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りたーにんぐ!  作者: 消しカス
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93 郷愁縁起編14 ケダモノの像

 応接室の中にはアルファード、トアとアルティアナ、そして俺の見間違いでなければドワーフの少女リジーが待っていた。

 俺は反射的に【思考加速】を使って考えたが、この状況を説明できるような予測にたどり着くことはできなかった。

 声を出すこともできず立ちすくんでいると、アルファードが頭を抱えながら呟くように言った。


「まさか本当に現れるとは………」


 先ほどもトアが「ホントに来た」的なことを呟いていたが、俺がここに現れることを予測していたのだろうか。

 当初は帝都を離れ東に向かい、小さな町か村にでも潜伏するつもりだった。だが、〈山猫〉を敵に回してしまったことにより、計画の変更を余儀なくされた。確かに俺のこの世界での人間関係は限られている。避難先として挙がるのは辺境の領主館だと思われても仕方のない部分だ。だからこそ選択肢から外されて然るべきなのだが、俺はあえてその選択をした。トアやハルと鉢合わせする可能性を考えていなかった訳ではないが、俺の行動が読まれていた、ということだろうか。

 しかし、この状況でそれらを考察することに意味はない。重要なのはこれからどうするか、だ。この場は従順に振舞って、タイミングを見て逃げ出すか? それとも……。

 

「イチロー」


 俺の思考を遮ったのは、トアの声だった。トアは椅子から立ち上がり俺の前に立った。


「イチローが言っていたことの意味がわかったです。ちょっと欲しいものがあって、ハルに頼んで辺境に来たですが、そのおかげで【精神感応】の影響から逃れることができたです。だから今のわたしはイチローの味方です。とりあえずは安心するです」 


 俺はトアのその言葉を理解するのにしばらく時間を要した。そして、理解が追いついたとき膝から崩れ落ちそうになる。なんとか平静を装うが心の中は安堵でいっぱいだ。

 この危険な小動物と理不尽なシスターとマップ兵器の様な竜を敵に回すことがどれほどの重圧だったか。


「トア、これを見てください」


 俺が何と返事を返していいか迷っていると、メイが一歩前に進み出る。メイドの仕事や頼み事の報告といった事務的な事以外でメイから話しかけるのは珍しい。なんだろうと思って様子を伺う。

 メイは少しだけ頭を下げ、俺が買ってあげた赤い髪留めを指さしている。


「マスターに頂きました」

「……か、可愛いです……」

「これも頂きました」

 

 今度はいつの間にか手に持っていた仮面を装着する。

  

「……か、カッコいいです……」


 メイはトアの反応に満足したのか、仮面を外すと一歩下がり元の位置に戻る。


「ぐぬぬ……今、すげードヤ顔してる気がするです」


 トアの言う通り、メイは今、すげードヤ顔をしている。表情はまったく変わっていないが俺にはわかる。

 トアは俺の方に向き直ると文句を言い始めた。


「むー、メイばっかりずるいです! イチロー! 今までどこで何していたです! ……だいたい、どうやってここまで来たですか!? それに、そいつは誰です!?」  

「待て待て、落ち着けって。その辺は説明するけど、先に挨拶ぐらいさせろ。というかコレどういう状況なんだよ」


「そうだな。久しぶりだねフチ君。……君も相変わらずのようだが、お互いに状況を整理しよう。まずはそちらの御人を紹介してもらえるかな」


 俺の言葉にアルファードが助け船を出してくれた。ユイが身を固くしたのがわかる。

 俺は軽くため息をついた後、ユイの頭に手を乗せた。


「コイツはユイ、今回の件でずいぶんと助けてもらいました。頼りになる相棒ですよ」

「……ラン」


 ユイは少し驚いた顔で俺の方を見る。俺の話を信じなかったユイも悪いが、この状況は心細かろう。武士の情けだ。

 

「ユイ、この人はこの辺境の領主代理、アルファード・ラステイン様だ。その隣がご息女のアルティアナ姫。そしてこっちが俺の仲間のゴブリンのトア。で、そっちが、ドワーフの氏族イ・オの族長の娘、リジー。……リジーはホントに久しぶりだな。元気だった?」


 俺の問いかけにリジーはニッコリと微笑んで頷いた。なんでこの場にリジーがいるのかはよくわからないが元気そうで何よりだ。

 その後皆で席に着き互いの状況の確認をすることになった。

 まず、俺が置かれている状況、つまり、【精神感応】の影響と武術大会から逃れるために帝都を脱出した、ということははある程度把握されているようなので後回しになった。トアは逃亡中の俺の様子を聞きたがっていたが、それよりも聞きたいことがいくつかある。

 俺は気になっている事は幾つかあるが、まず最初は俺がここに来ることがわかっていたような口ぶりの事だ。


「……君がここ数日の間にこの屋敷を訪れることは予想していた。というか、わかっていたことだ。……アルトがそう言ったからだ」


 アルファードは真剣な口調でそう言った。咄嗟に意味が分からなかったので、アルティアナの方に視線が行ってしまう。アルティアナは少し困ったような顔で微妙な笑みを浮かべていた。

 詳しい話を聞くとこういった内容だった。


 病が完治したアルティアナは、ある時予知夢の様なものを見るようになったらしい。最初は夕飯の内容がなんであるとか、誰彼が屋敷を訪ねてくるといった、些細な内容だったので気に留めなかったそうだ。

 ある日、メイドの一人が怪我をする夢を見た。転んで足を捻挫するというものだったが、その通りのことが実際に起こった。そこで、父であるアルファードに相談したらしい。アルファードは、夢の内容を記録するように言った。記録した夢の内容は全てが予知夢という訳でもなかったが、幾つかは寸分たがわず未来を言い当てるものだったそうだ。偶然として片づけることが出来ないぐらいに。

 そして、今日のここに俺が訪れる事も予知していたらしい。数日前に屋敷を訪れたリジーが俺と会いたがっていることを知り屋敷に引き留め、夢の通りにトアとハルが、そして俺がやってきた、ということらしい。

 ハルがここにいないのは、シルビアを連れてくるためにゴブリンの村に向かったからだそうだ。


 俺はまたもや言葉を失ってしまった。俺が今日ここに訪れたのは色々な要因が絡んでいる。〈山猫〉とのトラブル、ユイとの出会い、港町でのベックたちとの一件。そのどれか一つでも起きなかったらここにはいないだろう。

 運命、という言葉が頭をよぎる。これから起きることがすべて決まっているのだろうか。


「おそらくですが、アルティアナに【予知】のスキルが発現したです。ただ、ここにはスキルについて詳しいものがいないので、ハルがオババを呼び行ったです。本当はエリーかミシアも詳しいと思うですが、今帝都に戻ると、また【精神感応】に取り込まれる恐れがあるです」


 戸惑いが表情に出ていたのだろうか。トアが説明してくれた。

 それにしても、未来予知か。不穏な未来を回避できるようなら便利な能力かも知れないが、どうなんだろうか。まぁ、その辺も含めて相談するためにシルビアを呼びに行っているんだろうけど。


「オババはもうすぐ来ると思うです。ですから、この話はいったんおいといて、今度はイチローの話をするです。まず、その変な頭はどいうことです?」


 俺は帝都での屋敷の生活のさ中に、逃亡の為の準備を始めたところから話し出した。なんとなく沈んだ空気を和ませるために、努めて明るく話すように心がける。

 アルティアナやリジーは俺のちょっとした冒険譚を楽しそうに聞いていた。アルファードは〈山猫〉の名前が出たときに驚いた顔をしていたが、特に話を遮ることなく最後まで黙って聞いてくれた。


「船に乗ったですか! うらやましいです! なんでわたしを連れて行かなかったですか!」

「だって、トアは俺の話聞いてくれなかったじゃんか。まぁ、それは他のみんなもだけど。それに、トアは船はやめたほうがいいぞ。たぶん船酔いするよ?」

「う……それは、確かにそうですが……」

「まぁまぁ、お土産買ってきてるから、今渡そうか?」

「お土産! 見たいです!」


 アルファードに視線をやると、小さく頷いてくれたので、テーブルの上にお土産の品を広げていると、ハルとシルビアがやってきた。

 

「なんだい、騒々しいね。……フチ、アンタがなんでここにいるんだい? さてはまた厄介ごとかい?」

「あ、イチロー、ホントに来たんだね!……その、ごめんね、僕の母様のせいで……」


 シルビアの姿を見たアルファードは席を立ち、シルビアの前に進み出る、そして深く頭を下げた。


「すみませんシルビアさん、お忙しいところをわざわざご足労頂きまして。本当になんとお詫びを言えばいいのか……」

「頭を上げておくれ。ご領主様にも言ったことだが、アンタの様な立場の人間が、こんな見た目の亜人種に易々と頭を下げるのはあまりいいことではないよ。貴族の体面ってものがあるだろう」

「この屋敷の者はみな貴女に感謝しております。それに、私が真っ先に頭を下げずに誰が……」

「あー、わかったから、いいから頭をあげておくれよ。それで、何がどうなっているんだい? ハルから話は聞いているけど、いまいち要領を得なくてね」

「はい、それが……」


 アルファードはシルビアに丁寧な口調で説明を始めた。ユイは呆然とその姿を見ている。何度も言うが、事情を知らない者が見ると異様な光景だろう。代官と言えばこの辺境の最高権力者だ。それが子供のゴブリンに頭を下げている姿はなかなか衝撃的かもしれない。


「ふむ、事情はわかった。少し見てみようか。でも、その前に……なんだいこりゃぁ? 呪いの品物の品評会でもやってるのかい?」

 

 テーブルの上に並べられた品物をシルビアは呆れた表情で眺めている。


「そんな失敬な。お土産です。シルビアさんにもありますよ。これです。手首か足首に着けると虫よけの効果があるそうです。トアもこれね。色違い」


 半透明の石のような、樹脂のような質感の粒を数珠の様に皮ひもに通したものだ。色は赤とオレンジだが違う色の石が決まった間隔で混じっている。簡単に言うと雑貨屋で売ってるパワーストーンのブレスレットみたいなやつだ。


「イヒヒ、きれいです。ありがとうです」

「……ゾナの木の樹液を加工して作ってるようだね。こりゃ案外いいかもしれない……確かにあの木を燻せば虫よけの効果がある。森にも自生しているから、アタシも作ってみようか……」


 トアはともかく、シルビアは【鑑定】しているようだ。土産物をいきなり【鑑定】するなんて、それってどうなの? という気がしないでもないが、一応喜んでいるようなのでよしとするか。


「ハルにはこれ、着替え入れるバッグ」


 帆布で作ったちょっとおしゃれなリュックサックだ。大きさもそれほど大きくなく、実用性よりデザインを重視しているような気がする。一応女性向けという触れ込みだったが、腰の部分のベルトもついていて、実用にも耐えられるつくりだと思う。

 トアとおんなじでもいいかと思ったが、ハルが虫に刺されたりするのか、とか、姿を変えるときにいちいち外すのも面倒だろうな、と考えてこのバッグにした。

 アルティアナとリジーにはローザに渡したハンカチと同じものを渡した。少しだけ刺繍のデザインが違っている。幾つか余分に買っておいてよかった。


「アルファード様にはこちらでございます。ぜひ玄関ロビーに飾っていただきたい」


 テーブルの上で異様な雰囲気を放っているその物体こそがシルビアの呆れ顔の原因だ。俺はカッコいいと思うけどなぁ。


「…………あー、フチ君、こういうのは親父が好きだから、親父に渡してくれないか。私はこっちの酒だけでいいよ。今夜にでも頂こう。よかったら君も付き合ってくれ」 


「あ、はい。そうですか……」


 まぁ、そういうことなら仕方がない。俺は、その、頭が猫で体が鶏の銅像をそっと荷物に戻した。


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