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【完結】いただきます ごちそうさま ――美味しいアプリの小さな奇跡【加筆修整版】  作者: 加藤伊織 「帝都六家の隠し姫」発売中


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解決策は

 桑鶴と高見沢と夏生にCMの件で会議をさせて欲しいと告げると、悠のCM起用については初耳だったらしい高見沢が驚いていた。

 とりあえず会議室に移動してから、桑鶴が高見沢に何故悠がCMに起用されたかについて説明する。

 一通りの事情を聞いた高見沢は、額に手を当てて難しい顔をしていた。


「それは……会社的には確かにいいですよ。予算も削れますし。でも芸能人じゃなくて一般人の悠さんにはリスクが高いのでは? 以前も素人をCMに起用してブレイクした例がありますけど、誰なんだって問い合わせが凄かったり、ストーカーまがいのファンが付いたりしたって聞いたことがありますよ。私はどちらかというと反対です」

「俺もそれが問題のひとつだと思う」


 意外にも理彩と普段は意見が合わない高見沢が、一昨日の理彩と同じようなことを言っている。むしろ世間的にはそちらの意見の方が一般的なのだろう。


「俺が他に懸念してるリスクはこれだ。その上で、これらに対して解決策を社長と高見沢さんが提示できたら、俺の動画を使ってもいいと思ってる。ただし、もうひとつだけ条件がある」


 悠の視線は桑鶴に並んだ夏生に向いていた。悠の強い視線を受けて、夏生は不思議そうに瞬きをしている。


「昨日四本さんから送って貰った動画も含めて何本か動画を見たが、時々試食中に四本さんの声が入ってるんだ。凄く楽しそうに料理のことを語ってて、俺はそれも含めてCMに取り入れたらいいと思ってる」

「なるほど、ハルキチだけじゃなくてナツキチもCMに出すことで、インパクトを増してリスクを分散するというやり方でもあるな」

「俺が美味しそうに試食してるのは、自分でも恥ずかしいが紛れもない事実だ。クレインマジックのレシピで作る料理は美味しいと視聴者に訴求する力があると思う。――――それと同時に、四本さんが料理を作ってるシーンを入れることで、アピールできるものがある」


 悠が話し始めたときには不思議そうな表情をしていた夏生だが、話が進むにつれて真剣な顔になってきた。高見沢は無言だが、自分の提案を桑鶴と夏生が検討し始めたことに悠は手応えを感じた。


「四本さんが料理を作ってる姿を、手元だけじゃなくて全身映す。あんたが料理してるところは凄く楽しそうだから、CMの中でそれも見せたらいいと思う。アプリで提供する動画では音声は切ってるが、簡単に作れて食べて美味しいだけじゃなく、楽しく作れるんだということを俺はクレインマジックのアピールポイントのひとつに含めるべきだと提案したい」


 一気に悠が言い切った案を、その場の人間全員が考え込み始めた。

 高見沢は悠のメモに目を落として顎に人差し指を当てて何やら考え込んでいるが、桑鶴は手を打って笑った。


「なるほど、ナツキチが作っているところか。確かに、いつも楽しそうに作っているしなあ。君らは顔も良いからきっと話題性も高い。うん、それは確かに悪くないな」

「ええ? 僕の姿を?」


 検討はしているがそんなブーメランが返ってくるとは予想していなかったのだろう、夏生が思い切り嫌そうな顔をしていた。


「ナツキチ、事情があるのはわかってるが、ハルキチを起用する以上は君が断れる筋合いじゃないんだぜ?」

「うーん……まあ、隠しきれることじゃないし、本来隠すようなことでもないしなあ。僕も自分のやってることに自信を持つべきなんだよね……」


 悠には意味のわからないことを呟きながら、夏生は考え込んでいる。ややあって、夏生は「うん」と頷くと悠を見返してきた。


「僕が作っているところを出すなら、君の食べてるところを出してもいいかい?」

「ああ、構わない。その前に、俺のメモにある件について解決策を提示できたらの話だが。

 個人的なことを置いておけば、クレインマジックにとってはそれが一番いいと思う。……さすがに俺は、割のいいバイト先に潰れられたくない」

「おっ、ハルキチ、いいことを言うじゃないか.アルバイトの君にまでそう思ってもらえて、社長としてはありがたい限りだ」

「そうですね……まず個人情報の流出に関してですが、晒し行為を行った場合は違法です。SNSなどで匿名で行った場合、情報開示請求の手続きを取った上で損害賠償を請求することができます。これはやる方もリスクが高い……というより、それだけのことが跳ね返ってくるのに気づかずに、面白半分で晒しをする人間はただの馬鹿としか言えませんね」


 高見沢は相変わらず語り口は穏やかだが毒舌だ。うっすらと笑っているので、「むしろ晒した相手を炎上させよう」とでも思っているのかもしれない。


「ところでハルキチ。君には流出して世間的に立場がまずくなるようなものはあるか? 名前や住所、大学名は覚悟するとして、例えば高校時代に彼女をとっかえひっかえしたとか」

「社長は俺がそんなことする人間に見えるのか?」


 桑鶴の言い様に思わず眉間に皺が寄った。クレジットカードや口座などの情報は漏れたら困るが、まずそれ以外には住所を知られるのが嫌だ。ストーカー化した人間が出た場合、住所を知られるのが一番怖い。


「個人的な考えでしかないが、まず住所は嫌だ。でも名前が知られたところでどうと言うことはない気がする。SNSを本名でやってる人間もいるんだし。……大学は、まあ平気なんじゃないのか。知られても、一般人が入ってくるのは大分勇気が要る場所だと思うし」

「確かにあの大学なら、叩くに叩けないな。理系の国内最高峰クラスだ。それで、住所を知られるのが嫌なのはやっぱりストーカーや悪戯被害対策か?」


 悠の通う大学を知っている桑鶴が苦笑し、続けた質問に悠は頷くことで肯定を示した。


「こういうのはどうだ。ハルキチとナツキチに対して、ストーカー的行為を働く人間が出た場合、もしくは個人情報が晒された場合、可及的速やかにセキュリティの厳しい物件を社員寮として提供する。家賃は現状と同じだけ払ってもらい、足りない分は会社で住宅補助として出す。

 これはもう不動産屋を当たって、今から目星付けておいてもいいくらいだ。どうだ?」

「セキュリティの厳しい物件への引っ越しか……悪くはないと思う」

「悪くないですよ。それに、悠さんと四本さんが余程誰かから恨みを買ったりしてるんじゃない限り、注目を集めてストーカーまがいが出るのなんて一時的です。バレない様に社員寮に引っ越しをしてしばらくすれば、そのうち興味は別に移ります。人の噂も七十五日と言うでしょう?」


 その場の全員が、高見沢の言葉に頷いた。

 たった1週間前に世間を賑わせたニュースでも、日々起こる様々な出来事の前では話題性を保つのは難しい。


 クレインマジックのCMはその「興味を惹ける間の短期決戦」であり、夏生や悠への被害の恐れはそれを過ぎれば潮は引くというのが一致した見解になった。


「それじゃ、構成は俺に任せてもらっていいか? 桑鶴祥吾一世一代の渾身のCMを作ろう!」


 桑鶴の力強い一言で、2度目の会議は終わった。


お読みいただきありがとうございます!

面白い、続きが気になると思っていただけたら、ブクマ、評価・いいねを入れていただけると大変嬉しいです。よろしくお願いします!


挿絵(By みてみん)

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