第21話 運命共同体
現実ではまずあり得ないことやらせました
『最後に、タイムにとっても、マスターにとっても、とっても大事なことをお話しします』
『ん? エイルに聞かれたくない話なのか?』
『そうですね。タイムはまだ話したくありません』
いつになく真剣な表情のタイム。
その上エイルには聞かれたくないという。
一体なんの話だ?
『携帯の電池が切れたことについて、お話ししなければならないことができました』
そのことについてはもう話が終わってたんじゃなかったの?
『その……マスターの電池のことです』
『俺の……電池?』
なにを言ってるんだ?
『はい。マスターは携帯と融合したことによって、マスターは電池で動くようになりました』
こいつ、真顔でなに言ってんだ?
『あはは、なにそのギャグ設定』
『ギャグじゃありません。真面目な話です。茶化さないでください』
『あ、はい。ごめんなさい』
ギャグでないとしたら、一体なんだというんだ?
『タイムもよく分かっていませんが』
分かっていないのかよっ。
『マスターの電池が切れたら、活動が停止してしまうそうです』
『その前に、俺の電池って、なに?』
『それが分かっていたら、タイムも苦労しません』
おいおい。真顔で言うな。
『携帯はマスターから電源をとって、電池に充電しています。3m以内なら、電源が繋がっていられるそうです』
『えっと……俺がモバイルバッテリーで、そこから電源をとって携帯が充電されているってこと?』
『あまり難しいことを言わないでください。タイムに分かるわけ――にょ? その認識であっているそうです』
あ、なんかいつものタイムっぽい。
でも俺の電池については解説無いんだ。なんでかな。
『マスターの充電は、基本的に呼吸や食事でできるそうです』
『あー、それが大食いの原因なのか』
『いえ、単にエネルギー効率が悪いからと言っています』
『そうですか……』
エイルが言ってたことって、こういうことなのか。
効率が悪くても、食べ繋げることを喜ばないと。
0は何万倍しても0だけど、そうでないならなんとかなる。
『ここからが本題です』
あれ、まだ本題じゃなかったんだ。
前提条件? なのかな。
『アプリを使うと消費電力が上がります』
あーそうね。いたずらにアプリを入れまくると、バッテリー切れるの早くなるよね。
不要なアプリはアンインストール、基本だ。
『最初のうちは大丈夫なのですが、アプリの消費電力が上がっていくと、充電が間に合わなくなります』
『それってつまり……バッテリー切れになるってことか?』
『……だそうです。問題なのは、携帯と違って切れたら充電ができなくなるとのことです』
『……予想はつくけど、つまり?』
『マスターとタイムは死にます』
『タイムも?!』
『当たり前です。タイムはマスターを依り代にして生きているんです。マスターが死んだらタイムも生きてはいられません』
一蓮托生ってことか。
せめてタイムだけでも助かってくれれば……ま、それも悪くない。
『いたずらにアプリを入れまくったり、使いまくったりすると、寿命が縮まるそうです。なので気をつけてください』
『分かった』
『それから、筋肉量が増えても消費電力が増えるって言ってたよ』
『えっ? つまり戦力アップすればするほど寿命が削れる的な?』
『うにゅ? ……? 寿命じゃなくて電池……?』
おい、頭に〝?〟を浮かべるな。
あ、またなにかと話し込んでやがる。
そんなに難しいこと言ったか?
『んー……と。もうそれでいいって言ってるよ』
あ、タイム相手に説明を放棄したんだな。せめて俺には説明をしてくれよ。
『筋力量は増やし過ぎない方がいいってことなのか?』
『筋力が付けば、アプリの消費電力が軽減される……事もあるって』
なんだかなー。
一長一短か。
『強力なアプリを使うと、一気に充電を持っていかれるから注意しろ、だって』
なるほど。大技を使うにはそれなりの電力が必要ってことか。
『それに、食事以外の充電方法を確保できれば問題ないって』
『具体的には?』
『さあ? ……って〝さあ?〟じゃないでしょ!』
役に立つんだか立たないんだか、よく分からん。
でもあれだよな。
要するに充電量がSPで、消費電力が消費SPって感じか。
呼吸が自然回復で、食事がSPポーションかな。
そうやって考えると、わかりやすい。
問題なのは、SPが0になると死ぬってことだ。
食事以外の充電方法……うーん。どうやって確保しよう。そもそもどうやって充電するんだろう。
エイルが魔力を流そうとして弾かれたから、やっぱり魔力と電力は別物と考えていい。
となると……あれ? この世界って魔力と魔素しかないんだから、方法なくない?
エイルも「電気なんて無いのよ」って言ってたし。
詰んでる?!
長生きしたければ……エイルに養ってもらうしかない、と。
『それで、タイムのことなんだけど……』
タイムが下を向いて、なにか言いづらそうにしている。
この期に及んでなにを言いよどむ必要があるのか。
『タイムが……その』
言う勇気がもてないのか、続きが出てこない。
仕方ないな。頭を撫でて緊張を解してやるか。
『いいから言ってみろ。今更拒むとかしないよ。気楽に、な』
『うう……はい』
意を決したのか、俺をじっと見つめてきた。
さて、なにが飛び出すやら。
『その、タイムがこうやって外に出ていると、それなりに電力を使います』
なるほどね。
半ば予想はしてたけど、今更だな。
『だからタイムは、携帯の中に引きこもった方が――』
『バカ言うな!』
『にゃあ!』
なにを言い出すかと思えば、こいつは……
『あのな、携帯の中にタイムを閉じこめてまで長生きしようとは思わねえよ!』
『でも――』
『デモもクラシーもねえ! ここは絶対王政なんだよ。だいたい、携帯の中からじゃアプリの使用タイミングなんて分からないだろ』
『タイムの視界は、マスターの左目とリンクさせられるから大丈夫』
俺の見ている光景が共有できるってことか。だからって許容できることじゃない。
それに……
『まさかとは思うけど、携帯のアップグレードもしないつもりじゃないだろうな』
『うゆ……』
考えてたのか。
まったく、この子は。
『よーし、分かった。タイムがその気なら、今ここでアップグレードしてやる!』
『にゃ! だ、ダメだよ。ホントに消費電力が上がる――』
『すぐにヤバくなるようなレベルじゃないだろ!』
『そうだけど……、無理だよ。お金がないもの。携帯料金と違って、一括払いだけなの』
『そうか……』
だったら。
『最低いくら必要なんだ?』
『えっと……いくら?』
またタイムがなにかと話し始めた。
お、珍しくメモを取っているぞ。
いや、取らされているのか?
『んと、とりあえずCPUとGPUとRAMをワンランク上げるのに、下取り込みで2万9000円かかるって』
それが高いのか安いのか分からない。
でも必要なら突っ込むしかない。
『分かった』
そういうと、俺は立ち上がってタイムを椅子の上に下ろした。
タイムに微笑みかけ、それからエイルの方を向く。
『マスター?』
「エイル、少しいいか?」
「ん? なんなのよ」
「相談があるんだ」
エイルは振り返ると、ぎょっとした。
「な、なんなのよ」
俺はエイルに対して深々と頭を垂れていた。
「少しばかりお金を貸してくれないか?」
『マスター?!』
「突然なんなのよ」
「入り用なんだ。頼む!」
「……家族での金の貸し借りはダメなのよ」
そういうと、再び仕事に戻った。
俺を家族と思ってくれているのか?
それは嬉しい。嬉しいけど。
「どうしてもダメか」
「ダメなのよ」
まあ、家族だからでなくとも、昨日今日会ったばかりの奴から「金貸して!」と言われて、二つ返事で貸す奴も居ないか。
『わるい、嘘ついた』
そもそも他人任せとか、しまらないよな。
『ううん、気持ちは分かったから、もういいよ』
タイムを抱え上げて、椅子に座ってうなだれる。
仕方がない。アプリをインストールして狩りをして、地道に稼ぎますか。
ふうと1つ、ため息をついた。
「いくら必要なのよ」
顔を上げると、エイルは仕事をしていた。
聞き間違いかな。
「いくら必要なのよ、聞いてるのよ」
もう1度エイルを見ると、今度はこっちを向いていた。
聞き間違いじゃなかった。
「貸してくれるのか?」
「貸さないのよ」
貸してくれないのに、聞く必要なんてあるのか?
「……2万9000円」
「? いくらなのよ?」
「2万9000円だよ」
「〝円〟てなんなのよ?」
あれ? ここの通貨単位は〝円〟じゃないの?
『タイム、どういうことだ? 携帯の請求は〝円〟だったよな』
『うゆ? にゅー……分かり易いように〝円〟で管理。現地通貨とは随時レート交換して取り引きされるから問題ない……って』
「いいのよ、とにかく請求するのよ」
「請求?」
「身分証で必要な金額のよ、請求するのよ。金額を見てのよ、振り込むのよ」
「どうやるんだ?」
「携帯でのやり方のよ、知らないのよ」
「マスター、タイムがやります!」
タイムが手を挙げ、自信満々に宣言した。
「おう、分かった。任せる」
タイムがガマグチケータイアプリを起動した。
所持金は見事に0円。少しくらい持たせてくれてもよかったんだけどな。
……電子マネー?
現金じゃないのか。
考えてみれば、現金を借りられても、支払い方が分からなかった。
タイムがサクサクと操作している。
いつの間にこのアプリの使い方を覚えたんだろう。
なんとなく頭を撫でてやる。
「うへへ」
変な声を漏らすな!
「マスター、準備できたよ。後はタッチするだけー」
「ん、ありがとな」
ワシワシと頭を撫でてやると、のどを鳴らして喜んだ。
エイルの身分証に携帯でタッチする。
「……ま、いいのよ」
今度はエイルが身分証を携帯にタッチさせた。
「大事に使うのよ」
所持金を確認すると、2万9001円に増えていた。
なにこの1円は?
「貸してくれるのか?」
「貸さないのよ」
「じゃあ……これは?」
エイルはなにも言わず、仕事に戻っていった。
「なあ」
「うるさいのよ! 細かい男はモテないのよ」
「それ今関係ある?!」
黙々と仕事をこなすエイル。
どうしたものかと思ったが、まあ後で返せばいいか。
今は感謝しておけばいい。
「ありがとう」
エイルの背中に礼を言うと、左手で返事が返ってきた。
早速使わせてもらおう。
『じゃあタイム、手続きを頼む』
『……本当にいいの?』
『いいんだ』
『うにゅ、分かった』
CPUの換装ってどうやるんだろう。
……頭を開いて入れ替える?
それはグロいな。
そもそも開くのか?
ちょっと不安になってきた。
タイムが購入手続きをしている。
ネットショッピングまでできるようになっていたなんて、成長したんだなあ。ヨシヨシ。
「うなぁー」
目の前にメッセージウインドウが表示された。
「後はマスターが確定すれば終わりだよ」
[購入を確定しますか?]
[確定]っと。
これでいいの――
俺の意識は、そこで途絶えた。
スマホもPCみたいにカスタムできたら、買い換え周期も変わるのかな
防水性が無くなるかもだから無理か
次回はタイムに変化が?!






