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【完結】いただきます ごちそうさま ――美味しいアプリの小さな奇跡【加筆修整版】  作者: 加藤伊織 「帝都六家の隠し姫」発売中


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ひとつだけじゃない笑顔

 翌日は6限まで講義があるのでアルバイトは入っていない。

 夕飯にとスーパーで買った大盛りの冷凍パスタをレンジで温めながら、悠はふと昨夜の寝しなに思った「何かが足りない」というキーワードを思い出した。


 レンジのみでできあがったナポリタンを皿に盛り、誰もいないが「いただきます」と手を合わせてから夕食を食べ始める。

 冷凍パスタはそれなりに美味しいが、夏生の作ったナポリタンには全く及ばない。――そう思ったとき、悠は衝動的に夏生にメッセージを送って、自分が試食している動画を1本送って欲しいと頼んでいた。


 間もなくナポリタンを食べ終わったタイミングで夏生から動画が送られてきたので、できるだけ客観的に動画を見るように心がけて再生する。



 カフェのような小さなテーブルを前にした悠の前に、かき揚げの皿が置かれている。


「カボチャ……と、なんか他にも入ってるのか?」


 黄色い千切りはカボチャだろうと目星を付け、箸でかき揚げを持ち上げた悠はいろんな方向から観察している。


「そうだよ、初物が出たばかりのとうもろこしをレンジで加熱した物をほぐしておいたんだ。あと、長ネギの青いところ。捨てられがちだけど、白い部分と違ってシャキシャキ感が強くて、加熱すると甘みが出る。ラーメンのトッピングによく載ってるけど、僕はかき揚げが好きかな」


 悠が尋ねると、夏生はいつも丁寧に答えてくれる。夏生が撮影しているので彼は声しか入っていないが、その声だけでも随分楽しそうに聞こえる。


「カボチャが甘い! ほくほく感よりサクサク感が強く感じるのは千切りだからか? とうもろこしも甘くてうまい。これは天つゆじゃなくて塩で食べる奴だ」

「千切りにすると揚げ足りない失敗を回避しやすくなるからね。とうもろこしは一度火が通ってるし、長ネギは生でも食べられるし火の通りも早い。カボチャの揚げ加減だけ気を付ければいから、かき揚げの中では簡単なんだ」


 一口だけ何も調味料を掛けずに食べた悠は、ピンク色の岩塩を削った塩を指でパラパラとかき揚げに振りかけた。そしてサクッと音を立てながら食べ、塩が正解だったのでいかにも満足げにしている。

 その顔も自分で見ていて赤面するほど嬉しそうで、「俺はどれだけ食べ物に弱いんだ」と思わず自問してしまう。


 このかき揚げのことは覚えている。確か関東が梅雨入りした頃のことだ。

 夏生が出してくれたとうもろこしの甘さに驚いたのが、鮮明に記憶に残っていた。


「こんなに甘いとうもろこし、食べたことがない」


 かき揚げの中でのとうもろこしの食感の違いも楽しい。サクサクとプチプチを楽しみながらも、ネギの香りが全体を甘くなりすぎないように引き締めていた。


「とうもろこしは朝収穫するんだけどね、取れたてを直売してくれる農家さんが何軒かあるんだよ。そこを朝一番で回って、即ここに来てレンジで加熱するんだ。それが消費者的には一番甘く食べられると思うよ。それで、冷めたらほぐしておいて、小分けしてジップパックで冷凍すればいつでも甘いとうもろこしが食べられる」

「朝一で……それは大変だな」

「でも季節限定だからね。美味しい方がいいだろう? 僕もどうせなら美味しいって言ってもらいたいから頑張れるよ」


 夏生の声は常に楽しげだった。そこで、悠は料理している夏生が不機嫌な様子を見せたことがないことに気づいた。


 クレインマジックのレシピは、確かに食べる者を笑顔にさせる。

 しかし、生まれる笑顔はそれだけではないのだ。

 初心者向けの料理を作りながらも、夏生はいつも笑顔だ。やり甲斐がないとか言ったりしたことはない。高い料理のスキルを持っているはずなのに、簡単な料理を「うん、美味しくできたよ!」と嬉しそうに悠の前に出してくれる。


「クレインマジックで生まれる笑顔は、食べる側だけじゃない。作る側も笑顔になる」


 口に出してみると、頭の中のモヤモヤしていた部分でカチリとピースが嵌まって、霧が晴れたように感じた。


「俺が前向きに提案をするなら、これだ」


 あることを心に決めて、悠は翌日のアルバイトに臨んだ。

お読みいただきありがとうございます!

面白い、続きが気になると思っていただけたら、ブクマ、評価・いいねを入れていただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします!


挿絵(By みてみん)

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