第12話 デイジー嫉妬する――その影で
第三章準備中です。
よろしくお願いします。
「あーー〜……。逃げたい」
私は頭を抱えた。街中で噂されている、昨夜の事件。
顔から火が出そうだ。
「はいはい、バカかわいい旦那特製の朝ごはんだぞ」
リックが悪戯っぽい笑顔でお皿をテーブルに運んでくる。
うーん、気が利く。
ありがたい。
「なによ。卵とベーコンを焼いただけじゃない」
「ありがたいだろー。ほら、こっちなんてカリカリ!」
「ええ、美味しそう。いただきます」
「デイジー、昨日言い忘れたんだが」
フォークを持った時に、彼から軽い口調で告げられた。
卵を口に入れた瞬間なので、目線だけで先を促す。
「そういえば、俺。今日は遅くなるな」
「そうなの?何か依頼あったの?」
軽い口調なので、危険はなさそう。
それなら大丈夫かな。
「ああ、パーティーの欠員の穴埋め」
「なるほど」
最近は単独の指名も多いからなぁ。
ローランとリジーに相談してみよう。
「じゃあ、私はいつものメンバーと軽い仕事してこようかな」
目玉焼きを口に運んだ。
いい塩加減。うん、やっぱり最高だわ。
◇◇◇
「ねぇねぇ、リチャードだけどさ」
「ん?」
冒険者ギルドの掲示板を確認していると、隣からリジーが声をかけてきた。
今日もフワリとウェーブがかかった髪が似合う。
「今回の依頼、危ないかもよ」
「どういうこと?」
私は声を潜めて聞いた。
あのリックが、危ない橋を渡るとは思えない。
「美女ばっかり。有名なパーティーだよ」
頭をガツンと殴られたような衝撃を感じた。
「美女……」
「ほらほら、うちら可愛い系じゃん?たまには違う系統にって――」
そこで、リジーの頭が軽く小突かれた。
そのすぐ後ろにローランが立っていたので、会話を聞かれていたみたいだ。
「適当に煽るなよ。リチャードは大丈夫だ」
「むー。わかってるわよぉ」
浮気の心配なんて全くしていなかったが、嫌な感情が胸の奥に沈み込んだ。
あのリックに限ってそれはない……。
信じてる。
それなのに、掲示板の文字が霞んでよく見えなかった。
◇◇◇
「今日は、本当に凄かったわ。流石ねぇ」
「もう、このまま正式メンバーになってよ〜」
街中で、リックと鉢合わせた。
依頼が終わり、これからギルドに向かうところだろう。
――それはいいけれど。
彼の両脇には、馴れ馴れしく腕を絡ませる女性が二人。
背の高い女性と、露出の多い服装をした少女。
『うわー……』
『うわ……。タイミング悪いヤツだな。ご愁傷さま』
リジーとローランの声がする。
――丸聞こえだって。
ふと、リックと目が合った。
私は思わず目を逸らす。今は彼を見たくない。
「あ!マーガレット!」
そんな私の心境も知らずに、嬉しげな声で駆け寄ってくる。
リックがそれなりに人気があるのは知っている。
知っているが――。
「お仕置きコンボ!」
リックに逃げられないように、その手を取り、直接電撃を流し込む。
前世で大人気だった、虎柄美少女の必殺技だ。
『うわ、相変わらずマーガレットはエグい』
『逃げられないように腕をつかんでるのがポイント高いわねぇ』
「う、わわわわわわ!!!」
倒れ込むリック。
「おーい、生きてるか?あはは!いやー、女の嫉妬は物理的に痛いな!」
ローランが声をかけている。
「えー?私は、食事に激辛ソース混ぜるくらいじゃない〜?」
浮気じゃなくても、街中で女性に絡まれるのはお仕置き案件なのだ。これは、様式美だ!
――やり過ぎたかな?
そう思っていると、彼はガバリと私に抱きついてきた。
「あ〜、デイジーが一番安心する。もー猛獣に囲まれた時の獲物気分だった!スライムの気持ちが初めてわかった!」
スライムの気持ちって。
隣では、ローランが大笑いしている。
「転生したら、旦那がスライムだった……」
そう呟いたら、笑ってしまった。
後ろでは、さっきの女性たちが何か言っているが。
やっぱり、うちのリックは馬鹿かわいい。
「でも、軽々しく他の女性と仲良くしないでよね……」
理性だけでは、完全に払拭できない感情が胸を覆う。
つい、リックを責めてしまう。
「え、嫉妬?……本当に嫉妬??」
「なに嬉しそうにしてるのよ?……当たり前じゃない」
口角が上がりっぱなしのリックから目を背けた。
指摘されると顔が熱くなってくる。
私はそんなキャラじゃないんだってば。
「やっぱり、うちの嫁が一番かわいい!」
街中でそういう事を叫ばれると困るってば!
照れ隠しに、出力を弱めてもう一度電撃を食らわした私だった。
◇◇◇
――その頃。
「……やっと見つけた」
リチャード。
マーガレット。
(……ここから始まるんだわ)
――今度こそ、私の物語を取り戻す。
読んでくださり、ありがとうございました。
ほんの少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。




