所のお墨付きを得たオレは、早速にもスタント無しでのドラマの準主役級の役に抜擢され、順調に仕事をこなしていく。主役のライバル役のオレだけスタント無しで撮影される為、主役の芝居がぎこちなく見えたとかで、主役を食って人気上昇・・今では都内のマンションで独り暮らしとなり、社長とは送り迎えの時だけの逢瀬となる。
あれから半年、ミカは安全の為に長期入院となり、悠々自適でオレの芝居を見て楽しんでいるらしい。実はこの国から広域系のある組織がそっくり消えた為、それに依存していた各団体の拠り所が無くなり、散々揺れた後にその勢力地図が塗り替えられている。あの裏の顔を持った俳優さんも、処理を頼んでいたようで引退してしまった。どうやら殺す役しかやれなかったようで、お役ごめんになったようだ。
まあ、ようだ・・と言うのは御幣があるか。なったとはっきり言うべきか。あいつは事務所からの依頼で、世界人口調整委員会が処理した。風呂上りにビールを飲もうとバスタオル1枚の格好で冷蔵庫を開けようとしたら、そのまま魔物の巣に落ちていたと。どうやら落ちたショックで岩から転げ落ちたらしく、数分後に様子を見ると既に居なかった。まあ、近くでボリボリって音がしてたから、食われている最中だったのかも知れないが。
ハモンにはその実行役を務めてもらっていて、依頼を受けて処理をしている。どうせ殺すなら後始末の不要なオレが手早いので、ハモンと相談して決めたのだ。ハモンのスマホに映る映像の先に穴を開け、そのまま後ろから押すだけの簡単なお仕事。実行犯はハモンって事になるが、遺体が無いから疑わしいだけだ。しかもアリバイもあるからどうしようもなく、目撃者の見間違いで終わる話になる。北海道で起こった事件もハモンが関わったが、彼のアリバイは鹿児島警察署のトイレ借用で立証された。腹下しと言って、警察署の個室の中から跳んだあいつは、そのままターゲットを穴に突き落とし、また他の穴から個室に戻る。その間僅か1分。これじゃ警察もどうしようも無い訳で・・
それはそれとして、どうしてかオレは遠い場所の事が分かるようになってきた。例の【探索】の個人版である【サーチ】を1度使った相手の周囲の事が見えるようになったらしく、スキルの進化なのかも知れないと思っている。あいつにそれを言うと、ワンコのマーキングみたいだ、などと、チクショウ・・
折角のスキル進化の喜びも一瞬で消えちまったじゃねぇか。それはともかく、役者の仕事は順調なのは良いが、ファンとやら言うのがウザくなり始めた。もっとも、オレの神出鬼没に殆ど付いては来れなかったが、付いて来た奴はまた訓戒になった。なんであんなあからさまな罠にハマるのかと思ったら、こういうケースは滅多に無く、だから油断しているのだろうとハモンは言う。現在の体制は、キツネさんとその相棒さんとで運営されているらしく、2つの世界は手が回らないのだそうだ。なのでオレが異世界に居る時はこっちを見て、元世界に来た時は異世界を見ると言った感じにしていて、連絡を受けてその都度処理をするという方法にしているらしい。
いわばキツネさんの別存在風に動いている訳だが、普通の人間では無理なんだそうだ。まあそうだろうな・・上の存在の犯罪者ですら色々と欲があったりするのに、当たり前に連絡して当たり前に処理して、何も要求しないのはオレぐらいなんだそうだ。奇特なのかも知れないが、その程度の事でいちいち功績をアピールとかやってられっかよ。それに一体、何を要求すると言うのだろう。必要で言えば大抵叶えてくれるし、今までにも散々恩恵を受けている。なのでそれを返していくだけで、功績とかとてもとても・・
さて、いよいよ明日から海外ロケなのだが、社長も付いて来るとの事。秘蔵っ子って事になっているからだが、どうにも周囲がきな臭い。何人か落とす必要があるかも知れんが、どこで落としてやるかが問題だ。理想は旅客機のトイレの中だが、カギが閉まったままだと他の客が迷惑する。それに旅客機の中から忽然と消えたとか、また彼らの同業者が騒ぐ事にもなりかねん。そう、きな臭いとはスクープ狙いのパパラッチ共だ。オレが社長べったりなのを邪推して・・まあ、邪推じゃないが・・巧くいけば決定的写真を撮れると思い込んでの事らしい。フリーが4人、三流スクープ社差し回しが2人の6人体制、と言っても別行動だが。ちなみに社長には内緒だ。言っても仕方の無い事だし。今回、ハモンには陽動で動いてもらう事になっている。なので【思考通信】で相談してさっき決めた。到着ロビーでいきなり姿が消えるのだ。そしてその近くにハモンが居る。監視カメラの死角になるように動いてもらい、隠れた隙に穴が一瞬開いてポテリと・・それは良いのだが、周囲の奴らの注意を他にそらす必要があり、その方法を思案中なのだ。やはり魔法かな・・
《幻術で隠して落とすのは駄目かな・・いきなり幻術使って変に思われないか・・ああそれがあったな・・それよりはトイレに誘致して処理はどうだ・・お前が連れ込むんだろ・・死体は消えるから問題あるまい・・お前、あんまり疑われると身動きが出来なくなるぞ・・その時は異世界に退避させてくれるんだろ・・わざとやってないか・・くっくっくっ・・困った奴だ・・ならそれで良いな・・ああ、任せるよ》
そろそろ帰還の時期のようですが。




