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第70話 タイムの功績

 アニカの貞操が守られたのは良かった。

 もしそんなことになっていたら、フレッドがなにをやらかすことか……

 イフリータも黙ってはいないだろう。

 そんなことになったら裏庭どころの話ではない。

 微精霊であの威力だ。

 上位精霊のイフリータの手に掛かったら……考えただけでも恐ろしい。

 ほっと一息である。


「続きまして……」


 みなが胸をなで下ろしていると、支部長が話を続けようとした。


「まだなにかあるのよ?」

「はい。妖精様のことで御座います」

「えっ?!」

「タイムちゃんなのよ?」


 思わずタイムを抱え込んでしまった。

 まさかと思うが、研究のために引き渡してほしいとか、何かしら協力を仰がれるのだろうか。

 精霊についてはオルバーディング家がいる。

 しかし妖精となると話は変わってくる。

 精霊ほど世に知られてはいない。

 研究者など居ないに等しい。

 しかし目の前に妖精が実在する。

 となれば、協会としてはなにかしらの研究をしたいと思っても不思議ではない。

 そんなことになれば、タイムが妖精ではないことなどすぐにバレる。

 それだけならいいが、ならなんなのだと更にタイムをいじくり回されるだろう。

 そんな事態になるのだけは絶対に避けたい。


「タイムは俺にとって大切な存在です。なにを言われても、譲るつもりはありません! 確かに妖精という存在は貴方たちには希少で研究価値のあるものかも知れませんが、奪おうというのなら相手になりますよ。こいつは俺のものだ。誰にも渡さないからな!」

「落ち着いてください。そのような不敬を働いたりしません」

「マスター、痛いよ」


 ふと我に返ると、立ち上がってタイムを抱き締めていた。


「あ、ごめん」

「う、ううん。大丈夫……だよ」


 力加減を間違えたのか、タイムが痛がるほど抱き締めてしまったようだ。

 強く締めすぎて血流が止まってしまったためか、うっ血して全体的に赤く火照っているように見える。


「本当に大丈夫か? 大分赤くなっているけど」

「ホントに、大丈夫だから」


 後ろからだとよく顔が見えない。

 ところが顔を見ようとすると、ふいっと避けられてしまう。


「その、無理するなよ。(スマ)……妖精界に戻って休んでいるか?」

「もう、いいからほっといてよ!」

「そ、そうか? ごめんな……」


 しまった。

 またなにかやり過ぎてしまったようだ。

 嫌われてなければいいけど。


「バカモナカ」

「え?!」

「いいな、タイムさんは……」

「な、なんだよアニカまで」

「その……とりあえず、お座りください。そういったお話では御座いませんので」

「あ……はい」


 椅子に座り、大きく深呼吸をして今度は優しく抱き締めた。

 それから頭を撫でてやったのだが、一切なんの反応も示してくれない。

 いつもならなんらかの反応をしてくれるというのに……

 本格的に不味いかも知れない。


「あの、話を続けても宜しいでしょうか」

「構わないのよ。この2人は放っておくのよ」

「エイル?!」

「それでのよ、話はなんなのよ?」

「この度のことで、妖精様になにかお礼を差し上げたいのですが、何分妖精様がなにを所望されるか分かりません」

「お礼なんて貰えないのよ。それこそ自作自演の最たる物じゃないのよ。うちらはそこまで恥知らずではないのよ」


 エイルの言うとおりだ。

 迷惑を掛けてしまったのに、逆にお礼を貰うなんてできようはずもない。

 それはあまりにも図々しいというものだ。


「そういうわけには参りません。守って頂いた対価を支払わなければ、協会として示しが付かないのです。もし今回のことで責任を感じておられるのでしたら、断らずに受け取って頂けないでしょうか」

「俺たちは目立ちたくないんだ。だからそういった褒賞のような物は困るんだよ。記録が残るんだろ?」

「なら記録抹消が報酬でいいのよ」

「それは無理でしょう。目撃者は大勢おりますし、虚偽報告をすることも不可能でしょう」

「報告するんですか?」

「試験が延期になった旨を本部に報告せねばなりません。それに修繕費を保険で賄うにはどうしても……」

「そう……ですか」


 ということは、タイムのことが知れ渡ってしまうということか。

 それは避けたかったのだが、無理そうだ。

 まあいずれは知られることになるだろうとは思っていたけれど、それは結界の外に行ってしまえばどうとでもなる……と甘く考えていたからだ。

 さすがに誤魔化しがきかないだろう。

 いずれはタイムが妖精でもなんでもないとバレる。

 とはいえ、あと半年の間にバッテリー問題を解決しなければ、全てが終わるけれどね。


「タイム、なにか無いのか?」

「タイムが……い言……っき……ターから、その、……ったから」

「ん? よく聞こえないぞ」

「だっ、だから! タイムは要らないから、マスターが貰ってよ!」

「俺が?! と言われても、支部長さんに用意できる物なら、自力でなんとかなると思うし……」

「あははは、これは手厳しい。そうですね、大した物は差し上げられないと思います」

「モナカ! そういうことを言うんじゃないのよ」

「そうは言ってもな。まさか探索許可証をくれ、とは言えないし……」

「済みません、さすがにそれは……」

「ですよね、あはは。じゃあ、エイルに任せる」

「……なに言ってるのよ?」

「エイルには俺もタイムもアニカもお世話になっているんだから、エイルが欲しいものをもらえば、それでいい」

「うちだって困るのよ。やったのはタイムちゃんなのよ」

「だったらあれだ。ほら、俺がダメにしたっていうあの鉱石と同じ物を貰えばいいんじゃないか。ある意味、タイムが……妖精様がここに顕現できたのはそれのお陰みたいなものだし」

「モナカ?! なに言ってるのよ」

「その話、詳しくお教え願えますか?」


 お父さんに貰ったという鉱石。

 俺がこの世界にやってきた為になくしてしまった。

 そのものではないが、同じ物を返せるのであれば、少しは心の重荷が取れるというもの。

 だから「別に全部を正直に話す必要はないだろ。同じ物じゃないけど、これで勘弁してくれ」と耳打ちした。


「別にそれはもういいのよ……」


 エイルは俺とタイムの顔を交互に見つめる。

 タイムは俯いたままなにも答えない。

 一応反対ではないようだ。


「分かったのよ。それでお願いするのよ」


 結局エイルが折れる形で話は纏まった。

 支部長の方も体裁が保たれると喜んでいた……のだが。

 何故かエイルは支部長を部屋の隅へ連れて行き、ヒソヒソと話をし始めた。

 すると支部長の顔がどんどん歪んでいくのが見えた。


「本当にいいのよ?」

「……今すぐには不可能ですが、近いうちになんとか。妖精様の功績を考えれば安いものです……きっと。なんとかなるかと」


 どうやらかなり希少な物らしい。

 そんな物を俺はダメにしていたのかと思うと、本当にすまない気持ちになってくる。

 それなのにエイルは〝弁償しろ〟などと、一度も言ったことはない。

 せいぜい〝調べさせるのよ〟と、身体中を隅から隅まで調べられた程度だ。

 ただ、まだまだ調べ足りないようで、毎日のように……いや、それはもういい。

 そんなことをされ続けている俺より、支部長の方が気の毒な感じになっている。

 本当に見合う物なのか?

 ま、気にしても仕方がない。

 褒賞が決まったことで、俺たちは漸く解放された。

 ただ、タイムがお茶もお茶菓子も全く手を付けなかったことが、支部長の精神に追い打ちを掛けることになってしまった。

次回は狩猟協会のお話です

主人公たちは出てきませんが、エイルの話がちょろっと出てきます

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