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はぐれ者の超常殺し

三人称視点です。

 

 26時42分────新宿



 眠らない街の一画、地下のバー




 シックな装飾の店に客は疎らであった。サラリーマンと連れのキャバ嬢、そのサラリーマンよりも明らかに高値のスーツを纏う店の隅で酒を啜る独り身の中年男性。そして春を連想させる桜色のスプリングコートを羽織った男の四人であった。



 そこまで広くない店内で疎らと言うのも可笑しいが、静かな店内はそれを思わせる。そんな中に新たな客が一人訪れた。OLであることを思わせるパンツスーツ姿の茶髪の女……人間社会では佐藤花子を名乗る……淫魔ミスリーである。



 ミスリーは誰に言われるでもなくコートの男の隣に座した。狭い店だが、詰めて座るほど席が空いていないわけではないのに。



 「貴方が紫山しやまさん?」



 座るなり隣の男をゆっくりと見つめ、バーテンダーに軽くジントニックを頼むとミスリーがそう問いを投げる。紫山と聞かれた男は頭を傾げるようにして横にいる彼女を見た。まるで観察するように2、3度上下させると口をようやく開いた。



 「あ、どーも……そーです」



 気怠げな声、顎下まで伸びる長めの黒の直毛、その髪に隠れた鋭い目付きを宿した顔……風貌だけでなく、コート以外は黒いワイシャツに同色のスキニーパンツの彼のその格好も合わさり、陰鬱な雰囲気が漂う。紫山とはそんな男であった。



 「貴女が佐藤さんですね」

 「ええ」

 「この度はお仕事のご依頼、誠にありがとうございます……今回お仕事を頂いたのも何かのご縁……誠心誠意───」



 ぶつぶつと小さな声で定型文の様な謝辞を述べる紫山に軽くミスリーは頭を振る。



 「堅っ苦しいのはいらないわ」

 「あ、そうですか……折角覚えたんですけどねぇ……」



 そう言って紫山は頭をボリボリ掻いた。癖なのか痒いのかは知らないが、その頭からフケでも落ちてくるんじゃないだろうかとミスリーは不安視したが、別にそう言った類のものは辺りに散る事はなかった。



 「でもそう言って頂けるなら僕も楽で良い。早速本題に入りますが……お手紙で頂いた通り、ご依頼は貴女のボディガードということで大丈夫ですかぁ…?」

 「ええ、その通り」



 ミスリーは頼んだ酒が置かれると一口飲んだ。



 「ハッキリ言うなら火の粉払いの方が正しいけど。近く、取り引きを行う予定なの、大した内容じゃないけれど大切な取り引き。もし決裂すれば相手が私を殺そうとするのは確実、そんな時私を守り、彼らを殺してほしいの」

 「それは物騒な話ですねぇ……警察にでも行かれては?」

 「ふざけないで、それが出来ないから貴方に連絡を取ったのよ? ……元超常殺しの殺し屋さん」



 声を潜ませて告げると紫山は苦虫を噛んだ様な表情を見せた。



 「元……ではないです、厳密に言えば現在もそうですし。更に元々を辿れば封印術師です。ただ単に最近では普通の殺しも請け負っているだけですぅ……」

 「へぇ……超常に比べればただの人間を殺すなんて朝飯前でしょうに。奇態な人ね」

 「別に……仕事がなければそうするしかないでしょ……味気ないですが金が入るからやっているだけですぅ」

 「ではそんな貴方に朗報だわ」



 ミスリーは得意気に続けた。



 「もし交渉が決裂した場合、貴方の相手する者は半淫魔ハーフサキュバスと超常殺しの一人よ」

 「……ほう」



 答えは素っ気ないが、ミスリーは紫山が少しだけニヤリとしたのを見逃さなかった。



 「どう? 血が騒ぐかしら」

 「ええ、まあ常人を相手するよりかは何倍も」

 「それは良かったわ。けれどいいのかしら、相手の一人は貴方と同じ超常殺し(ルナティックハンター)、貴方達の所属する組合では同族殺しはご法度な筈だけど?」



 ミスリーの質問は正しかった。



 彼女の様に人を襲って生きる者にとって、障害となり得る超常殺しの決まり事や組合がある等の話は常識レベルの話しであり、勿論その話も事実であった。



 この紫山と名乗る男も超常殺し(ルナティックハンター)であるなら、その組合の規則に乗っ取らなくてはならない筈であるが……



 「心配ご無用でさぁ。誰も彼もが組合に入ってるわけではないんで」

 「あら、そうなの」

 「勿論。決め事も多いですし、中抜きもあるんで……納得いかないルナハンは専ら無所属ですよ、僕も含めてね」

 「ルナハン?」

 「ルナティックハンターの略でさぁ」

 「まんまね」

 「へへへ……センスなくてすんませんね。でも……無所属だからと言って実力が測れるもんでもないんでしからず」



 ヒンヒンと引き笑う紫山。普通の感性を持っている人間ならば不気味な人間だと怪訝に思いそうだが、そんな事もなくミスリーは続ける。



 「へぇ自信あるのね」

 「こう見えてもぼくぁ実力だけで今のネームバリューを手にした男ですよ……お客さんを満足させるだけの仕事はしますわ」

 「ふーん……実際どれだけの超常を狩ってきた?」

 「さてね……二十は越えますかね」

 「それならシルバーランクはあるかしら……」

 「かもしれないですね、あとルナハンは8人はやってますから慣れてますよ。6人はシルバーランク、2人はゴールドでした」

 「あらなに? 既にそれだけの同族殺しを行ってるのね」

 「あれ、お客さんもそれを知っていてコンタクトを取ってきたんじゃないんですかぁ?」

 「腕が立って、金さえ払えば超常の依頼でも受けてくれるルナハンってことで探しただけよ」

 「まじですか……まあでもなんでもいいですよ、僕には関係の無い話ですから。ってお客さんもルナハンって使ってるじゃないですかぁ……」



 その言葉にミスリーは笑った。



 「まぁなんでもいいわ……とりあえず今夜はこの出会いに乾杯しておきましょう。今回限りの関係にはなるでしょうが」

 「あ、どーもどーも……僕も今後リピート頂けるように頑張りますんで」



 そう言い2人はグラスを掲げた。


 今回コンタクトを取ったこの男、『紫山』の実力は如何程のものなのか……実際高過ぎる買い物であったが、その値段相応の働きをしてくれる事をミスリーは微かに願うばかりであった。




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