終幕
かつて惑わせの森と呼ばれた森があった。
魔法石や魔法陣を使わずに言葉のみで魔法を扱うことができた“言葉の民”と呼ばれ、恐れられた者たちが住んだ森。
二度の炎の厄災「火の森戦役」に見舞われたこの森と言葉の民たちを救ったのは、彼らを恐れ忌み嫌っていた帝国の騎士だった。
彼の名はレオナルド=ダンダリオ。
首都ウィルト市から北西へ進んだ先に領地を持つ辺境伯だ。
そしてもう一人、辺境伯を支え善き道に導いた帝国一の博物館ガイドであった。
彼女の名はアルバ=ノービレ。
ダンダリオ辺境伯夫人であり、新設された国立歴史資料館の館長だ。
二人が治める領地は……えーーっと……
「そんな紹介必要ないでしょ!二人を客寄せに使うつもり?」
「いやいや必要だろ?ダンダリオ辺境伯領のシンボルなんだからさぁ」
「こらそこ、喧嘩してないで開館時間が迫っているんだから動いて動いて」
国立歴史資料館の新設にあたり、当面の間は首都ウィルトにある歴史博物館のスタッフ数人がヘルプに来てくれていた。
アルバの力になりたいと志願してきてくれた者が大半で、喧嘩しているのもそのうちの二人だ。
「イーサン、ジーン」
開館で慌ただしく動くメインロビーにアルバの声が響く。
今日の服装は博物館スタッフと同じ青を基調とした制服だ。
「アルバ!」 「アルバさん!」
「たくさん手伝ってもらってごめんなさい。無理してない?」
「…あのねぇ、それはこっちの台詞なのよ。アルバこそ無理してない?ちゃんと寝てる?」
「大丈夫だよジーン。寝ないと無理矢理寝かせてくる人がいるから」
「おーおーアツい惚気ごちそうさま。オレはそういうの聞きたくないんで〜」
「とか言って、本当は聞きたいくせに。知ってたアルバ?最近ウィルトで流行ってる演劇があるんだけどさ…」
「おわあぁぁ!それは今言わなくていいだろ!?な、ジーン!どれくらいお客さん来てるか見にいこうぜ!」
何か隠したいことでもあるのか、イーサンはジーンの背中を押しながら出入り口の方へ走っていってしまった。
余りにも唐突な行動に首を傾げていたアルバの肩をトントンと誰かが叩く。
「わ、ビックリした……あなたまで手伝いに来て、博物館の方は大丈夫なの?」
「ふふ。大丈夫、優秀な子たちばっかりだからねあっちも。“帽子のガイドさん”に憧れて学芸員になった子たちがたくさん入ってくれたんだ」
「グーフォが信頼できる子たちなら良いけど。博物館運営についてはまたいろいろ教えてね、先生?」
「その呼び方は久しぶりだね。ビシバシ鍛えてあげるから途中で根をあげないこと、いいね?」
「はぁい」
「うんうん……あ、そうだ。ウィルトの学舎に同胞の若い子たちが入学するんだって。レオナルドくんから聞いてる?」
「聞いた聞いた。レオ、すっごく頑張ってたからね」
「アルも負けてられないね?」
「もちろんよ」
アルバは制服の襟を整え、左胸に付けた皇帝ゲラルトより贈られたブローチをチェックする。
メインロビー奥に設置された大きな壁掛け時計が開館時刻を告げ、出入り口のガラス戸が大きく開かれた。
開館を心待ちにしていた行列の先頭に立っていたのは、水の魔法剣を腰に提げ普段着を少し着崩したレオナルドだった。
レオナルドの後ろにはニヤニヤと笑って見ているリッキー、メルダ、ウィル、ガーネットの姿がある。
そのまた後ろには大きく手を振るエミリーと微笑むリリー、少し離れた場所でヴィクトリアとアクィリオが様子を見守っている。
「……みなさまお揃いで…?」
驚いて第一声に困っているアルバへ、レオナルドは悪戯っぽく微笑んだ。
「この資料館で、一番特別なガイドを頼みたいんだが?」
まさかの申し出にアルバは満面の笑みで返す。
初めて博物館で出会った日のことを思い出しながら。
「ご指名いただきましたので、ガイドさせていただきます」
この話で一旦の終幕となります。
これからはスピンオフ的な感じで、アルバたちの物語を続けていこうと思っています。
今後とも、よろしくお願い致します。




