第17話 偽ヒロイン、爆誕(実は妻です)――最後の作戦会議
「ルイーズ〜?その頭のおかしい女が、リチャードとマーガレットに執着してるって事?」
リジーが、納得いかないように口を尖らせて、自分の髪を弄っている。
ふわふわのピンクゴールドが揺れていた。
「それにしてはおかしいんだよな……。当時は俺のことを毛嫌いしてたくせに今さらすぎる。それに……何故、リチャードって名前で探すのか」
ルイーズの名前を聞いて、私はどこか納得してしまった。
やっぱり……。
“リチャード”はあの子の物語に出てたんだわ。
「ただ、“デイジー”がルイーズに恨まれてるのは確かよね。あの子の思い描いてた未来を潰したんだし」
溜め息が溢れる。
あの時は精神的にも限界だったし、ルイーズは盗みの濡れ衣まで私に着せるつもりだった。
後悔はない。
「全部、自業自得じゃん」
「あの子にとっては違うのよ……。多分、全部私のせいなんだわ」
「じゃあ腹いせに仕返ししようって探してるのか」
ずっと黙っていたローランが、鼻を鳴らした。
「でもぉ、公爵令嬢になったんでしょ。ならいいじゃない?」
「……目的のものが手に入らなかったのかも」
普通ならそれで満足するはずなのに。
あの子は自分を“この世界の主人公”だと思っていた。
「いつも、あの子が言ってたの。“王子様と結婚する”って。ルイーズと歳が近い王子様で思いつくのがさ」
「「王太子殿下!?」」
見事に、リジーとローランの声が被った。
普通の感覚だとそうだよねぇ。
私とリックは顔を見合わせて苦笑いだ。
「頭がおかしいよな。だが、ルイーズは実際に公爵家に養子に入っている。もしかしたら『天恵』持ちかもしれない」
「え、確かにそれなら貴族入りも納得だわ」
希少な『天恵』持ちは取り込まれやすい。
「そうだな。なんでも公爵夫妻の命の恩人らしい。先に危険を知らせたんだとさ。“先読み”みたいな能力なら、可能だ」
「うわー……ヤバい能力じゃん。そんなもん誰でも欲しがるわ。ほんと『天恵』ってズルいよね」
リックは、少し気まずそうに頬を引きつらせた。
危険度が跳ね上がったからか、ローランが疑問を口にする。
「でも、それならなんで三年前は防げなかったんだ?お前らの事も、今頃何か見えたのか?」
どうやったら、伝えられるかな……。
ルイーズは本の中の出来事しか知らない。
だから、ごく限られた情報を頼りにしている。
「ルイーズは、よく“物語のストーリー”って言ってたから。本みたいに出来上がった未来しか見えない……のかも。だから、その通りにするのに必死だった」
虐める『役』に私を選んだ。
でも、それも私が転生者だったから崩れてしまった……。
「じゃあ、それをデイジーがぶっ壊したってことか」
「ズレたものを直そうとしてるのかしら」
幼少期は、きっとあまり描かれていなかったんだ。
もしかしたら、リックとリチャードが同一人物だとすら知らないのかもしれない。
「リチャードとマーガレットはもしかしたら、今頃登場するのかもしれないわ」
「じゃあ、初対面の振りをしておくか。髪色も変えるかな」
「え〜元から濃い色なんだから、黒くらいにしかならないわよ?でも、やってあげようか?」
リジーがリックの髪の束を掬って、少し考え込む仕草を見せた。
――距離が近い。
ローランがその言葉に声を上げる。
ビッと私を指差して、リジーに詰め寄る。
「リジー!簡単に男に触るなって何度も言ってるだろ!そんなものマーガレットがやるに決まってる。お前のでかパイがこいつに押し付けられるのは想像するだけでもムカつく!」
――ぐっ!
何気ない一言にダメージを食らった。
前世では、普通サイズが一番人気がなかった気がする……。
「下品!これだからローランはぁ……!ねぇメグ。……メグ?マーガレット?」
「……うん、大丈夫……ローランって……ほんと」
「あ~、ごめんねぇ。コイツってば本当に……はぁ……」
言葉に詰まった私をみてリックがローランに掴みかかった。
「馬鹿言うな!マーガレットはこれでも、感――ぐぁ!」
「変なこと言わないでよ……!」
リックの足を思い切り踏んで黙らせる。
痛みで眉を顰める彼を横目で見ると、目が合った。
こんな状況なのに、悪戯っぽく笑っている。
幼い頃から、ずっと変わらないんだから。
馬鹿なことばっかり言って本当に。
これだから――。
心強い。
「リックが髪色を変える必要はないと思う。多分ルイーズは覚えてない。問題は私かな?」
自分の髪を持ち上げてみる。
“デイジー”が探されているなら、少しでも印象を変えておきたい。
「メグは明るい茶色だから、結構染まるよ。ちょっと赤を足したら私と似た色合いになるかも」
「わ!それいいかも。リジーの綺麗なピンクに憧れてたんだよね」
あ、でも目立つかな。
ピンク髪なんて前世の定番ヒロインみたいだ。
似合わないかも――。
でも。
(ちょっとくらい対抗してもいいよね……ルイーズの物語は知らないけど)
――だって、リックは私の……旦那、だもの……!
少し不安になり、彼の顔をうかがってしまう。
「リックは……どう思う……?」
「ぐっ……!俺の嫁が可愛すぎるんだが……」
両手で顔を覆って悶え始めたリック。
それを見て、さすがに驚いて止めに入る。
いくら気安い仲間の前でもこれは恥ずかしい――!
馬鹿馬鹿、リックのバカ!
「うちのリーダーが馬鹿すぎるから今から殴ります」
「よし、俺に任せろ」
リジーとローランが腕を捲り、リックに殴りかかった。
◇◇◇
数分後。
リックが咳払いをして、場を整えた。
「じゃあ、二手に分かれよう。ご指名通り、俺は公爵家へ行く。サポートとしてリジーについてきてもらう」
「オッケー」
リジーが軽く頷いた。
その度胸が羨ましい……。
「マーガレットはローランと依頼主の方へ。正直、信用ならないから……ローラン、お前に任せる。誓約魔法の詳細は、向こうで聞いてくれ」
「――ああ。……でも、お偉方が御大層なことを言ってるが、結局、素行調査みたいなもんだろ?」
一瞬静まり返った後に、思わず笑いが漏れた。
他のメンバーも同じらしい。
本当にその通りだ。深刻に考えすぎなのかもしれない。
ローランとリジーのこういう所が好きだ。
味方もいるし、きっと大丈夫。
「まあ、依頼内容はそうなんだが。相手が厄介だからな……。心してかかろう」
「「――了解」」
私たちは、リックの言葉に頷きあう。
これから、私はローランと“依頼主”に会いに行く。
リックが信用ならないと言った相手だ。
きっと一筋縄ではいかない気がする。
「ローラン……。頼りにしてるからね」
「面倒くさいから、俺に惚れるなよ」
「……ダサ」
「ごめんね、メグ……」
リジーがローランの頭を小突きながら苦笑いして私に謝った。
その直後に、リックが詰め寄っていく。
「締めるぞローラン。マーガレットがお前に惚れるわけがないだろーが!」
「お前に言われたくないけどな。お前こそリジーに手を出したら殺すからな!」
怒りの声を上げるリックとローランを無視して、私とリジーは顔を見合わせて笑った。
(やっぱり、この空気が好きだな)
ローランの、このポンコツ具合が結構お気に入りです……(笑)
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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