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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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94 郷愁縁起編15 闇落ち

「……確かにスキルが発現しているね。しかも夢で見ると言ったね?」

「はい」


 土産も配り終え、さっそくというわけではないが、シルビアの【鑑定】を用いた診察が始まった。

 シルビアはアルティアナをじっと見つめた後、簡単な質問を繰り返している。


「……予知の夢と普通の夢は区別がつくのかい?」

「はい、なんとなくですけど。……予知の夢のときは目が覚めてもはっきりと覚えています。……うまく言えないんですけど……まだ起こっていないことですが、まるでもう起こってしまった過去の様に感じることがあります」

「どんな見え方がする? あとは、……そうだね、法則の様なものはあるかい?」


 アルティアナは少し考え込むようなそぶりを見せる。


「……見え方は………透明になった私がその場いるような感じです。上から見下ろしたりすることもあるので、幽霊になってその場にいるような感じ、でしょうか。音や声が無いように思います。法則は……、わかりません。見ようと思っても見れませんし。……ただ、夢に見るのは私の親しい人、家族とか、仲のいい人だと思います。知らない人も出てきますが、知らない人だけの夢というのは無いように思います」

「ふむ………」


 シルビアは難しい顔でしばらく考え込んだ後、ゆっくりとした口調で話し始めた。


「アンタのスキルは【予観】といものだ。未来を予知するユニークスキルの一つさ。といっても、必ず的中するわけじゃない。これから起きる可能性の高い未来を見ているだけだ。強い意志があれば変えられる未来。だから、予知の夢をみてもあまり気にしないことだね。悪い未来なら変えられるかもしれないんだから、考えようによっては便利な能力さ」

「……はい」


 シルビアの言葉を聞いたアルティアナはほっとした表情で微笑んでいる。


「ただ、力をコントロールする術を学んだ方がいい。未来がわかってもいいことばかりじゃない。それはわかるね?」

「はい」

「まぁ、その辺りはおいおいやっていこう。重ねて言うが、あまり気にしないことだ。アンタには頼りになる家族がいる。アタシやトアだってアンタの味方だ。何も心配することはないよ」

 

 アルティアナは今度ははっきりと笑顔を浮かべ大きく頷いた。それを見てシルビアも優しく微笑んでいる。


「さて、フチ、次はアンタの事情を聞かせな。村は娯楽が少ないからね。アンタの話を聞くのが最近のアタシの楽しみなんだよ」


 なんだそれ。と思いながらも一応事情をかいつまんで説明する。まぁ、そんなに難しい話ではない。無理やり武術大会に出場させられそうになったから逃げた。簡単に説明すればそれだけの話だ。


「アンタも難儀だねぇ。まぁ、話はわからなくもないけど。それでどうするんだい? ずっと逃げ隠れするのかい?」

「とりあえず、建国祭が終わるまで、ここでかくまってもらおうと思ってるんですけど。後の事はそれから考えようかと」

「イチロー、そのことですが……」


 俺とシルビアの話を聞いていたトアが話に割り込んできた。


「その武術大会ですが、延期の話が出ているです。理由は色々言われていたですが、たぶんイチローが逃げたからです。最悪、イチローが帝都に戻るまで延期かも知れないです」


 な、ん……だと。


「影響を受けていたからわかることですが、アレは普通の精神操作系の魔法とは違うです。というか、おそらく魔法ではないです。イチローやその仲間の力を知りたいという思いがあれば、それが増幅されるです。元々ある気持ちが強くなるので、あまり違和感を感じることがなく、抵抗することも難しいです。そして厄介なのはそれが伝染していくことです。イチローや私たちに興味が無い者も、影響を受けている者から話を聞いたりして少しでも興味をもてば、それが増幅されるです」


 それはある程度予想していたことではあったが、……まさか、俺の力を見るためにお国のイベントを延期までするのか? というか、イベントを運営しているお偉方が【精神感応】の影響下にあるということか。もしかしたら皇帝陛下も、なのかなぁ。ロウ・フチーチが出ない大会など意味が無い、とか言ってるんだろうか。やだなぁ。


「例えば帝都に戻らず、連合国に行くとか、どこか他の場所に逃げることもやろうと思えばできるですが……万が一追ってこられると、そこでまた【精神感応】に取り込まれるかもしれないです。それに……今考えると【精神感応】の影響も日に日に強まっているようだったです。時間がたてばどういう風に影響がでるか……」

 

 トアはそこで言葉を切り、ハルに視線を向ける。ハルは一つ頷いて話し出した。


「えっとね。三百年前に魔物の大暴走があったの知ってるよね? 〈大魔嘯〉って呼ばれてるみたいだけど、……アレ、僕の母様のせいなんだ。あのとき父様と母様が大ゲンカしちゃって……その時の母様の感情が周囲の魔物に伝染してあんな大騒ぎになっちゃったんだ。……エリーが止めてくれたからこの町には被害は出てないって聞いたけど……」


 ハルはバツが悪そうな顔で軽い口調で言っているが、これは結構衝撃の事実なのではないだろうか。たしか、ゴブリンの村や、ドワーフの里はそのせいで森が荒れて大変だったって話だし。ドワーフ達に至っては口減らしのために結構な人数が里を出て人間の町に行ったという話だった。その原因が夫婦喧嘩とは……笑うに笑えないような気がする。

 つまり、放っておいたらそれくらい大変なことになるかもしれないよってことか。


「ハルもいるですし、このままどこか遠くに逃げるのもアリですが……どうするかはイチローが決めるです。その時はわたしも一緒に行くです」


 トアの言い分はわかる。本当に全部を放り出して逃げてもいいと、それに付き合ってもいいと、そう言ってくれているのだ。


 そもそも、武術大会というものに出る気が全くないのに俺の意向を無視して話が進んでいるのが気に食わない。

 イディナの気持ちはわからないでもない。自分の子供を預けるに足る人物なのかを見極めたいというものだろう。だが、俺の場合は命懸けだ。

 この世界の住人は、状況にもよるだろうが即死さえしなければ治癒術や魔法薬ですぐに回復する。高位の魔法があれば四肢の欠損も治療可能だという。俺の場合は怪我の予後が悪ければ死ぬ。もし腕を切り落とされれば、おそらく繋がらないし、生えてくることもない。そして、敵をなぎ倒すような技や魔法もない。【思考加速】という特技はあるが、言ってみれば人よりちょっと頭の回転が速いだけだ。回転が速いだけで頭がいいわけではない。そしてそれをやりすぎると脳味噌が死ぬ。

 だいだい、ちょっと頭が良くても知識チートとか無理だって。そんなことができるなら地球上に貧困国は存在しない。アフリカでもアマゾンでも、通訳連れて行ってそこを豊かな国にしてみせろってんだ。前世がニートだから転生したら努力する? 努力できなかったからニートだったんだろ? 記憶も性格も持ち越しならそんなん無理でしょ。くそう、俺の前にも神様が現れてスマホでも使えるようにしてくれ。そしたら俺は冒険なんてしないでユーチューバーになるけどな。殺す覚悟も殺される覚悟も普通の現代日本人がそんなに簡単に出来るはずないだろ。うあーイライラしてきた。俺だって猫耳狐耳のアニメ声の女の子にニコポされたいわ! 寄ってくるのはガキばっかじゃねーか! 卵産みたいってなんだよ! こんなことなら、やっぱりターシャさんと


『………い、……おい。イチロー、お前大丈夫か?』

 ……あー、いや、あんまり大丈夫じゃない。ちょっと闇落ちしそうになったわ。てか少し落ちたわ。

『そ、そうか。……えーと、お薬出しておきますね?』

 あ、はい。おねがいします。

『まぁ、あとで愚痴聞いてやるから。それと、今後の事も話し合おう。……すまんな。イチローがこんな状況なのに、私に出来る事はそれくらいしかない』

 ……タマちゃんのその気持ちは有難いけど………そうだな、後で話そう。……いつもありがとう。助かるよ。

『……ああ、後でな』


 タマムシの言う、お薬、つまり脳内の分泌物の操作で感情を抑制してくれたおかげで、強制的に平静を取り戻す。鎮静剤を処方されたようなもんだ。まぁ、これも、考えようによってはチートだよな。はぁ。


「トア、アタシは少し代官様とフチに話がある。たぶん聞いていてもつまらない話なんだが……」


 俺が何も言えないでいるとシルビアがそう切り出した。トアはその言葉で察した様で、リジーとアルティアナをお茶に誘っている。


「お前、ユイっていったですか? お前も来るです。お前とイチローの話を聞かせるです。イチロー、連れて行ってもいいですか?」

「え、ああ。いいけど、いじめるなよ?」

「そんなことしないです。アルトのお母さんとおばあちゃんも誘うです」

「え? ラン、オレは……」


 トアに急に話を振られ、ユイは助けを求めるような目でこちらを見てくる。だが、俺も人に構うような余裕がない。今回のはまずい。ちょっと自分の中で折り合いがつきそうにない。それでも、無理やり納得して這ってでも前に進むか、それとも後ろに振り返って全力疾走するかを決めなければならない。


 俺は一つ深呼吸して、気持ちを落ち着ける。

 後で皆に相談しよう。自分一人で処理できないなら皆に頼るって決めた。情けないけどそれは今に始まったことじゃない。なるようになる。

 自分にそう言い聞かせる。

 そんなことを考えている間に、トアは皆をつれて部屋を出て行った。

 俺はメイにお茶を貰ってくるようにお願いする。


「フチ、あの子はどこで拾って来たんだい? 鬼族の〈原種〉なんて初めて見たよ。鬼族自体が珍しいのにまさか〈原種〉とはね」


 シルビアは消音の魔法を展開しながらそんなことを呟く。

 よかったなユイ、旅の目的がもう達成されたぞ。……コレ、本人に教えていいのかな。……いいよな?


「さて、わかっていると思うが、話ってのはアルティアナのことさ。さっきはああ言ったが、ありゃあ良くないね。珍しい予知系のスキルの中でも強力なヤツだ。うまく制御できないと心を病むかもしれない」

「やはり……私たちはどうすれば……」


 シルビアの言葉にアルファードは頭を抱える。俺はいきなり始まった重い話にちょっとついていけない。とりあえず説明を求める。


「予知系のスキルは【占術】や【預言詩】ってのがあるが、アルティアナのように映像が見える奴は厄介なのさ。夢と現の境が曖昧になりやすい。何が現実で何が夢なのかわからなくなる。アタシも【鑑定】を持っているが、最初は戸惑ったよ。別に知りたくもない情報が勝手に頭に流れ込んでくるんだからね。情報系スキルの厄介なところさ」

 

 シルビアの説明は続く。

 シルビアの持つ【鑑定】やアルティアナの【予観】は意識の中の情報の集合体のような場所から、必要な情報を引っ張り出してくるものらしい。イメージとしては心の奥底に世界のあらゆる情報がつまった光の柱の様なものがあり、そこにアクセスすることで知りたいことがわかる、というものだ。

 俺もそういう話は聞いたことがある。深層意識の集合体とかアカシックレコードとかいうやつだ。オカルト話は好きな方だったのでうろ覚えだが一応知っている。

 アカシックレコードはこの世のすべての知識と過去と未来の情報が詰まっていて、それにアクセス出来れば何でもわかるし未来の事もわかるよ、とかそんな話だった。その話に関連して、インターネットは未来の事だけがわからない不完全なアカシックレコードで、人類はそれを作り上げている最中ではないか、という話が印象に残っている。まぁ、それはこの際どうでもいい話なのだが。

 アルファードはミラが【剣術】のスキルを発現させた際に、スキルに関する書物を数冊集めたらしく、アルティアナの話を聞いて調べなおしたらしい。そこには、今シルビアが言ったようなことが書かれていた。だが、その対策は本には書かれていなかったという。


「アルティアナのスキルは発現したばかりで、コントロールが出来ない。つまり予知の対象が選べない。そこで、例えば親しい者の死を予知したとする。しかもそれをはっきりとした映像で見るんだ。当然ショックを受けるだろう。あるいは、自分が予知をしたせいでそういうことが起こったと錯覚してしまうかもしれない」

「でも、未来は変えられるってさっき……。その未来の死が避けられるなら、それはいいことなんじゃないですか?」


 俺は思ったことを言ってみる。しかし、シルビアは難しい表情で言葉を続ける。


「……あの子にはそう言ったが、未来はそう簡単には変わらない。……そうだね、例え話をしよう。フチ、アンタとトアが喧嘩をしたとする。トアがアンタをぶん殴る未来がある。それを変えるにはどうする? 謝ったぐらいじゃ変えられない未来さ」

「嫌な例えですね……うーん、逃げる?」

「そうだね。それで未来が変わるかもしれない。じゃあ次に、殴るくらいじゃなくて、アンタを殺そうとする。謝ってもダメ、逃げても追ってくる。どうする?」

「………拘束して、時間をかけて説得する、とかですかね」

「……その説得でトアの気が変われば未来は変わるね。だが、人を殺そうとするなんて生半な意志じゃない。要はその意志を折らなきゃならない。それが説得ぐらいで出来ると思うかい?」

「それは………」

「一つ、確実な方法がある。それはトアを先に殺すことさ。そうすればアンタがトアに殺される未来は変わる。逆に、それくらいの覚悟がないと変わらないってことだ」


 俺は言葉が出なかった。それはそうかもしれないが、あまりにもあんまりだろ。


「予知した未来に人の意志がかかわっているときは、その意志を超えなきゃならない。特に殺意や憎しみといった強い感情が絡む時、その未来を変えるのは難しいだろう。事故や病気なら避けられるかもしれない。ある程度の時期がわかるなら、その間外に出なかったり、体調に注意すればいい。だが、必ず揺り返しが来る。別の原因で同じような怪我をすると言われている」


 うーん、よくSFなんかで言う事象の収束ってやつかな。言ってることの意味はなんとなく分かるけど。


「……未来は変えられないってことですか?」

「そうじゃない。怪我をする未来も変えようと思えば変えられる。怪我をする前に死ねばいいのさ。そうしたら怪我をする未来は絶対に訪れない。つまり、それくらいの覚悟と意志が必要ってことだ。逆に言えば、強い意志と覚悟があれば未来は変わるってことだ。それに事後の対策は取れるかもしれない。怪我はするけど、すぐに治癒術が受けられるようにしておくとか、治癒薬を持ち歩く、とかだね。だから本当に悪いことばかりでもない」


 シルビアの言いたいことは理解した。でも怪我する前に死ぬって、それは未来自体が訪れてないな。


「もうわかっただろう? 占い程度の未来予知ならいいが、アルティアナの力は強すぎるのさ。そしてあの子はまだ幼い。きっと力の制御を覚える前に、心が壊れちまう」

「……なにか、方法はないのでしょうか?」


 アルファードは絞り出すように呟く。


「まず、親であるアンタがしっかりしな。不安を見せちゃいけない。そして、スキルを否定的に思わせないように。かといって極度の優越感や万能感を持たれてもマズい。少し役に立つ道具、くらいの感覚がいいんだ。他の家族と、古参のメイド、従士辺りにも、……いや、その辺の事はわかっているはずだね。アンタはミラを立派に育て上げてる」

「……ギルが、厳しく指導してくれましたから」


 その話は酒の席でギルバートから聞いたことがある。

 スキル保持者はその優れた能力から慢心しやすく、その慢心が隙を生み、逆にあっさりと死ぬことがあると。

 ギルバートはミラに剣術を指導する際に殊更厳しく指導したという。スキルがあっても勝てない相手がいることを教えるため。そして、その厳しい指導で剣の道を諦めるならそれはそれで構わない。ミラは貴族の娘だ。剣の道以外でも生きる道がある。

 だがミラは剣を捨てなかった。ギルバートは「そしたら、あんな風になってしまって」と肩をすくめて笑っていたが、その笑顔は少し嬉しそうだったのを覚えている。


「……あの子の前ではカッコつけたが、アタシが出来る事はあまりない。せいぜいが強い眠り薬を処方するくらいだが、……あの魔女ならスキルを制御する方法を知っているかもしれない」


 俺の少しそれた思考はシルビアの言葉で引き戻される。


「クァドラのミシア……〈四重の者〉ですね……」

「ああ、あの魔女はスキルの研究をしていたはずだ。アタシから頼んでも協力してくれるとは思うが……」


 シルビアはそこまで言うと、俺の方に視線を向けてくる。


「フチ、アンタが繋ぎを付けな。あの魔女は今アンタに負い目がある。アンタの頼みなら無碍にはしないだろう」

「はぁ、そりゃ構わないですけど……」


 確かにミシアならスキルの事に詳しそうだし俺の頼みなら断らないだろう。というか、予知系のスキルは珍しいって話だし、あのエルフはアルティアナとそのスキルに自分から興味を持って接してくるかもしれない。逆に実験台扱いしないように注意する必要があるな。


「フチ君、すまない、よろしく頼む」


 アルファードはそう言って深く頭を下げてくる。だが、今ミシアは帝都でイディナに付きまとってにいるはずだ。俺は了承の返事をしたものの、どうしたものかと思案する。まぁ、その辺も後で皆の意見を聞いてみよう。


「フチ、ついでにリジーも連れて行っておくれ。それから、ニサに連絡を付けてほしい」


 突然出てきた思いがけない名前に少し戸惑う。リジーはともかくとしても何故ここでニサの名前が出てくるのか。


「リジーもスキルが発現している。それも聞いたこともない珍しいものだ。もしかしたら〈エデ病〉とスキルの発現に、なにか関係があるのかもしれない」

 





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