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  作者: 東郷十三
31/46

31、告白

「どうも、大変お待たせしました。」

かの奥様とスタッフが料理を運んできたのは、15分ほど経ってからだった。

「こちらが皿そばセット。そばを3つに小分けしておりますので、それぞれの薬味をつけてお召し上がりください。で、そちらがおろしそばの大盛り。量は、きっとご満足いただけると思います。」

緋乃の右手に置かれた皿の中には、3つの小さなそばの山。目の前に置かれた盆には、付け汁・とろろ・おろしがそれぞれに入った3つの中鉢。長皿には山菜のおひたし、昆布としいたけと人参の煮付け、素焼きのいりこ、ほんのり甘く煮てある大きな白花豆がふた粒。小さな冷奴。それに海苔巻きおにぎりと沢庵の入った皿。

「うわっ。これじゃほんとにデザートが危ういわね。でも、平気! あなたは、大丈夫?」

「確かに、多いなぁ。しかし、平らげて見せるさ。」

緋乃のそばの皿と同じくらいの器に入ったたっぷりのそばに浅葱、貝割れ大根が載せてあり、その上に荒いかつ節が山盛りかけてある。別添えの小鉢の辛子大根おろしと、特製のつゆをかけて食べるようだ。

「見て、このそばの切り口。きれいな正方形になってる!」

硬茹でしているのであろう、切り口が見事に正方形にそろっている。さて、眼の前のそばにつゆとおろし大根をかけ、軽く混ぜたあと一箸つまんですすった。ツンとくる大根の辛さのおかげで、そばのほのかな甘みがきわだっている。

「このおろしは、おいしいよ。辛味が絶妙で、そばがとても甘く感じる。」

「とろろもいいわよ。あ、そっちにも冷奴が付いてるのね。」

とにかく2人とも食べることには目が無い。互いに分け合いながら、何とか完食した。

「ふ~っ。ちょっとだけ休憩ね、胃袋が落ち着くまで。」

「そうだな、こんなに腹一杯じゃ、まともに運転できそうに無い。」

「だから、大丈夫なのって聞いたのに。」

「いや、まさかこんな大量だとは思っても見なかった。それにしてもよく食べおおせたな。その小さな身体のどこに入るってんだ?」

「なんせ、あなたのドルチェまで取り上げて食べた私ですから、このくらい訳無いわ…って、自虐ね。」

「あれはすごかったなあ。シェフがサービスで大きく切ってくれたチーズケーキ、僕の分も合わせて四切れ食べて、ソルベが冷たかったからといって、パンのおかわりを無理やりもらったもんなぁ。」

「無理やりだなんて人聞きの悪いこと言わないの。あれは、シェフが私のために特別に追加してくれたのよ、焼き立てだからこれであったまりなさいって。」

「でも見事にそれをみんな平らげたもんなぁ。こっちは満腹すぎて、水も飲めないくらいだったのに。」

「鍛え方が違うのよ。食べれるときに食べとかなきゃ、万が一のときに困るでしょ?」

「その論理、間違ってない?」

「ぜーんぜん!」

そう言って視線を窓の外に移すと、とってつけたように鼻歌を歌った。

「で?」

「えっ?」

「“彼女”のことだよ。」

「あ、そうだった、その話。」



 一口お茶を飲み込むとふっとため息をつき、話を続けた。



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