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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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89 郷愁縁起編10 ばいおれんす

 俺達は港区のはずれにある小さい軽食屋で昼食を取ることにした。メイは別行動だが、近くに身を隠しているらしい。

 食事をしながら、ユイにこれからどうするかを尋ねた。


「昨日も少し話したけど、連中の使いっ走りでこの辺の何件かの酒場に行ったことがあるんだ。酒場の主人もオレの事は覚えてるはずだから、それとなく聞き出してくる」


 ユイの言う連中とは〈山猫〉のことだ。〈山猫〉はちょっとした連絡のやり取りや、手紙の配達などの簡単な仕事をユイの様な子供に回してくれることがあるという。


 ユイは赤子のころにスラムに捨てられていたらしい。そして、あの娼館で育てられたそうだ。

 当然〈山猫〉の目に留まり、ニサの経営する孤児院に連れていく話も出たそうだが、娼婦たちが引き渡さなかったという。そこにどういう理由があったのかはわからない。

 ユイがある程度成長してからも、何度か孤児院に誘われたようだが、ユイは娼館で娼婦たちと暮らすことを選んだ。

 孤児院の経営や収容人数にも限りがあるため〈山猫〉も無理に連れて行こうとはしなかったという。ただ、ユイが成長すると、子供でも出来る簡単なお使いを回してくれるようになったそうだ。


「でも、ユイは大丈夫なのか? その、お世話になってるわけだろ? 俺なんかを助けたら裏切り行為じゃんか」


 俺の問いにユイはこう答えた。


「奴らはオレみたいな子供を集めて手駒にしてんのさ。成長して使える奴は組織で直接使うし、そうでなくても、いろんなところにコネがつくれる。俺らみたいな食うに困ってる子供を餌付けして飼いならしてるってわけだ。奴らの言う孤児院が暗殺者を育てる学校でもオレは驚かねぇよ」


 俺は少し驚いてしまった。〈山猫〉の子供の保護は、確かにそういう見方もできるわけだ。助けた子供が成長して助けてくれた組織の為に役に立ちたいと思うのは不自然ではない。意図してそうしているわけではないと思うが、そう取られても仕方のないところはある。

 だが、もしそういう意図があったとしても、〈山猫〉の行っていることは悪い事ではないと思う。それで何人もの子供が救われているのは事実だ。

 俺が驚いたのはユイの事だ。彼くらいの年齢で、今言ったような俯瞰した見方はなかなかできないと思う。子供っぽい反抗心の様なものもあるのかも知れないが、やはりこの子は頭がいいのだろう。


「恩には感じてるし、いつか借りを返したいとは思ってる。でもこれはオレが受けた仕事だ。オレはあいつらの仲間になった訳じゃねぇし、そこまで義理立てることはねぇよ。そもそも、アンタを手助けするなとか、見つけたら知らせろ、とかまだ言われてねぇし」

 

 そんな子供じみた言い訳が通じる相手とも思えないが、いざとなったら俺を売ると公言しているわけだし、最悪捕まったとしてもどうにかできる自信があるのだろう。


「まぁ、オレは運がよかったってのも理解してる。オレには育ててくれる奴がいた。寒さをしのげる家もあったし仕事もあった。そんなオレなんか比べものにならないくらい、もっと抜き差しならねぇ境遇の子供も見てきたし、死んだ奴もいる。〈山猫〉はそういう子供にとっちゃありがたい存在さ」


 ユイはそう言うと、席を立った。


「じゃ、ちょっとここで待ってな。夕方までに戻ってこなかったら、オレはランを裏切って逃げたって思っていい。じゃあな」


 ユイの話では船に乗る方法を確認してくるだけなので、それほど時間はかからないとのことだった。そしてユイが持ち帰った情報をもとに今後の行動を話し合うことになっていた。

 俺は軽食屋の隅のテーブルでただぼーっと待っていた。しばらくすると店主の親父が嫌な顔でチラチラ見てきたので、果実水を注文し多めに金を払って人を待っていること告げた。店主はこちらに注意を払わなくなった。

 温くて味のしない果実水をチビチビと飲んでいたが、それががなくなったころ、一人のチンピラ風の若い男が店に入ってきた。店の中を見渡し、俺に目を止めると近づいてきた。


「おめぇがランだな。ユイってガキは俺たちが預かってる。ついてきな」


 俺は黙って男の後について歩いた。途中でチラリと確認すると、メイは少し離れたところをついてきている。メイがいれば捕まったユイを助けることはできるだろう。

 だが、俺の心は不安と後悔と自己嫌悪で押しつぶされそうだった。

 俺もユイに同行するべきだった。それでなくてもメイを護衛につけたりと、出来ることがあったはずだ。一人がやりやすいなら離れたところから見守るとか、いくらでも方法はあった。

 それ以前にユイの同行を強く拒否すればよかった。いや、そもそも俺が逃げだしたりせずにおとなしく武術大会に出ることをよしとしていれば、こんなことにはならなかったのではないか。

 今更そんなことを考えても遅いのはわかっている。ただ無事を祈るしかない。もしユイがひどい目に合わされたりしていたら俺は……。

 そんなことをグルグルと考えているうちに、目的の場所に着いたようだ。

 そこは倉庫街のはずれの古びた倉庫だった。見た目もボロボロでもしかしたら今は使われていないのかもしれない。

 男に中に入るように促され、黙ってそれに従う。その後に俺を案内した男が続きスライド式の大きな扉を閉めた。

 倉庫の中はガランとしている。いくつかの天窓と壁の高い位置に換気用の窓があり意外と明るい。木箱がいくつか無造作に置いてあり、いかにもチンピラ風の三人の男たちが待ち構えていた。そのうち一人は小脇にユイを抱え木箱に腰かけている。


「おめぇがランって……」

「メイ!!」


 ユイを脇に抱えた男が何かを口したようだったが、俺はそれどころではなかった。ユイが頭から血を流しているのが目に入ったからだ。

 その瞬間に頭が沸騰しそうになりながら反射的にメイの名を叫ぶ。

 天窓を突き破って入ってくるメイの姿を確認し、【思考加速】を発動する。

 ユイに、こんな子供に怪我を負わせるなんて。

 怒りで塗りつぶされている思考をゆっくりと鎮める。

 こいつらは許せない。でも、だからといって殺したい訳じゃない。大丈夫だ。ユイはメイがたすける。シルビア特製の治療薬もいくつか持ってきている。ユイは大丈夫。怪我も治る。大丈夫だ。

 時間をかけて自分にそう言い聞かせる。


 だから、こいつらは冷静にぶちのめす。

 

 俺は腰に下げていた剣を留め具から引きちぎり、鞘をつけたのまま目の前の男に殴りかかる。

 男たちは大きな破壊音と破片をまき散らしながら落ちてきているメイに気を取られている。

 目の前の男の腹を鞘のついた剣で殴り、そのまま二人目の男に向き直る。二人目の男はまだメイの方を振り返っていたので、そのまま突進して剣の柄を腹に叩き込んだ。

 二人の男が崩れ落ちている間に、メイは落下の衝撃を殺すためのしゃがみこんだ姿勢から、バネの様に跳躍しユイを抱えている男の顔面を殴りつけていた。

 その様を横目で確認し、俺は、三人目の男、俺を案内してきた男の方に振り返る。男は何が起こったのかわからないのか呆然と突っ立っている。

 俺はスタスタと男に近づき、比較的手加減控えめの回し蹴りをその横っ面にお見舞いした。


 

 ユイの怪我は大したことは無かった。額が少し切れていたのと、足首を捻挫していたようだが、今は治療薬できれいに治っている。しかし、もし頭部を強く打っているなら万が一もある。


「どうだ、気分が悪いとか、吐き気とかないか?」

「………大丈夫」


 そう言ってる割にはユイは元気がない。心配だ。

 そして実は俺も元気がない。怒りに任せ安易な暴力に走ってしまった自分に自己嫌悪の真っ最中だ。

 悪いのはこのチンピラどもで、あの状況では荒事は避けられなかったとは思う。だが、もっと他にやりようはなかったのか。ユイの怪我を含め、こういう事態になったのは俺の身勝手のせいではないのか。どうしてもそんなことを考えてしまう。


 だが、けじめは着けなければいけない。悩むのは後にしよう。


「さて、俺の相棒を痛めつけたやつはどいつだ?」


 俺の目の前には四人のチンピラがパンツ一丁の格好で拘束し座らせている。倉庫の中に落ちていたロープでは足りなかったので、チンピラどものシャツを裂きロープ代わりにして拘束した。

 男たちは項垂れて何も答えようとはしない。


「メイ、こいつら全員の腕をへし折れ」

「はい。マスター。両腕ですか?」


 もちろん脅しだ。そんなことはしない。それはメイにも伝わっているはずだ。たが、こんな言葉を口に出すだけで少し落ち込んでしまう。俺はいつからこんなバイオレンスな世界に足を踏み入れてしまったのか。どうしてこうなった。

 俺とメイの会話を聞いた男たちは明らかに動揺した。そして三人の男たちが端に座っている男に視線を向けている。


「お、俺じゃねぇ! そのガキが逃げようとして揉み合いになって、勝手にこけたんだよ! 本当だ、信じてくれ! おいガキ! いや、お前! そうだろ!? お前からも言ってくれよ!」


 他の三人の視線に気づいた男は、慌てて言い訳を始めた。俺はユイに視線を向ける。


「……そいつの言ってることはホントだよ。オレがしくじったんだ」


 ユイは俯きながら呟くように言った。ユイの言葉を聞いた男は少しほっとしているようだ。どこまで本当かは確かめようがないが、ユイがそう言うならそういうことにしておこう。

 俺はため息をつきながら、次の段階に移ることにした。こいつらが逆らえないように脅すという作業だ。


「俺は自由民だ。帝国民じゃない。この意味が分かるか?」


 自由民は、遊牧民のように決まった場所に定住しない者や、頻繁に国をまたいで行き来する船員などに多い身分だそうだ。俺の場合はお国の都合でそういうことになっている。

 自由民は国に税を納めない代わりにその庇護を受けない。つまりトラブルがあっても衛兵は基本的に関与しない。助けてくれない、ということだ。その代わり自己裁量、自己責任でトラブルを解決していいということになっている。要するに、俺を襲ってきたこいつらを、帝国の法によらず、俺の判断で裁くことができる。そして、そのことに衛兵たちも文句を言わない。もう少し複雑なルールはあるようだが、ザックリ言うとこんな感じだ。

 ちなみにあちこちを渡り歩き、決まった住所を持たない冒険者や行商人でも、それぞれの組合で納税しているので帝国民扱いだという。俺も一応冒険者だが、その辺の税金は免除されているらしい。まぁ、詳しいことはよく知らない。

 とにかく、ここで大事なことは、こいつらを痛めつけたり、殺したりしても俺が罪を問われることは無いない、ということだ。


 俺の言葉の意味を理解したのか、男たちは青ざめ動揺し始めた。俺に後ろ暗いことがあるなら衛兵に突き出されることは無いし、万が一そうなったとしても、恐喝程度の罪なら一定期間の労役か鞭打ち程度の罰で済むと高を括っていた部分もあったのだろう。だが、今の俺の言葉で、俺がその気なら殺される可能性があることに思い至ったようだ。

 男たちは口々に命乞いと言い訳を始めた。彼らの口上を要約すると、いわゆる出来心で、魔が差したというものだった。その理由も一応は有るようで、俺とユイが衣服のまとめ買いをしているところを男たちの一人が偶然見かけたそうだ。その時は特に何も思わなかったが、そのあと、酒場でユイが船に潜り込む方法を聞いているところを、これまた偶然見てしまった。何か事情があって真っ当ではないやり方で帝都を離れようとしている。しかもそこそこ金も持っているようだし、他に仲間もいないようだ。後ろ暗いことがある奴は衛兵に届け出たりしない、少し脅して金を巻き上げよう。ということになったらしい。

 一応筋は通っているように聞こえる。だが。


「そんなことはどうでもいい。重要なのは俺の相棒が怪我をして、お前らに金を奪われそうになったという事だ。……お前らを痛めつけたり、口に出すのもはばかるような酷い目に合わせてもいいんだが……」


 俺はそこで考え込むふりをする。もちろん演技なのだがこれもつらい。なにやってんだ俺、という気分になってしまう。トア辺りが見たら笑い転げるにちがいない。


「そうだな……お前らが俺の役に立ってくれるなら、考えなくもない。逆に報酬を払ってもいいとも思っているんだが、どうだ?」


 俺の言葉に男たちはしきりに頷いている。

 ふむ、じゃあ仕上げと行きますか。


「今からお前たちの拘束を解いてもいい。だが、逆らったり逃げようなんて思わないことだ。……メイ」

「はい。マスター」


 メイは返事をすると倉庫の隅に転がっている木箱の前に立った。大きさは一メートル四方より一回り大きいぐらいか。そして、その木箱に軽い動作で拳を打ち付けた。

 木箱は爆砕した。

 船に乗せる荷を詰める為の木箱だ。運搬や中身の盗難に備えてとても頑丈に作られている。例え斧を持ってきてもそう簡単には破壊できないほどの強度がある。それが粉々だ。

 男たちはあんぐりと口を開け固まっている。俺も似たような感じだ。思わず、今のどうやったの? と尋ねそうになってしまう。

 あいつら加減ってものを知らないのか。いくら何でも強化しすぎだ。


「あー、えーと、あんな風になるから気を付けて下さい」


 いかん。思わず素の口調に戻ってしまった。俺は咳ばらいをして話を続ける。


「逃げるのはお勧めしない。メイはお前たちの魔力を覚えた。そういう機能がある。その気になれば、世界中どこに逃げようが追って行ってお前らを今みたいにぶん殴る。魔力を辿るので顔を変えても意味はない。そして、俺や相棒に手を出すのはもっとお勧めしない。例え俺を殺せたとしても、……後は言わなくてもわかるか」


 メイにそんな機能は無い。……たぶん無い。いや、俺の事はどこに逃げても追ってきそうではあるが。それはまぁいい。

 俺はメイの荷物から、逃走資金のはいった巾着を取り出した。中から一枚の金貨をつまみ男たちの足元に放った。俺的金銭感覚で十万円から二十万円の価値だ。四人で分けても結構な金額だろう。というか出しすぎな気もするが、これが最後の仕上げだ。

 まず、絶対に逃げられないと思わせ、ここで金を見せることで、俺に協力すれば得をすると思わせる。


「もうわかっていることだろうが、俺は身分証を使わずに帝都を離れたい。その金で船に乗る段取りをつけてほしい。残った分はお前らで山分けしろ。足りなかったら言え。だが、気を付けろよ、嘘はわかるからな」


 まぁ、こいつらの言い分は裏を取ったりすれば虚偽の判別は出来る。面倒だからそんなことしないけど。というかぶっちゃけ逃げられても構わないし。

 そのあと、男たちの拘束を解き、うち二人に買い出しに行かせた。シャツが無い奴もいることだし。

 生活魔法を使える奴がいたので、水を出してもらい、お茶を飲むことにする。

 ユイの体調は問題ないようだが、なにやら落ち込んでいるようで声がかけづらい。


「あのー、アニキ、自動人形を連れた凄腕の剣士って……、アニキはもしかして……」

「あー、違います。それよく言われるんだけど違うから。俺凄腕じゃないし! 余計なこと言うな! 違うからな! ぶっ転がすぞ!」 

「……転がす? ……いえ、すみません、アニキ」


 アニキ呼びも気になったが、そんなことより、いきなり正体がばれている。確信を持っているのかどうかわからないが【精神感応】の影響が心配だ。少し注意して様子を見るか。

 しかし、逃げる算段がつきそうなのはいいが、これからどうするか。

 まず、とりあえずは……。


「あの、メイ? そのお面今は外してていいからね?」

 


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