第1話 君の悲しみに寄り添いたんだ。いいかな? だめ、かな?
ゆずとそら。
君の悲しみに寄り添いたんだ。いいかな? だめ、かな?
待ち合わせの場所にはもうゆずがいた。ゆずはそらに気がつくと、すごく嬉しそうな顔をしてにっこりと子供っぽい顔で笑って、ここにいるよってメッセージをこめて、そらに小さく手を振ってくれた。
そらはいってきますっていって、家を出たときからずっと、インスピレーションはどこからやってくるのだろうってそんなことを(なんだか難しい顔をして)考えていたのだけど、そらはゆずのにっこりと笑っている(なんだか天使みたいだった)顔を見たときに、自分の頭の中にインスピレーションが泉のように湧いてきたことを感じた。
ゆずの顔はなんども見ているし、ゆずの笑顔もたくさん見ているのだけど、いつもいつも今みたいにインスピレーションが湧いてくるわけではない。(そうだったらいいのにとは思った)
だから、そのゆずの笑顔は確かにすごく素敵な笑顔だったけど、どうしてこんなにたくさん今日はインスピレーションが湧いてくるんだろうって、そらはとっても不思議に思った。
「ごめん。ちょっと遅れちゃった」
小さく頭を下げてそらは言った。
「別にいいよ。それよりもはやくいこうよ。はやくはやく」
もう待ちきれないっていう小さな子供みたいにはしゃいでゆずは言った。(小さくジャンプもしていた)
「うん。わかった。いこう」
ゆずに負けないようににっこりと笑って、そらは言った。
それから、そらとゆずはたくさんの人たちがいる大きな街の中を二人で一緒に歩きはじめた。
そらとゆずは今、十五歳だった。
同じ伝統あるお嬢様学校の中等部の三年生で、そのまま同じ学校の高等部に進学する予定だった。
そして二人とも大学は同じ名門の美術大学を目指していた。
そらとゆずは中等部で絵画を通じて知り合いになって、お友達になった。
二人は子供のころから絵を描いている絵が大好きな女の子だった。
ずっと、ずっと絵を描いてきた。
でも、二人とも中等部に入学したときくらいから、どこか絵の壁のようなものにぶつかっていた。そんなときにそらとゆずは出会い、お互いの絵を見て、そらはゆずの絵の中に、ゆずはそらの絵の中に、自分の今の絵にはない『大切ななにか』を感じた。
その大切になにかをつかむために二人は一緒に会って絵を描くようになって、今は別々にではなくて『二人で一緒にチームを組んで絵を描く』ようになっていた。
はじめはやってみようかってだけだったのだけど、すごくいい絵が描けたので、すっごく驚いて、二人はそれからずっとチームを組んでいた。
二人の絵はずっと手の届かなかったいくつかのとても有名な大会で賞をとって、いつもお世話になっている学校の絵の先生からもすごく褒められるようになった。
だから、今では二人で一枚の絵を描くことが当たり前のようになっていた。まるでもともとそらとゆずは一人で、今までなぜか半分こにされて、別々の二人になって離れ離れになっていたみたいだったって、そんなことを二人とも思うくらいだった。
今日は絵の勉強のために大好きな画家さんの個展を二人で見に行くところだった。
そらはどちらかというと男の子っぽいボーイッシュな服が好きで、今日もそんなふうな服を着ていたのだけど、ゆずは女の子っぽい服が好きで、今日もお人形さんみたいな可愛らしい服を着ていた。
だけど髪は反対で、そらはとても長いまっすぐな髪をしていて、ゆずは耳がでるくらいのみじかめの髪をしていた。(なんだかちょっとだけちぐはぐだなって、そらは思った)
そらはさっきのインスピレーションを忘れないうちに(いつも持ち歩いているお気に入りの絵のアイデアを描いておくための)手帳に描いておこうって思ったのだけど、はやく個展をやっているお店に行きたいゆずに手を握られてしまったので、それができなかった。
あっと思ったときにはインスピレーションは消えてしまったのだけど、そらはまあしょうがないかなって思った。
流れ星をつかむようなものなのだ。あ、光ったと思ったら、あっという間に消えてしまう。星をつかむということは、そういうことなのだ。いつも必ず捕まえられるようなものではないのだから。(ゆずの手だって同じくらい大切だったし)




