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14話 ルーラー邸にて

更新スピードが遅くなりますが、まだまだ続きます。

よろしくお願いします。

「で、これが授与式のスケジュールなんだけど」

 モルテナウスの執務室でスケジュールが書かれた紙を片手に、レオナルドは室内をぐるぐると歩き回っていた。

 大臣達に囲まれる中、着慣れない服で、慣れないマナーで何時間も拘束されるのはレオナルドも得意ではない。

 というより嫌いの部類だ。

 貴族社会を知らないアルバなら尚のこと。

 どこかを削ることはできないか考えなければ。

「言い忘れてたけど、そのスケジュールは内務大臣が好き勝手に考えたものだからもう少し短くして貰えるよ」

「……お前それを早く言えよ」

 呆れた顔でレオナルドがモルテナウスの向かいに置かれた椅子に腰掛けると、もう1枚何やら書かれた紙が差し出された。

「これは?」

「こっちが僕と陛下で詰めたスケジュール。さすがに格式張った式典は必要ないだろうって。内務大臣は凄く文句言ってたけど、他の各大臣たちもダラダラ長いだけの式典は体に堪えるって言ってたんだよね」

「大臣は年齢がな」

「隠居して次の人に任せればいいのにね」

「…おい、お前それ表で言うなよ」

「わかってるよ〜今日のレオは冗談が通じないなぁ。キミまで緊張してるのかい?」

「そうだろうな。今まで遠征の功績をこんなに早く認められるなんてなかったからな」

「それもそうだね。陛下もなんか焦っておられる感じで早くしちゃおう、みたいなね」

「あの陛下が?珍しいな」

 頷いてモルテナウスは立ち上がり、机上の紙とペンを持って戻ってくると何かを書き始めた。

 何事かと覗き込んだレオナルドは目を見開いた。


"誰が聞いているか分からないから筆談にする"

"陛下は言葉の民について知識を求めておいでだ"


「それって」

レオナルドの驚嘆にモルテナウスは頷いた。

「どこでお知りになったのかは分からないけど、今回の授与式を急ピッチで進められたのはこれが目的なんだと思う」

さて、とモルテナウスは紙を破りながら立ち上がる。

「レオとノービレさんの式典用の服、考えよっか」



 その頃客室に案内されたアルバとガーネットは、ただ黙ってソファに座っていた。

 アルバに関しては服の紐を緩めている。


──ルーラー選帝侯の瞳も、紐持ちと同じものだった……どうして帝国側に紐持ちがいるの?


 大きくため息を吐いて思考を巡らせた。

 自分とゲルフォルト以外に帝国へ逃げ込んだ同胞がいる可能性。

 逃げ込んだ同胞の誰が貴族社会に紛れ込んだ可能性。

 そもそも同胞は紛れ込んでいなくて、森が帝国人を見定め始めた可能性。


──どの可能性も捨てきれないけど証拠もない。でもそんなことよりも、あの異様な目は何?


 初めて会ったはずなのに全てを見透かしているような目だった。

 レオナルドの報告でアルバが"言葉の民"であることは知られているはずだが、それを越えた何か得体の知れないものを感じた。

 耳鳴りは止んだが腕の傷がジクジクと痛む。

「アルバさん、腕痛い?」

「ん?……ちょっと痛みますね」

「ならちょっと包帯巻直そっか」

 救急箱を片手にガーネットが隣に座る。

 既に巻いている包帯を一度外し、傷口に当てたガーゼの状態を見てガーネットは小首を傾げた。

「アルバさんさ、暴れたりしてないよね?」

「はい……今日は服が苦しすぎて暴れるなんてできないですし」

「だよね〜?じゃあなんでまた血が出てて熱持ってるの?」

 軽く動かす程度なら引き攣りはあるものの血も出なくなったはずの腕の傷がぶり返している。

 怪我の状況を把握してしまったため痛みもさらに増してしまった。

「いった……」

「あっごめん!薬塗って包帯巻くね!この薬はね、魔法騎士団の回復魔法の先生が作った治りが早くなる塗り薬なんだよ」

 丁寧に塗り込んで、あて布をして、包帯を巻いて、念の為と三角巾で固定される。

 相変わらずの手際の良さに感心していると、ドアをノックする音が聞こえた。

「失礼致します。旦那様とレオナルド様がいらっしゃいました」

「はい、どうぞ」

 侍従長のヴェルゴノートがドアを開け、モルテナウスとレオナルドが入ってきた。

 その後ろにメイドが3人、何やら大きな箱を持ってついてきている。

「体調はどうかな、ノービレさん」

「お陰様で、大分良くなりました。ご心配をお掛けしました」

「いやいや、僕もウィルト市からここに来るのは長旅になるってことをすっかり忘れてたからね。配慮が及ばず申し訳ない。それでなんだけど、ノービレさんのドレスコードを僕の方で用意させてもらおうと思ってね」

 モルテナウスがパンパンと手を叩くと、3人のメイドが箱の中身を取り出してトルソーに着せ付け始めた。

 1つ目は黒のタイトドレス。

 首元まで布はあるが、肩から肘までが肌見せになっており、少しセクシーな感じ。

 メイドの1人が薄い黒地のストールをトルソーの肩にかけていたが。

 2つ目は白と濃紺のグラデーションドレス。

 胸周りと腰に花の形のリボンがあしらわれ、スカート部分はふんわりとレースで膨らんだ形。

 袖は長く、裾に行くほど広がっている。

 鎖骨の辺りが開いているタイプで、これも少しセクシーな感じ。

 3つ目はほんのりベージュのthe貴族ドレス。

 赤やピンクの花、鮮やかな緑の葉や蔦が刺繍で縫われ、中央にはふわふわのレースがたっぷりとあしらわれたゴージャスの一言。

「さ、どれがいいかな?僕としてはどれもあなたに似合うと思うんだけどね」

 呆気にとられ何も言えないアルバに、モルテナウスはグイッと詰め寄った。

「お、お心遣い感謝致します、選帝侯様。しかしながらこのような豪華なドレスまでご用意いただかなくても」

「これくらいどうって事ないよ。とにかく一度全部着てみたらどうかな?ね、レオ」

「俺は……これがいいな」

 レオナルドが指さしたのは2つ目のドレスだった。

 それを見たガーネットが2つ目のドレスを着たトルソーを着替え用のウォークインクローゼットに運ばせてアルバを連れていく。

 途中で振り向いたガーネットが釘をさした。

「ないとは思いますけど、ぜっっったいに覗いちゃダメですからね!」

「心配すんなガーネット。そんな子供じみた事しない」

「どうだか。団長最近アルバさんのことになったら何するかわかんないんですからね」

 行きましょ!とガーネットはアルバの背中を押しながらクローゼットに消えていく。

 レオナルドは頭を抱えて項垂れた。

「レオも彼女のことが大切なんだね」

 頭上から降ってきたモルテナウスの声に顔を上げると、一瞬ではあったが真顔のモルテナウスと目が合った。

 その後すぐにっこりと笑ったが。

「モルト……いや、何でもない。たしかに俺にとっては彼女のことが大切な存在になってきてるからな」

「そうなんだ。僕もね、彼女は僕の、僕たちの世界を変えてくれる人だと思ってるんだ」

「僕たちの世界?どういう意味だ」

「そのままの意味だよ?彼女が遠征で見つけてくれたことが、この国を大きく変えてくれる」

 恍惚とした表情でアルバが着替えるドアを見つめる。

 その横顔にレオナルドは薄ら寒いものを感じ取る。

 幼なじみがどこか狂っていくような、そんな予感を抱きながらアルバが着替え終わるのを待った。


 しばらくして、着替えと化粧まで終えたアルバが歩きにくそうにドアの奥から出てきた。

 元々細身のアルバの体型に合ったシルエットで、綺麗に鎖骨のラインを際立たせている。

 ドレスのグラデーションと同じ色で目元まで隠れるレースのヘッドドレスも付けられていた。

「どう、でしょうか?」

「……うん、うんうん!いいよ!これならどこの貴族令嬢だって話題になっちゃうね!そう思わないかい?レオ…」

 ニコニコと笑うモルテナウスの横を何も言わず通り過ぎたレオナルドはまっすぐアルバに歩み寄った。

「どうでしょう、似合っていますか?」

「……うん、すごく綺麗だ」

 すっとアルバの右手を取って手の甲に口付けたレオナルドは穏やかに笑う。

 突然の行動にアルバの顔は真っ赤に茹だり、頭の上に湯気が見えるかのようだった。

「だから距離感!」

 後ろから出てきたガーネットはスパンッとレオナルドの肩口を叩き、アルバから引き剥がした。

「アルバさんが綺麗なのは分かるし、思わずエスコートしたくなっちゃうのも分かるけど!でもそのニヤニヤ、式典中はやめてくださいね」

「ガーネット、今お前がトドメ刺したからな」

「え」

 ガーネットの横でぷしゅーと音が聞こえてきそうなほど、耳まで真っ赤にしたアルバがプルプルと震えている。

「……あ、いえ、そういうの言われたこと……なくて……」

「それはそれでアタシ疑問なんだけど?え、綺麗だよ?美人さんだよ?なんで誰も何も言わないの?館長さんは過保護なの?」

「ガーネットさん、オーバーキルしてるからほどほどに……」

 んんっと大きな咳払いが客室に響く。

 心做しか、室温が下がったように感じる。

「歓談中申し訳ないけど、式典のスケジュールの確認をしちゃおっか」

 1人蚊帳の外だったモルテナウスが口を開いたが、その目は全く笑ってはいなかった。


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