表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/60

第一話 勘違い転移

「ふぅ……疲れた。もうやめた!」


 俺は自室で一人つぶやきながら、数学の問題集を机の隅に放り投げた。


 テスト前だから久々に真面目に勉強しようと思ったが、三十分も持たなかった。

 どうせ分からないならやらなくても同じだ。そんな雑な言い訳をしながらベッドに転がり、途中まで見ていた異世界転生アニメの続きを再生する。


 趣味はアニメとゲーム。

 今見ているアニメも、最近よくある異世界転生ものだ。


 俺だったら、この能力を持って転生すればもっと上手くやれる。


 そんな妄想をしているうちに眠くなり、いつの間にか眠りに落ちていた。



「……さま」


 何やら女の子の声が聞こえる。

 気のせいだろうか。


「ラクトさま」


 ラクト?


 聞いたことのある名前だ。

 というか、ネット上で俺が使っているハンドルネームだ。


 ハンドルネームがリアルで女の子に呼ばれている?


 その違和感に急に覚醒し、飛び起きた。

 目を開けると、部屋で寝ていたはずの俺は、見知らぬ場所にいた。


 薄暗い中でまず目に入ったのは、床に書かれた謎の模様。

 そして周囲を見ると、燭台の上の蝋燭で灯りがともされている。


 正面には、先ほど俺に声をかけてきたと思われる人が立っていた。


 暗くて顔まではよく見えない。

 それでも、蝋燭の灯りを受けて淡く光る金色の髪と、こちらに向けられた細い肩の線だけは分かった。


 年は、俺とそれほど変わらないように見える。

 だが、背筋を伸ばして立つ姿には、妙に大人びた落ち着きがあった。


「お休みのところ突然呼び出してしまい、驚かれているでしょう。私はアリシア・ド・シャンベル。この地を救っていただきたく、あなたをお呼びいたしました」


 声は澄んでいて、言葉遣いも丁寧だった。

 けれど、その奥にはかすかな緊張が混じっている気がした。


「……は?」


 意味が分からなさすぎて、思わず声が出てしまった。


「おおぉ! 本当に成功したのか!」


 他にも人がいたらしく、嬉しそうな声が聞こえた。


「お父様、ラクト様が驚かれますのでお静かに。ラクト様、ここはあなたがいらした世界とは異なる世界。私の術式で転移したのです」


 つまり、まさかの異世界転移ってこと?

 あれって本当に存在したの?

 それに、急に救ってくれと言われても困るのだが。


「しかし、無作為に転移させたのではありません。思念共有の術式により、数多の人々の思念を読み、最も適切な力をお持ちと判断して呼ばせていただきました」


 どういうことだろう。

 もしかして俺にも、異世界転生もので見たことあるチート能力が備わっていたのかも。


「あなたの思念から、過去にたった一人で魔王と呼ばれる強大な敵を倒し、アルムンガードという世界を救ったことを確認しました」


 なんか少し前にやったレトロゲームのリメイクで、そんな話があったような……。


「もしかして、思念って俺の記憶のこと?」


「はい。記憶そのものではありませんが、あなたの経験や感じたこと、考えなどの集まりのようなものです。他にも、大勢の仲間と集まって巨大な竜を倒したり」


 まずい。

 どう考えても、この前やったネトゲの記憶だ。


「さらに、多数の異世界に転生して、時を遡る能力を使ったり、強力な魔法を使ったり、多くの世界を救っておりました」


 完全に異世界転生ものアニメを見たときの記憶じゃねーか!


「自分の世界に戻っているときは難解な書物を読み、異世界に転移する準備をしながら、異世界へ行くことを望んでおりました」


 さっき一瞬だけ数学の問題集を開いて、異世界アニメを見て妄想した記憶だろ!

 どれだけ都合よく解釈されてるんだよ!


 心の中では大声で突っ込んでしまったが、口には出せない。

 何とか誤解を解いて、元に戻してもらうことはできないだろうか。


「この術式は、百年間蓄積された魔力によって行う大規模術式です。慎重に吟味して正解でした」


 勝手に正解にするな!


 嫌な予感がするが、一応戻れるか聞いてみよう。


「えっと、ちなみに、一応聞くだけ聞きたいんだけど、元に戻してもらうことは……?」


 そう言うと、アリシアの肩がわずかに落ちた。

 暗くて表情までは分からない。

 それでも、こちらの望む答えではないことだけは分かった。


「それは……できますが、魔力のない状態で術式を発動すると、成功する保証はありません。失敗すると、時空の狭間に永遠に取り残されることになります」


 何を言っているのかは分からないが、絶対にマズイことだけは分かった。

 どうやら、何とかして問題を解決しないといけないようだ。


 異世界に本当に来たってことは、数々の異世界ものチート能力も本当だった可能性もあるし、俺にも何か備わっているかもしれない。


「いや、とりあえず聞いてみただけだ。ちょうど次の異世界を旅したいと思っていたところさ」


 もう自棄になって、強がりでかっこつけることにした。


「アリシアに任せたときはどうなることかと思ったが、正解だったようだな。自室に案内して休んでもらって、後でゆっくり説明したらどうだ」


 先ほどの男性の声だ。

 どうやらアリシアの父親らしい。

 興奮も落ち着いたのか、かなり魅力的な提案をしてくれた。


「そうですね。では、こちらへ」


 そう言うと、アリシアは振り向いた。

 扉が開き、火の灯ったランプを持った女性が姿を見せる。


 どうやら電気はないらしく、部屋の中はまだ薄暗い。

 女性は家族というより、使用人といった雰囲気だった。


「では、ラクト様、今日はお休みになってください。また明日、説明しますね」


 アリシアにそう言われ、俺は女性に案内されて部屋を出た。

 家の中とは思えない距離を歩いた先に、自室として用意された部屋があった。


 広い部屋だった。

 ベッドも机も、見慣れない家具もある。


 だが、驚く気力はもうほとんど残っていない。

 ベッドに横たわると、混乱した頭を整理する間もなく、俺は眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ