8:火炎と氷結の反復
修正を重ねることが多いので申し訳ありません。話は変わりますが、X(@senyamirai)で更新をお知らせしますのでフォローお願いします!
俺はただひたすらに一人で戦い続ける男の元へ叫びながら向かっていく。その男は駆け寄ってくる俺には気づかず、複数のモンスターを慣れた手つきで圧倒している。
巨大なクモや虫、肉食獣のような猛獣、エイリアンのような見た目をした人型の化け物など様々な種類のモンスター達が跋扈している。
その光景こそ禍々しかったがそれ以上に俺は男の戦いぶりに夢中になっていた。
氷の刃が突き刺さったと思えばその刃が激しく燃える炎に変わっていった。また逆に炎が内側から氷結し、氷の塊と化していく。
男から放たれる、燃え盛る炎と突き刺さる氷の相反する存在が入り乱れる中でモンスターたちは塵となって次々消滅していく。
(あいつ……一人であんな化け物どもとやり合ってるのか………)
「俺も一緒に戦うから!協力させてくれ!!」
声が青年に届きそうな距離に近づいたタイミングで一匹のモンスターが天征に狙いを変え、彼の死角から襲い掛かろうとしている。
悪いことに天征は目の前の男しか見えておらず、狙われていることに気づかない。
気配を感じた天征がようやく振り向いた時にはモンスターの爪が今にも引き裂こうとしていた。目と鼻の先まで迫っており成す術がない。
(まずい、終わった!死ぬ!)
天征の目の前にモンスターが迫り切り、死を悟った瞬間、モンスターを氷の爪撃が貫いた。目の前には青年がいた。その片手は冷気を放ちながら水色に輝いている。
「…てめえ邪魔すんな!」
目が合うと男は助かったと感謝を述べる暇すら与えずそう言い放ち、次から次へとやってくるモンスターに再び立ち向かっていく。
その戦いぶりはかなり熟練しており唯花に匹敵するぐらいの覚醒者だろう。こいつは間違いなく強い。
その男の見た目は金髪のヤンキーだったが、毛先あたりが水色と赤のメッシュになっており、結晶の煌めきを微かに放っているから覚醒者であることが伺える。唯花の言った通りだ。
さらに彼女と違って狂気といった感情に支配されていたわけではなく、余裕と冷静さを失っていない。それどころか覚醒者として何かしらの目的を秘めているようにも見える。
しかし、迷いのない動きで炎と氷を操るその姿は正義のヒーローというよりは何かに取り憑かれた修羅のようだった。
そういえばあのモンスターたちはどこからやってきたんだ?海岸の怪獣のように出現してくる場所がありそうだ。そこを突き止めなければキリがない。
とにかくあいつの足を引っ張る真似はしないよう立ち回ろう。
キィーーーーーンン!!!!
(なんだ今の音!?空間が割れてる、だと……)
突然、何もない空中にガラスが割れたような巨大なヒビが走り、ヒビの入ったところが激しい振動を始めた。まるで空間が悲鳴を上げているようだ。
振動の勢いが弱まったところでモンスターの体の一部らしき物体がヒビを内側からこじ開けるように突き出ていき、邪悪な漆黒の光沢を纏っている怪物の集団が這いずり出してきた。
最初はホログラムのバグのように体は半透明で結晶の形をした微細な粒子を漂わせていたが、すぐに全身が実体化し明確な質量を持って交差点に次から次へと湧き出てくる。
「チッ、まだ出てきやがんのか!仕方ねえ、全部ぶっ潰してやる!」
しばらくの間、天征は呆然としていたが相変わらず一人で戦い続ける青年に触発され、反射的に拳を握りしめた。そして天征の因子が脈動を開始し、彼の体の周囲から白銀の光が立ち込み始めた。
俺は邪魔しに来たわけでも死にに来たわけでもねえ。この異変を止めるためにここに来たんだ。いつまでも一人ぼっちでいるんじゃねえぞ!
心の底で咆哮を上げた天征は白銀の光を再び纏い、因子の脈動に意識を研ぎ澄ました。
一方、青年は再びモンスター達に囲まれていた。最初の時よりも数が増えているせいでジリ貧になり、因子の力を次第に消耗しており苛立ちを隠せない。
「(くそが、何匹相手すりゃいんだ…)消え失せろ!」
青年は叫ぶと共に炎の波動を同心円状に放った。包囲していたモンスターの大多数は放たれた爆炎により消し飛んだ。周囲は激しく燃え上がっている。
「ほんとにどっから湧いてきてやがんだよ。向こうで大人しくしてろや!」
そう言ったのも束の間、青年の後方に倒し損ねたモンスターがまだ一頭残っていた。どうやら攻撃を避けたようだ。
しかし、これで全て倒しきったのだろうと油断しているのだろうか、男はその存在に気づいていない。
男の間合いに詰め寄った瞬間、目にも止まらぬ速さで駆け付けた天征が勢いに乗ったままモンスターを真横から貫いた。
天征の一撃を喰らったモンスターは轟音と共に爆散し、青年は間一髪で窮地を脱することができた。
「あ?」
すぐ後ろで鳴り響いた轟音に反応した男は振り向くと、白銀の光に包まれながら塵となって消滅していくモンスターの残骸と、ついさっきまではただ立ち尽くしていただけの少年がそこにいた。
「なんだてめえ?」
「…邪魔するつもりはない!俺も戦う!」
「……フン、好きにしろよ。燃えカスになっても知らねえぞ」
男は相変わらず冷たくあしらうが、少年のおかげで助かったこと、その少年の一撃が想定外の威力だったことに一瞬だけ驚き、目を見開いた。
「…また来やがったか」
「俺でもこいつらぐらい倒せる。協力しよう」
「足引っ張るんじゃねえぞ!」
「ああ、分かってるよ!」
天征の参戦を待っていたかのように空間のヒビが拡大し、モンスターの大群がなだれ込んでくる。
「おい銀髪、ここから本番みてえだな」
「髪色で呼ぶな金髪。俺は煤垣天征だ!」
「ああ?そういえば名前言ってなかったな。俺は古賀明だ。行くぞ!天征!」
こうして二人はどこか不器用な連携を取りつつ、モンスター達を圧倒していく。交差点は二人の覚醒者が輝きを散らす戦場と化していた。
明は火炎と氷結を同時に操り、広範囲に殲滅する。天征はその中を搔い潜りながら、モンスターが彼の攻撃を避けたところを狙って確実に仕留めていく。
前衛と後衛で見事に動きが分かれ、瞬く間にして交差点の異変は制圧できたようだ。
「フン、なかなかやるじゃねえか」
「思ったより早く終わったな。助かったよ明」
「……おい、あれ見ろ!まだヒビが消えてねえぞ!しかも場所が変わってやがる!」
「え、マジかよ…まだ終わらないのか!?」
気を抜くのはまだ早かったようだ。空間のヒビはなぜか近くのビルに移動していて先程よりも激しく振動し膨張している。
そして、ヒビの向こう側からそれまでのモンスター達とは一線を画す巨体を誇るモンスターが現れた。他のモンスターと比べて大きいだけではなく、放っている光の強さもかなり差がある。
何よりそいつの見た目が衝撃的だった。結晶の粒子が幾重にも組み合わさったような甲殻で全身が覆われていて、ロングトレーラー1台分ぐらい長い巨大なムカデの姿をしている。
ムカデはビルを伝いながら地上へ降り立った後に俺たちを認識すると、すぐにこちらへ向かって巨体に見合わぬ速さで突進してくる。
「おいおい、流石に殺意高すぎるだろこのムカデ!」
「いちいちツッコんでないでさっさと避けろ天征!死ぬぞ!!」
天征と明はそれぞれ左右に分かれ、ムカデの突進を間一髪で躱した。ムカデの足は穿孔機の如く走った跡に無数の穴を刻んでいる。轢かれたらひとたまりもないことを思い知らされた二人は思わず息を呑んだ。
ムカデが壁にぶつかったところを狙って明はすかさず火炎弾と氷刃を掃射して反撃を試みる。
しかし、その甲殻は氷の刃を雨粒のように容易く弾き、炎に焼かれても焦げたと思えば瞬時に再生してしまった。
「クソッ、殻が硬すぎる……!どうしろっていうんだよ!」
天征も攻撃を仕掛けようとするが、自身の攻撃は至近距離に特化しているせいで下手に近づくと餌食になりかねないので躊躇ってしまう。
「とりあえずこいつを避け続けるしかねえ!絶対突っ込むんじゃねえぞ!!」
「あ、ああ……」
「とにかく距離を取って引き離せ!」
そう言うと明は覚醒者としての力を活かし、周囲の建物を次々と飛び移っていく。 天征も明の意図を察したのか反対方向へ走っていきムカデの突進のタイミングを狂わせて時間稼ぎに奔走した。
するとムカデは追跡しようとしなかった。離れていく二人を視界に捉える以外には何もせず、タイミングを伺っているようだ。
次の瞬間、ムカデは口から毒液の弾をそれぞれ二人に向けて飛ばした。
「…危ねっ!」
「うわっ!何だこれ…!」
素早く動いたおかげで直撃はなんとか免れた。毒液が着弾した箇所は、ドロドロに溶けて腐臭を放っている。
(こいつ突進だけじゃなかったのかよ…!距離を取ってもあんまり意味がないな…)
「明!上ってくるぞ!」
「ふざけんじゃねえ!こっち来んな!!」
何を企んでいるのかムカデは再びビルを上っていく。そして二人の位置を把握するためか半身を伸ばしてしばらくすると無数の足による跳躍力を活かして上空から標的へ攻撃を仕掛けた。
狙われたのは明ではなく天征だった。ずっと地上を走り回っていたためムカデにとって明よりもずっと狙いやすかったのだろう。
巨体を活かして逃げ場を潰すように空中で円形になり、その影が天征を包囲した。そしてムカデのおぞましい顎が天征を今にも嚙み砕こうとしている。
(上から降ってきた!?しかもデカすぎてどう足掻いても避けられない!……イチかバチかだ、やってみるしかない…!)
「喰らえ!」
ドォォーーーンン!!!
眩い白銀の光を放ちながら渾身の力でムカデの頭を殴ると、ムカデは打ち返されて地面に転がった。天征の能力の影響か、甲殻のところどころがボロボロと剥がれていて再生能力が確実に低下している。
天征の賭けは見事に成功した。
(効いてるのか?俺の命脈権能が通らなかったムカデがあいつの一撃でひるんだだと?)
その光景を目の当たりにした明は天征の予想外の力に思わず驚いた。
「明!ボーっとしてないで降りて来い!!倒し方が分かった!やるなら今しかないぞ!」
「急になんだよ!まあいい、やってやろうじゃねえか!」
明も自分一人ではどうにもできない以上、天征を信じて動くしかない。そして天征は明を置いて思わぬ行動に出た。
ムカデが起き上がり反撃しようとした瞬間、白銀の光を纏いながら猛スピードで詰め寄り、思いっきり蹴り上げた。蹴ったところが眩く爆発し、ムカデは成す術なく宙を舞う。
「今だ明!ムカデの足を氷で封じて固定して!」
「ああ任せろ!」
天征はムカデが宙に舞うのを見るとすぐ明に作戦を伝えた。明は二つ返事で実行し、見事に形勢が逆転した。しばらくムカデは身動きが取れない。二人は千載一遇のチャンスを見事に掴み取った。
完璧な連携だ!明がムカデの足を氷の柱で縫い付けてくれたあと、俺は畳み掛けるように止めを刺しに行く。ムカデの後ろには空間上で相変わらず拡大しているヒビが控えている。
あのヒビを破壊しないとこの状況は終わらない。でも俺の能力ならもしかしたら破壊できるかもしれない…!
「うおおおおお!!」
天征は全速力で走り出して拳に力を集中させて飛びながらムカデに殴りかかった。死神を打ち倒してから力の制御に慣れてきたのか、意識を保っているまま高出力で一撃を与え続ける。
そのまま奥のヒビまで飛んでいき、その衝撃はムカデを貫通してヒビにまで到達した。
パリィィィィィン!!!
ムカデごとヒビを殴りつけた瞬間、何枚ものガラスが同時に割れたような轟音が交差点に響き渡った。
そして、異変の元凶だったヒビがムカデの肉体ごと木っ端微塵になって消滅した。
残骸が白銀の光に包まれながら塵となって漂う中、交差点には平穏が戻っていた。異変は二人の覚醒者の共闘によって幕を閉じた。
「はぁ、はぁ、やっと終わった……」
天征は前屈みになって膝に手をつきながら呼吸を整える。彼の能力は覚醒者の中でもかなり異質だった。
一部始終を見ていた明は、呆然と立ち尽くしていたが内心は驚愕していた。
(こいつの命脈権能、どう考えても異常だろ。やっぱりただの覚醒者じゃねえ。あのムカデを倒せたのはまだ分かるが、空間ごと叩き潰しやがった……因子に何か細工でもあるのか…?)
天征の能力は白銀の光を放つ爆破攻撃だけではなく、空間そのものへの干渉ができるようだ。
さっきまではただ驚愕していた明だったが、やがてある考えが彼に浮かんできた。
(空間の理をねじ伏せられる以上、天征の力は上手く使えばあいつを助けられるかもしれない……)
そうして明は軽く微笑むと天征の元へ歩み寄る。彼にとって天征の認識は、邪魔者から窮地を共に乗り越えた戦友へと変わっていた。
「お前、かなり強いじゃねえか…見直したぜ」
「…ありがとう。でも明が最初に助けてくれなきゃ俺はとっくに死んでたよ」
「ふっ、そうだな」
しばらくすると、サイレンの音が近づいてきた。警報アプリによる通報を受けた警察の他に機動隊が交差点に向かっている。研究機関の車両も確実にやってくるだろう。
「チッ、ここで来やがったか」
「戦った次が事情聴取なんてやりたくないよ俺は」
「当たり前だ。天征、走れるか?」
「うん」
「地下道から逃げるぞ。あそこは人通りが全くないから多分大丈夫だ。俺についてこい!」
二人は新たな脅威?から逃れるべく地下道に逃げ込み現場の交差点から去っていく。
「ふう、なんとか間に合ったな。とりあえず人がいなくて良かったぜ」
「明ってなんで戦ってたんだ?」
「別にいいだろ。他人に言うほどのもんじゃねえよ…」
「…そっか。てか、どこまで行くんだ?」
「そういえば全く考えてねえな。どうしようか」
「いい場所がある。ついてきて」
その場所はユタが待っているあの神社のことだ。いい場所とは言ったが、正直俺はそこしか思いつかなかった。
地下道を抜けたあと、俺は新しくできた友達を神社へと案内していった。
命脈権能・・・覚醒者が天界因子により授かる力。どんな力が使えるかは覚醒者個人によって独自に決まる。




