第23話 タイムという存在
エイルの本能がそうさせたのです。
「エイルさん、マスターのことありがとうございました」
「気にすることないのよ。モナカは大事な検体なのよ、気にするのは当たり前なのよ」
あ、そうですか……うう。
まあ、なんでも良いや。心配してくれることに変わりはないんだから。
「なあエイル、俺はどのくらい気を失ってたんだ?」
「1分も失ってなかったのよ」
「そっか……」
次からは安全を確保してから、アップグレードしないとヤバいな。
やらないだろうけど、敵陣真っ只中とか自殺行為だ。
「それよりタイム、分身? したのはなんだ?」
「えっとね、CPUのロンリープロセッサ数がぴぃ!」
なんだって?
「うう、えと、論理? プロセッサ数が増えたから、その分、分けられるようになったんだって」
ああ、ロンリーじゃなくて論理か。
「スペックはどう変わったんだ?」
「うんと、……ステータス」
CPU:ZX48k(1.2GHz/1core 2thread)
GPU:MC90a(25GFLOPS)
RAM:3GB(GPUと共有)
ROM:8GB
ふむ、なるほど。
論理プロセッサ数は2個か。
あれ? 2個なのに4人になれるの?
「んと、論理プロセッサ数以上に分かれることも可能だけど、そうなるとアホになるって言ってる」
「なんだ、いつもと変わらないじゃないか」
「そっか……ん? それってどういう意味?」
「いや、その……気にしたら負けだ」
タイムは釈然としない感じで睨んでくる。
う、ちょっと視線を合わせづらいな。
「あ、それからエイルさん、手のひらを見せてください」
「ん、こうなのよ?」
タイムはポフッと小さくなると、エイルの手のひらに乗ってみせた。
「ちゃんと重みがあるのよ」
ん? 触れないんじゃなかったっけ。
エイルが恐る恐るタイムの頭に手を乗せる。
今度は手が頭にめり込んだりせず、きちんと触れているようだ。
「柔らかくてサラサラなのよ」
「えへへ、タイム自慢の髪なんだよ」
「俺以外も触れるようになったのか」
「今はこのサイズ以下なら、余った演算処理でできるって言ってるよ」
おお、アップグレードした甲斐があるというものだ。
エイルは触れるのが嬉しいのか、あちこち触りまくっている。
持ち上げたり、回してみたり、魔法陣の上に乗せた……り?
「あの、エイルさん?」
「動かないのよ!」
「はひぃ!」
直立不動になるタイム。蛇に睨まれた蛙かな。
なんかエイルの目つきが変わったんですけど。
一心不乱にノートPCを操っている。
タイムのことを根ほり葉ほり調べようということか。
「あの、エイ――」
「邪魔なのよ!」
取り付く島もありゃしない。
タイムは完全にまな板の上の鯉だ。
解剖されないだけましなのか?
「どういうことなのよ!」
盛大に作業台を叩いて、憤慨している。
なにがあったというんだ?
「エイル?」
エイルはタイムに駆け寄ると、両手で掴んで高く掲げた。
「ちゃんと触れるのよ。重さも感じるのよ。温かいのよ。なんなのよ!」
タイムをぎゅっと抱きしめると、座り込んでしまった。
「なあ、どうしたんだよ」
エイルの肩が微かに震えていた。
もしかして泣いているのか?
「タイムちゃんが、どのセンサーにも反応しないのよ」
「前回もそんなこと言ってたな」
「ちゃんと触れるのよ。重さも感じるのよ。温かさだって感じるのよ。なのに世界から存在を否定されてるのよ」
機械からは認識されないってことか。
「仕方ないですよ。だってタイムは……ただの〝映像〟ですから」
「映像なのよ、なんで触れるのよ」
「それは……なんでかな? あはは」
しまらないなあ。
ま、この後いつもの解説が入るんだろ。
「いいじゃないですか。機械に否定されたって、タイムは悲しくありません。だって、マスターにもエイルさんにもトレイシーさんにも、ちゃんと見て聞いてお話しすることができるんですから。お猿さんと違います。それに、これからは触れ合うことだってできます」
そうだな。……あれ、解説なしか。
まあ、タイムがここにいることは、俺たちがちゃんと分かっている。
これ以上なにが必要だろうか。いや、ない。
「それじゃダメなのよ!」
エイルがまだ食い下がってくる。
なにがダメだっていうんだ?
「こんな面白い検体、」
……ん?
「調べられないのよ、世界の損失なのよ!」
「エイル?」
「モナカ! なんとかするのよ!」
こいつ、俺たちを調べることしか頭にないのか?!
「なんとかって?」
「タイムちゃん!」
「は、はい!」
「もうこうなったら、原始的な方法しかないのよ」
原始的な方法?
エイルがタイムの上着の裾を掴むと、おもむろに上に引っ張り上げた。
「うきゃあー!」
タイムが逃げようとするも、服で手を押さえられていて動けない。
「な、なにしてんの!?」
「機械に頼れないのよ、直接調べるだけなのよ」
しまった。こいつはそういう奴だった。
俺のことも、最初ベタベタと体を触りまくってたっけ。
その対象がタイムに変わったということか。
「凄いのよ。映像なのよ、服を脱がせられるのよ!」
そんなところに関心をするな!
「むきゃー! もが、ふぎゅうー!」
タイムがなにか喚いているが、なにを言っているのかさっぱりだ。
だが、暴れまくってエイルの手から逃げようとしているのだけは分かる。
愛くるしいお腹が右に左に踊りまくって、なんとも微笑ましい。
「はぁー、はぁー、可愛いブラなのよ」
完全に鼻息が荒い危ない奴になってやがる。
タガが外れると、見境がないな。
「でも邪魔なのよ。取れるのよ?」
エイルがタイムのブラに手をかける。
「まて! それはさすがにやり過ぎだろっ」
「モナカは黙ってるのよ。それにモナカだってこの下のよ、知りたいのよ?」
「いやいやいや、スカートが先だろ!」
まったく、順番ってものを考えて脱が……ん゛ん゛っ。
うら若き乙女の柔肌を、そんな簡単に晒させてたまるかっ。
「ふがっ、まふがっのあが!」
次の瞬間、タイムは二手に分かれて逃走した。
「「もう、マスター! なんで見てるだけで助けてくれないんですか?!」」
逃げ回りながら、乱れた服を直している。
「うえ?!」
「「そんなに、タイムの、見たいんですか?」」
頬を染めてなにを言ってるんだこいつは。
まあ、見たくないと言えば嘘になるが、エイルと比べたら……
「「マスター、なんでそこでエイルさんを見るんですか」」
「あ、いや、その……」
「「マスターのバカ!」」
そういうと、タイムは煙と共に消えてしまった。
「ああっタイムちゃん、どこなのよ! もっとうちに調べさせるのよー!」
残念ながら、ブラは死守されました。
次回は機嫌を損ねたタイムのご機嫌取りです。
まぁ、タイムもチョロインなので簡単ですけど。






