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第22話 でっかくなっちゃった

脳みそ2つしか無いのに、それ以上に分裂するとこうなります

 目が覚めると、ぼうっとした視界に血の気が引いて青ざめた顔があった。


「モナカ、大丈夫なのよ?」


 椅子に座っていたはずが、何故か床で横になっていた。

 頭が少しズキズキする。触ってみると、少し膨らんでいた。タンコブができてるのか?


「モナカ?」


 エイルの声が聞こえる。

 目の前の顔はエイルなのか。

 右側の視界がはっきりしているから、左目を瞑って右目だけでみることにした。

 エイルの顔がはっきりと見える。左目が機能していないようだ。


「ああ、エイル(エイウ)。俺(おえ)、どうしたんだ(ろうひたんら)?」


 口がうまく回らない。言葉が滑る。


「どうしたもこうしたもないのよ。突然倒れたのよ」

「倒れた(あおえあ)?」


 だからタンコブができたのか。


「無理に話さなくていいのよ」


 立ち上がって椅子に座ろうとしたが、身体がうまく動かない。

 まったく動かないわけではないが。うまく力が入らない。


「無理しないのよ。おとなしくしてるのよ」


 エイルが俺の頭を持ち上げて、自分の膝の上に乗せてくれた。


「やっぱり、こっちの食べ物が体に合わなかったのよ?」


 そんなこと無いと首を横に動かした。

 そういえば、タイムは何処に行ったんだ?

 そう考えたら、目の前にウインドウが現れた。


[現在〝タイム〟は起動していません]

[RATSを起動しますか?]


 またシステムダウンしているのか。

 それが原因で身体が動かなくなったとか?

 でも前回はそんなことなかったし。

 とりあえずタイムを起動させよう。

 しかし、[起動]しようにも、腕が上がらない。

 すると、エイルが腕を支えてくれた。


「ありがとう(ありあろう)」


 お陰で肘から先を動かすだけで[起動]させることができた。

 起動シークエンスメッセージが、ウインドウに流れる。

 暫くするとウインドウが消えた。

 タイムがぱっと現れると。


「後はマスターが確定すれば終わりだ……あれ?」


 キョロキョロとあたりを見回している。


「なんでエイルさんの膝枕で寝ているんですか?」

『なんでって、倒れたから?』

「倒れた? ……エラーログ……って何? ……え?! ごめんなさいマスター! ハードウェアのアップグレードには気を付けろって言ってます。システムとかいうのが矯正再起動するとかなんとか……え? 強制?」


 そういう大事なことはちゃんと言ってくれないと困るんだよね。


『それは分かったけど、身体がうまく動かないんだ』

「え? ……あ、ごめんなさい。ちょっと修正しますね」


 タイムが俺の頭に手を当て、またなにやら調べを奏で始めた。

 今回の調べは10秒もかからず終わった。


「マスター、もう大丈夫だよ」


 手を上げて握ったり開いたりしてみる。うん、大丈夫だな。左目の視界も良好だ。

 頭の後ろの感覚が名残惜しいが、上体を起こしてみる。


「大丈夫なのよ?」


 エイルが心配そうに声をかけてくる。


「ああ、多分大丈夫だと思う」


 立ち上がって体に異常がないか少し動かしてみたが、特に問題はなかった。


「すみません、心配をおかけしました。マスターのこと、ありがとうございます」


 タイムがエイルに話しかけても、エイルはなんの反応も示さなかった。

 エイルが無視するような子じゃないから、おそらくまた幻燈機《ポップアップディスプレイ》が落ちているのだろう。


「タイム、幻燈機《ポップアップディスプレイ》が起動してないぞ」

「そうなの? ……そこの設定も変えておけばいいの? じゃあ変えとく」


 言うと、先程よりさらに短く調べを奏でた。

 ……ん? 気のせいだろうか。

 いや、気のせいじゃないな。

 確実に成長してやがる。


「なあタイム」

「なに?」

「お前、大きくなってないか?」


 そう、何故かタイムが大きくなっていた。

 今までは3頭身だったが、今は4頭身くらいある。

 それに合わせて身長も倍以上に伸びていた。

 こころなしか、声のトーンもビミョーに低くなったような気がするぞ。


「にゃ?!」


 一瞬めっちゃいい笑顔になって尻尾を立てて下を向いて胸を抱えたが、次の瞬間にはダラリを尻尾を下げ、耳もペタンとしていた。


「……変わっていないと思うけど」

「はぁ……あんたはまたそういうことを言うのよ」


 ? なにをだ? まいっか。


「気づいていないのか? ほら、脛(すね)ぐらいまでしかなかったのに、膝の上くらいにまでなっているだろ」

「ふえ? ……わわ、本当だ! 朝マスターがいっぱい食べたから、身長が伸びたのかな」


 そういうことなのか?


「え? 違うの?」


 違うんかい!


「えっと……GPUがアップグレードしたから、幻燈機《ポップアップディスプレイ》の機能が拡張された……だって」

「そうなのか? ということは、このままアップグレードを続けていったら、2mとか3mとかになるってことか?」

「え、やだそこまで大きくなりたくない」


 俺も見たくない。

 そうなると、完全にタイムが本体になってしまうからな。

 あくまで本体は俺だ。


「おお! そんな事もできるの?」


 なんか1人で盛り上がってやがる。


「なにができるって?」

「んとね、小さくなら自由になれるって」

「サイズ変更自由なのか。試しにやってみ」

「分かった!」


 と言ったきり、固まってしまった。


「……で、どうやるの?」


 お決まりのパターンだ。

 こういうところがポンコツのままなんだよな。

 多少は頼りになるようになったかと思ったけど、根本は変わらないか。

 その方がタイムらしくていい。


「分かったー! じゃあ、いっくよー」


 そう言うと、ぐんぐん縮んでいって、以前の大きさに……を通り越してさらに小さくなった。

 おいおい、どこまで小さくなるんだよ。

 最終的にはこぶし大にまで小さくなった。


「マスター、どうですか?」


 なにこの2頭身のちっちゃい子。しかもめっちゃ声が高くなってる。


「か、可愛いじゃねぇか」

「え、そ、そう? えへへ」


 一家に1台……いや1人欲しいくらいだ。

 と言うか、ちっちゃくなると頭身が下がるということは……最終的に1頭身になる?


「あっはははははは!」


 想像したら笑いがこみ上げてしまった。

 スライムとか、ピンクの悪魔っぽいああいう感じのタイムを。


「わ、笑わなくてもいいじゃない! タイムだって可愛いって言われれば嬉しいんですっ」

「あははは、ごめんごめん。そうじゃないんだ。あははは」


 ヤバい、ツボに嵌(は)まってしまった。

 仕方ないよな。だって1頭身のタイムだぜ。

 しかも予想通りなら、更に高い声で喋るんだ。

 もう、お腹痛い。


「ぷぅ~、そんなに笑いたいなら、タイムが笑わせてやるー」


 そう言ってタイムが脇の下を、足の裏を、お腹を、同時にくすぐりだした。

 ……3カ所? あのサイズで? どうやって??


「やっやめ……それは卑怯だろっ。あは、あははははは、やめっ……くふふ、お願いだかっうひぃ!」

「ふっふっふっ。タイムを笑うからこうなるのだ」


 目の前に2頭身のタイムが浮いて、俺を見下ろしていた。

 なのにくすぐりがやまない。


「タイムちゃんが4人いるのよ」


 なにそれ、どゆこと?!

 タイムが4人、クッ……てど、あは、ゆこ……


「だあー! いいかげんにしろ!」


 手で身体に取り付いている3人のタイムを引き剥がした。


「にゃー離すにゃー!」

「うきゃ! 何処触ってるのよ!」

「がうがう! うー」


 肩で息をしながら、捕まえたタイムを睨みつける。


「ふっふっふっ、どう料理してやろうか……」


 しかし、4人目の存在をすっかり失念していた。


「離せー!」


 テイッと額を蹴られてしまった。

 不意の攻撃に踏ん張りが効かず、仰け反った隙に3人を奪取されてしまった。

 こいつ、マスターの額を蹴るとか、躾がなってないな。主(あるじ)の顔を見てみたいぞ。

 ズラッと4人が横並びになり、こちらの様子を伺っている。

 1人は毛を逆立て、1人は武闘家のように構え、1人はウーと唸っている。

 そして1人が両腕を組んだまま、すうっと浮いてきた。


「ふはははははは、我らタイム四天王に勝てると思っ――」


 浮いてきたタイムを素早くガシッと捕まえる。

 なんだ、結構簡単じゃないか。


「は、離せ!」

「他愛ないな」

「ふっ、其奴(そやつ)は四天王の中(にゃか)でも最弱(さいにゃく)」


 なんかヌッコが言い出した。


「とはいえ、助けてやらんでもない。我らの結束は諸行無常よ」


 良いこと言ってるようで、最悪なこと言ってるぞ。

 ※諸行無常:永遠はないよ


「我(ワンれ)ら三獣士の猛攻に耐えられるかワン?」


 ん? 三獣(・)士? ヌッコとイッヌと……なに?

 三獣士を名乗るタイムが、足をバリバリ・ぽかすか・ガジガジしてくるが、効くはずもない。

 足で軽くあしらってやると、ゴロゴロと壁際まで転がっていった。


「三バカー!!」

「フッ他愛ない。後は貴様だけだぞ、最弱!」

「くっ、殺せ!」

「ふっはっはっはっはっはっ、あーっはっはっはっはっはっ」

「なにをやってるのよ」


 冷めた眼でエイルが見つめてくる。

 はっ。俺はなにをやっていたんだ?

 そうだ、タイムが4人に増えたんだっけ。


「なんでタイムは4人いるんだ?」

「うちが聞きたいのよ」


 そりゃそうか。


「おいタイム、説明……を?」


 こいつら、まだ入り込んだままになってやがる。

 仕方がないな。


「貴様には価値がある。まだ殺さないでいてやるから、情報を提供しろ」

「なんだと? タイムにマスターを裏切れっていうの?」


 いやだから俺がマスターなんだけど……


「おとなしく言うことを聞けば、お前の主人には手を出さないでやると約束しよう」

「……本当だな」

「信じる信じないは好きにしろ」

「……」


 いや、そこで考え込むんかよ。

 もうどうしろっていうんだ。

 ふぅ、とりあえず解放してやるか。

 床に置いてやると、転がっていた3人が駆け寄ってきて合体し、大きな1人に戻った。


「あ、マスター! 無事だったんだね」


 それ、まだやるの?

ご声援ありがとう御座いました。

タイム四天王先生の次回ご活躍にご期待ください。

最強と書いて最弱とは読ませません。


次回はタイムという存在について、掘り下げるんだか下がってないんだかな話になります。

誰か、エイルを止めてくれ。

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