エピローグⅡ
とある塔の最上階で、男が本を読んでいた。
男は、青白く、無表情で、顔からはどんな人物なのか、年齢すらも悟らせない男だった。
部屋に、カツン、カツンと静かに足音が響いた。
男が顔を上げると、ローブを着た老人が近づいてきていた。
老人は、男のよく知る顔だった。
「オルヴァンか。ここに来るとは珍しい」
「お前の方は、相変わらずつまらなそうな顔をしているな。お前も、外に出た方が面白いぞ?」
「今じゃ、ここにいても街の外れにいても、同じことだろう」
「そうでもない。この前、シャンベルから若い娘が訪ねてきたぞ」
それを聞いて、男は熟練の魔術師が若者を叱るような厳しい顔になった。
「シャンベル? 思念術式のか。辺境領主が持つにはもったいなさすぎる術式だ」
「それが、面白い使い方をしておったよ」
「ほう」
男の顔が、探求心に満ちた若い研究者のような顔になった。
「領民に術式を使って、偵察のように繰り返し送り出しているらしい。それで少しずつ情報を集め、この街にたどり着いた」
「なるほど。その一人がお前のところに来たのか。どうせお前から声をかけたんだろうが、その娘に何をしたんだ?」
老人が、顔のしわを深くして笑みを作った。
「何もしとらんよ。ただ、話をして、ご馳走をして、助けてやっただけだ」
「その見返りに情報か? 性格が悪いな」
男の顔が、悪だくみをしている泥棒のような顔になった。
「術式の使い方はうまくても、まだまだ若いな。魔術都市に来て、同種の術式の使い手がいるとは考えもしなかったようだ。ここで一泊した娘をそのまま街に入れおった」
「ふん。魔術都市とはいえ、外れにお前ほどの魔術師がいると想像しろと言う方が難しいだろう」
「買いかぶりすぎだ。人が来なくなってから久しく使っていなかったから、使い方すらおぼつかなかった」
老人は少し大げさに肩をすくめて言った。
「その年で物忘れなど一度もしたことがないくせに、よく言うよ。それで、その情報を得て何をする気だ?」
男の顔が、旧友に会った老人のような顔になった。
「わしは何もしないと言ったろう。ただ、お前に世間話をしに来ただけさ」
「私に世間話をして、その結果、何が起こるかまで計算ずくだろうに。本当に性格が悪いな」
男の顔が、政治家のような顔になった。
「どうだかな。いずれにしても、お前のことはわかっても、あの若い娘さんたちがそれに対してどうするのかは、全くわからない。本当に、若者は予想がつかなくて面白い」
老人が子供に戻ったかのような純粋な好奇心に満ちた顔で、笑みを浮かべながら言う。
それに対し、男もあどけない少年のような顔になり、声を上げて笑った。




